第28話 食

ラシウスは瓦礫に掴まりながらも何とか立ち上がろうとしていた。

右腕は燃えるように熱く、少し動くだけで激痛が走る。


「ゼナ…」


ゼナはぐったりと地に伏せ、見るからに辛そうな呼吸をしている。


「団長…」


背中の傷に加え酷い暴行を受けたレイドに意識はない。

ラシウスは深く息を吐くと足に力を込めて一歩を踏み出した。

カラを止めなければ、あの見境のない刃はゼナやレイドに向く可能性だってある。


「カラ。君は、そんなことをしなくてもいいんだ…」


カラは囚人を全て惨殺し終えると、最後にナブナバの前に立っていた。


「ひ、ひぃ!!やめろ!!こ、殺さないでくれ!!」


真っ青になりながら後ずさり、乾いた口が命乞いをする。


「こ、ここを出たら何でもする!!お前になんだってくれてやる!!だから…!!」


横一線。

ナブナバの顔に赤い刃が滑り込む。

そして頭、肩、胸、腹、腹腹腹。

カラの剣が何の躊躇いもなく太い体を滅多刺す。

情け容赦どころか、その刃には何の感情もなかった。

ただ偶発的な事故にでも巻き込まれたかのように、人が肉の塊になっていく。

それはまさに目を背けたくなる悪魔の所業。


ー…君が、あの子の全てを見てもそう言ってくれるなら本当に嬉しいよ。


ゼナの言葉が、赤く埋まる視界に割れたビー玉のように転がる。

だが彼が言いたかった本当の意味は、このすぐ後に思い知る。


連続した悲鳴やうめき声はなくなり、代わりに耳に届くのは生々しい水音と咀嚼音。

カラはナブナバの腹に顔を埋め、無心で臓腑を食べていた。

耳まで裂けた口を大きく開き、手で掻き出した心臓までもべろりと喰らう。

一人目が終われば、二人目。

二人目を喰い切れば三人目。

ぴちゃぴちゃと、あるいはガリガリと、ひっきりなしに音が鳴る。


頭では分かっていた。

カラは、人を喰うと。

それでもラシウスは目の当たりにしたその光景に、身動きひとつ出来なかった。

あれは、悪魔の子だ。


「うわぁ、想像以上にやばいやつだ」


茫然自失となる中で、こんな場に不似合いな軽快な声が降り注いだ。

瓦礫の上からひらりと飛び降りたのは、少し前に見た精悍な顔をした囚人の男だった。

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