第22話 醜悪な囚人

死神部隊に追い立てられていた囚人たちは、ラシウスの手にする妖刀に気付くと怒涛の勢いで飛び掛かってきた。


「呪符が巻かれた刀!!あれだ!!」

「あれは俺が見つけた!!俺のもんだ!!」

「馬鹿が!!俺が貰うに決まってるだろうがぁああ!!」


レイドはカッと目を開くと、自ら前に飛び出し腕に筋を立て大剣を振りかぶった。


「うぉおおおお!!!」


ラシウスに手を出そうとした四人の腕や腑が赤い雨と共に方々に散らばる。

一撃にして人の形を欠損した男達は力無く崩れ落ちた。

血の剣を構えた巨漢は愕然とする周囲に追い討ちのごとく大声で吠えた。


「俺は辺境地の守護神、ロドディア騎士団団長レイド・マイクナー・ソル・エデンカ!!この名に挑む者は相応の覚悟で来い!!」


見せつけられた本物の気迫に男たちが青ざめる。

誰もが無意識に半歩足を引いていた。


「ひ、ひぃ…」


一番遠目にいた囚人が逃げ出そうとしたが、その胸を背後から迫る鉄の兵団が剣で貫いた。


「ぐぼっ!!」

「何をしてる。そこに妖刀があるのならさっさと奪いに行かぬか!!」


囚人たちは再び追い詰められると、ラシウスに向かって死に物狂いで駆け出した。


「ど、どうせ死ぬなら最後のチャンスに賭けてやるぜ!!」

「誰でもいい!!赤髪を殺せ!!」

「うわぁあああ!!」


大半が捨て身であったが、その中で悪党面をべったり貼り付けた醜悪な囚人が不敵な笑みを浮かべていた。


「へっ、脳なしどもめ」

「ナブナバさん!!止まってたら死神兵に串刺しにされちまうぜ!!」

「ケッパ。俺たちはこっちだ。お前ら全員ついて来い」


ナブナバは大きな体を揺すりながら部下を引き連れ、騒動から少し逸れた瓦礫の中へと消えていった。


優雅にことの成り行きを眺めていたファルジナは面白そうに唇に指を添えた。


「ほんとにラシウスは生きていたのか。さて、彼は何処まで我慢できるかな」


側近である鉄仮面は逆にハラハラと前方を伺っている。


「ファルジナ様、ロドディア騎士団長は厄介です。ここは囚人共に頼らず我々も…」

「まだいい。最悪囚人を使い切ってからでも遅くはないよ。出来るだけ近衛兵が騎士団長を殺したという事実は作りたくないしね」


もしそんな話が世間に漏れれば、立場が悪いどころの話ではない。

ファルジナ自身は歯牙にも掛けないが、直属の上司であるケリー大佐の怒りを思うとどうにも無視はできない。


「まぁ、まだ少し囚人共のお手並み拝見かな。ほら、死刑囚のナブナバも動き出したみたいだ」

「ナブナバ…ですか」


鉄仮面の声が渋くなる。

ナブナバといえば地下の賭博場で女や子どもの肢体を切り捌く“ショー”で荒稼ぎしていた極悪人だ。

未だ調査中ではあるが、明るみに出た遺体も二十は超える。


「あいつはとんでもない豚野郎です」

「そう?僕とあまり変わらないと思うけど」

「とんでもありません!!ファルジナ様は美しき我々のメシア!!あんな下衆野郎と並べるだけでも我慢なりません!!」


意気込む側近に応える様に浮かべられた麗しの笑み。

だが銀色の瞳だけは妖しく煌めいている。


「さぁ、僕たちももう少し近くへ行こうか。もしかしたら今日はあの方にお会いできるかもしれない」

「あの方?」

「僕の…永遠の憧れの君さ」


どこか夢見がちに囁くと、ファルジナは死神部隊に紛れて前線へと足を向けた。

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