第23話 出来れば君と
レイドは鬼神の如く猛威を振るったが、やはりこの圧倒的人数差では全てを防ぎ切る事は不可能だ。
背後から回り込んだ囚人たちは直接ラシウスを狙ってきた。
「ラス!!いけるか!!」
「はい!!」
応えるものの、ラシウスが握るのは鞘に収めたままの妖刀だ。
加えてすっかり痩せた体ではとても対応できる様には見えない。
一斉に飛び掛かられたラシウスに、ゼナはひやりとした。
「ラシウス!!」
戦えもしないのに思わず杖を握りしめたが、ゼナが目にしたのは次々と崩れ落ちる囚人だった。
「え…」
目を見張るほど鮮やかな剣術で敵を打ち抜くラシウスは、それでもかなりの苛立ちに顔をしかめていた。
「…はぁ。くそっ、身体が思う様に動かない!!」
八つ当たり気味に囚人を踏みつけ、襲いくる敵を絡め取りながら叩きのめす。
レイドが苛烈な剛の剣なら、ラシウスは俊烈な柔の剣だった。
「強い…」
ゼナはごくりと生唾を飲んだ。
激しく舞うラシウスの左耳では、日の光を白く反射するプラチナピアスが目を引いた。
後に知るが、それは団内でも屈指の騎士が選ばれるゴールド
相手が何人いても押し返しそうな勢いだったが、ラシウスの息は既に上がっている。
体力がないのは当然だ。
彼はつい最近まで寝たきりだったのだ。
「次の突破口は僕が考えないと…」
ゼナは杖の銀輪を見上げたが、ふとその先の石橋で動く人影に気付いた。
「何だ?何であんな所に囚人が…」
言いかけてすぐにハッとする。
石橋には沢山の瓦礫が寄りかかっており、囚人の男達がそれに手をかけている。
真下にいるのは、ラシウスだ。
「ラシウス、上だ!!」
風を纏ったゼナが全力で飛び出すのと、崩された瓦礫がラシウスに降り注ぐのはほぼ同時だった。
「うっ!!」
ラシウスは側面からゼナに突き飛ばされ地面に手をついた。
轟音と共に砂煙が舞い、囚人達も何事かと動きを止める。
目の前には山の様に瓦礫が積み上がり、地面には長い杖が転がっていた。
「ゼナ!?」
瓦礫の隙間から見覚えのある手が見える。
ラシウスは顔色を変えると刀を帯に差し瓦礫に両手をついた。
「待ってろ!!すぐに出してやる!!」
動かせる物を片っ端から退けるとゼナの上半身が出てくる。
だが左足を縫いとめている大岩とも言える石柱のカケラは、渾身の力を込めてもビクともしなかった。
「ぐっ、この!!」
「ラシ…ウス、うっ…」
ゼナは痛みに脂汗を浮かべながら、懸命に顔を上げた。
「僕は、いいよ。…行って」
「何を言ってるんだ!!どうして、どうして俺なんかを庇って…!!」
ゼナの唇が少しだけ笑みを浮かべる。
「これで、…き、君を突き落としたこと、少しは埋め合わせできた…かな」
思わぬ事を言われ、ラシウスは目を見張った。
「ごめんね。出来れば君と、友だちに…なってみたかった、けど」
「ゼナ…」
「早く、行って」
ゼナの体から力が抜ける。
ラシウスは妖刀を掴んだ。
柄に巻かれた呪符に手をかけ、一息で破り去る。
「…置いてなんか、いけるはずないだろ」
風の抜ける刹那に、ラシウスから仄暗い気配が濃厚に溢れだした。
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