第30話 闇の気配

近衛兵第十三部隊、通称死神部隊。

彼らにとってファルジナの命令は絶対だ。

重い鎧のまま海に沈めと命じても、迷わず誰もがそうするだろう。

故に相手が得体の知れない悪魔だとしても攻め込むことに迷いはなかった。


「カラ!!」


無心で食に徹していたカラがラシウスの声で顔を上げる。

大きな目に映るのは鋭く光る無数の剣。

カラは素早く飛び退くことでこれを避けたが、着地と同時に体がふらついた。

その動きが酷く鈍い。


「カラ、地下へ逃げろ!!」


さっきまで反応がなかったのに、カラはラシウスの声を聞き分けこっちへ来る素振りを見せた。

これにはラシウスよりヴィンセントが驚いて目を見張った。


「これは…いやそんなはずは。聖者の剣を取り戻そうとしただけか?」


すっかりすすけた剣をまじまじと眺めていると、ラシウスの左手が刃を掴んだ。


「これをカラに返せ!!」

「冗談。あの魔のメイスト家の剣なんだぜ?これは俺がもらってく。欲しければ力尽くでこいよっ、と」

「うっ!!」


わざとラシウスの右腕を狙い突き飛ばす。


「そしたら話くらいは聞いてやるさ」


地に崩れたラシウスに雄々しい笑みを残し背を向ける。

ヴィンセントは駆けて来たアムシェに剣を渡した。


「行くぞアムシェ。もうここに用はない」

「お、おい、だって悪魔は!?」

「あいつらが始末してくれるんだと。心配しなくても“本体”はここだ」


話しながら遠ざかって行く、二つの声。

兵の剣先に踊らされるカラ。

倒れたまま動かないレイドとゼナ。

全てを冷たく見下ろすファルジナ。


「力…」


ラシウスの瞳に翳りが差す。


「世の中、やはりそんなものか」


もはや痛みに朦朧とする意識の中で、唇が己を卑下するように引き結ばれる。

ラシウスは目を閉じると左手を固く握りしめた。


変化にすぐに気付いたのはファルジナだった。

淀むような空気の流れに、にやりと歓喜の笑みが浮かぶ。


「いいぞラシウス。やっとあのお方を呼ぶ気になったか」


濃く漂い始めた闇の気配は、瞬刻に遺跡中に広がった。

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