第34話 さよなら

カラは自分に向けて振り下ろさせる剣を躱しながら、どうにかラシウスの元へ行こうとしていた。

だが何度囲いを抜けても兵は立ちはだかり、まるで野良犬をいたぶるかのように追い詰めてくる。


「すばしっこいやつめ!!」

「剣より槍だ!!追い詰めてから一斉に串刺しにしろ!!」


カラは無表情のまま薄暗い空を見上げた。

周りを囲まれたなら、逃げ道はひとつしかない。

だがこれも兵達の誘いだ。

跳び上がったカラは、すかさず控えていた槍に肩を貫かれた。


「よし!!やったぞ!!」

「こっちに下ろせ!!すぐにとどめを!!」

「ん?なんだこいつ、血が出ないぞ?」


槍を抜いてもカラからは血が流れ落ちない。

不審に思っていると、真横から仲間の悲鳴が次々と上がった。


「な、何だ!?おわっ!!」

「あの妖刀だ!!ぎゃ!!」


ラシウスは手当たり次第カラを取り囲む兵を薙ぎ倒した。


「カラ!!」


ラシウスの声に、カラがむくりと体を起こす。

その口は何か言いたげにぱくと開いた。


「待ってろ!!すぐに行く!!」


何十といる敵に向かい、たった一人の手負いの騎士が左手一本で斬り込んでいく。

余りにも無謀であり、ものの数秒で捩じ伏せられるのが当然なはずなのに、光と風を巻き込みながら突き進むラシウスを止めることは誰一人出来なかった。

ファルジナは瓦礫から体を起こすと苛立たしげに埃を払った。


「まったく、利き腕ですらないだろうに恐れ入るね。隣国の兵を一人で二百も押し返したという噂も伊達ではないな。でも…」


その動きを見ればよく分かる。

ラシウスは猛進しながらも時々足元が不安定に揺れている。

限界ぎりぎりなのは確実なのだ。

ファルジナは銀色の瞳をにやりと細めると剣を握り駆け出した。


「こっちも立場上引けないからねぇ!!確実に勝たせてもらうよ!!」


加速をかけて回り込み、兵たちを一手に相手するラシウスの裏を抜けるとカラの元へと滑り込む。


「お前が、彼の最大のネックだ」


カラの襟首を掴み上げると、ファルジナは槍を持つ兵たちに思い切り投げつけた。


「串刺しにしろ!!」


ファルジナに絶対服従を誓う兵たちは、その声に機械的に反応した。

突然飛んできたカラに向けて一斉に槍を打ち放つ。


「カラ!?」


ラシウスが完全に気を取られたその瞬間、目の前で銀色の髪が舞った。


「さよなら、ラシウス」


ファルジナの剣がラシウスを捉え斜めに振り下ろされる。

同時に無数の槍がカラを貫いた。

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