第25話 舞い降りた悪魔

「さぁ、お前があの妖刀を拾え。但し、手は使うな」


ナブナバは大剣を引き抜き見せつける様にゼナの首に押し当てた。


「ほら、早くしろっ。犬みたいに這いながら咥えるんだよ。それとも先にこいつの首を落としてやろうか?ああ?」


ラシウスは屈辱に拳を握りながらも、強張った顔のまま膝をついた。

囚人達は美しい青年が見せるであろう無様な姿に沸き立ち、黒い炎が燃え上がる恐怖と期待に狂気じみた興奮状態に陥った。


「早く!!早くやれ!!」

「本当にあいつは燃えねぇのか!?」

「たまんねぇぜ!!おいナブナバ!!俺にあれを払い下げてくれ!!」


音もなく涙が伝ったのは、ゼナの頬だった。


「や…めろ…!」

「ぎゃっ」


指に噛みつかれたナブナバは怒りのままゼナを地面に叩きつけた。


「貴様!!今すぐぶち殺すぞ……ぐがはぁ!?」


狙い澄ませたかのようにナブナバの顔面に硬い拳がめり込む。

よろめきながらも強烈な一撃を喰らわせたのはレイドだった。


「はぁ…、は…ぁ、てめぇら!!俺の弟子とツレに…、はぁ…、手出してんじゃねぇぞ!!」


ボタボタと音を立てて背中の血が落ちる。

囚人達は思わず息を呑んだが、ナブナバは体を起こすと怒りの形相で吠え立てた。


「あの死に損ないをやれ!!殺せ!!殺せ!!殺せぇええ!!」


怒号に背中を押され、囚人達が一斉にレイドに襲い掛かる。


「団長!!」


騒ぎと共に押さえつけられていたラシウスは、自由を取り戻そうともがいた。


「離せ!!」

「ぐっ、暴れんじゃねえよ!!」

「おい、刀を持たれちゃ厄介だ。こいつの腕を今のうちにへし折れ!!」


男が一人ラシウスに乗り上げると、右腕を無理矢理後ろ手に捻り一気に力を加えた。


「うっ…!!」


湿気た枝が折れるような鈍い音と共に衝撃が伝わる。

ラシウスは激しい痛みに奥歯を噛み締め、玉のように落ちた汗が床に跡をつけた。


「次は左だ」


同じ要領で今度は左腕を捻り上げられる。

次の衝撃に耐えようと無意識に唇を噛んだが、突然ラシウスを押さえつける手が全て離れた。


「ぎゃ!!」

「なん…がはっ!!」

「ぐぼっ…!!」


目の前で数人の男が倒れ、音もなく血溜まりが広がっていく。


その赤色に、裸足が降り立った。

床を引きずるのは、古めかしく長い剣。

見覚えのありすぎる小さな姿に、ラシウスの目が大きく見開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る