第29話 聖者の剣

カラの殺戮現場に辿り着いたヴィンセントは、ナブナバの側に転がる剣に目を止めると口笛を鳴らし近付いた。


「どれどれ」


気軽に手に取り、服の裾で剣の付け根を擦りつける。

薄らと現れた文字に目を凝らすと嬉しげな笑みを浮かべた。


「やっぱり。メイスト家の『聖者の剣』だ。名前が皮肉すぎて笑える」


刃先から滴る血を一振りで払い、遺体に齧り付くカラへと向き直る。

ヴィンセントは大股で近付くと何の気負いもなく剣を構えた。

ひと太刀で終わらせるつもりでカラを見据えたが、そこに邪魔が入った。


「…どけよ。何のつもり?」

「それは、こっちのセリフだ」


青い顔を硬らせながらも、カラを庇うように立つのはラシウスだった。

ヴィンセントは口角をつり上げた。


「あんた、あの人数の囚人相手によく生きてたな。酷い有様だけど」

「お前は一体何がしたいんだ。何故、カラを殺そうとする」

「カラ?ああ、アレのことか」


臓腑を食らう悪魔に、ヴィンセントは楽しそうに笑いだした。


「何だ、あんたまさかアレを可愛がっていたのか?ほらよく見ろよ。アレは人じゃない。感情どころか、血も涙もないただの殺戮道具だ」


ラシウスの目が剣呑に光る。


「違う。カラは…」

「ヴィンセント!!」


追いついてきたアムシェの声が遠くから届く。

つられて振り返った二人の周りを鉄の足音が取り囲んだ。

剣を抜く死神部隊を率い、ファルジナが前に出る。


「さて、そちらのショーは全て終わりかな?そろそろ待ちくたびれたからこっちも仕事を終わらせたいな」


銀色の瞳が冷たくラシウスを見下ろす。


「…メインは最後だ、ラシウス」


ファルジナはラシウスに向けた剣先を斜めに振り下ろし、無情に言い放った。


「悪魔を殺せ」

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