第27話 血の雨

ゼナは痛みに朦朧としながらも、現れた小さな黒い影に悲しみを抱いていた。


(あぁ。来て、しまったか…)


これだけ彼のが揃っているのだ。

引き寄せられてしまうのは仕方がない。

ただ、ラシウスやレイドがこの場にいることだけが残念でならなかった。


「何だこのガキは!?一体どこから出てきやがった!!」


囚人達は血に染まる剣を引きずる子どもに騒然とした。

そのあまりにも不気味な姿に遺跡の噂が脳裏に浮かぶ。


「悪魔…か?」

「まさか!!ここまで小さなガキだってのかよ!!」

「だが噂通り剣を引き摺ってるぞ」


ラシウスは目の前に立つ小さな体に左手を伸ばした。


「…カラ、どうしてこんな所に!!」


話しかければ必ず振り向くはずの大きな目は、今は微塵もこちらを見ない。

ゆっくり囚人を眺めまわし、ナブナバに目を止めニタリと笑った。


「なっ、あ、あのガキを!!お前ら、あのガキも殺せ!!」

「で、でもあれは悪魔の…!!」

「いいからぶっ殺せ!!」


躊躇いを見せる囚人が動く前に、カラは駆け出していた。

いつもの緩慢な動きが嘘のように、振りかぶった長剣がとんでもない速度で振り下ろされる。


「ひ、ひぃ!!助けてくれ…ぎゃ!!」

「ナブナバさ…!!うがぁ!!」


容赦のない滅多刺しに、文字通り遺跡の中に血の雨が降った。

これには後ろを囲っていた死神部隊も騒然となる。


「ファルジナ様!!ここも危険です!!下がりましょう!!」


ファルジナは至極機嫌良く腕を組んだ。


「中々面白いじゃないか。さて、どうしたものかな」

「ファルジナ様!!」

「引きはしないよ。僕だって一応命懸けで来てるんだ。悪魔が現れたからには討伐しておかないと」

「ですがファルジナ様にもしもの事があっては…!!」


食い下がる鉄仮面を、きめの細かい白い手がよしよしと撫でる。


「僕に何も起こらないようにするのが君らの役目だ。ちゃんと命令に従うんだよ」


殺し文句で黙らせてからラシウスのそばに転がる妖刀を眺める。


「ふふ…。さっきはもう少しだったのにな。いつまで黙ってるつもりですか、ツキ様」


誰にも聞こえない呟きは囚人達の断末魔の悲鳴の中へと溶け込んだ。

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