第26話 ヴィンセントの探しもの

「ありゃ?なんじゃこれ」


持ち前の俊足で広い遺跡を見て回ったヴィンセントは、一度分かれたアムシェの元に急いで戻った。


「おーいアムシェ、こっちこっち!!」


ハイエナから逃げ回るのにくたびれ果てたアムシェは、もはや不機嫌全開で振り向きもしない。

ヴィンセントは気にした素振りもなく隣に並んだ。


「ちっと気になるもん見つけた」

「…悪魔じゃないのかよ」

「もしかしたら関係あるかも。まぁ、勘だけど。とにかくこっち来てくれよ」


有無を言わせず崩れかけている四角い石の建物へと友を引っ張り込む。


「なん…だ、この臭いは」


ひどい悪臭にアムシェが鼻を押さえる。

その原因は、当時は扉が取り付けてあったであろう縦穴の奥に広がっていた。


「ヴィンセント…これは」

「まだそこまで古くないよな。この遺体」


そこには遺体が三つ転がっていた。

だがその形状が何かおかしい。

アムシェは半目でその違和感を探った。


「…剣の傷があちこちにあるから、ハイエナではないな」

「でもここ見ろよ。こいつら腹の中が丸ごとない」

「死んだ後にハイエナが食ったってことか?」

「あの獣達が食い散らかしもせず腑だけ綺麗に食すか?大体あいつらが食うのは内臓じゃなくて肉だぞ」

「むぅ…」


確かに何かおかしい。

二人で唸っていると、室内でカタリと小さな音がした。


「何だ?誰かいるのか?」

「あの崩れた壁の中だ。ハイエナか?」


慎重に近づき低い石棚の向こうを覗き込む。

するとハイエナよりも大きなギョロリとした目と視線が合った。


「うわっ!!何だこいつ!?」


アムシェは飛び退いたが、ヴィンセントはまじまじとその姿を見下ろした。


「こいつ…」


汚れきった土色の肌。

痩せた小さな体。

パサパサの黒髪。

右手に持つ長剣。

そして顔にも体にも飛び散る赤い血。


「こいつが悪魔の子…か?」


ヴィンセントは物々しい姿の子どもにそっと話しかけた。


「お前、そんな所で何してんの?」


返ってくるのは数回の瞬き。


「あの遺体はお前がやったんだろ?」


子どもはヴィンセントから顔を背けると長剣の先に目をやった。


「あれ…?」


よく見れば長剣の半分は崩れた壁にめり込み挟まれている。

ヴィンセントはぷっと笑った。


「なんだ。それが抜けなくてこんな所に座り込んでたのかよ」


引き抜いてやろうとするとアムシェが慌てて止めた。


「や、やめとけヴィンセント!!」

「何だよ。困ってるなら助けてやらないと」

「未知との遭遇から友情の芽生えまでが早すぎないか!?襲ってきたらどうするつもりだ!!」

「そりゃ手加減はしないけどさ。見ろよ、こいつから敵意を感じるか?」


崩れかけた壁を丁寧に取り外し、挟まった剣先を引っこ抜く。

自由になった子どもは穴から外へ出ると、じっと南一点を見つめたまま動かなくなった。

ヴィンセントは面白そうに同じ方角に目をやった。


「あっちは今頃囚人達が暴れてる。お前もそういうの分かんの?」


話しかけながら振り返り、ぎょっとする。

さっきまで無表情だった子どもは毒々しい笑みを浮かべていた。

耳のそばまで口角は切れ上がり、濁った瞳が禍々しく光る。

長剣を引き摺り歩き出すと、その姿は忽然と消えた。

アムシェはごくりと喉を鳴らした。


「お、おい、ヴィンセント…。が無害なわけないぞ。関わらない方がいい」

「ふむ」


ヴィンセントは珍しく真剣に考え込んでいる。


「もしかして、あの剣…」


切長の目がきらりと光る。


「俺たちも行こう。悪魔の正体、分かったかも」

「なに?あ、おい、待てよヴィンセント!!お前気ままに走り出すのほんとやめろ!!」


アムシェは罵詈雑言を吐きながらも、仕方なく奔放な相方について行った。

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