第18話 死神部隊と囚人

早朝から城を抜け出したアントワは、決死の思いで手綱をとり友の元へ駆けていた。

先に連絡を送る暇もなく、彼が今拠点にしている宿へと直接殴り込む。

迷惑そうな宿主を振り切り部屋の扉をノックすると、熊のような大男がすぐに顔を出した。


「アントワ?どうしたこんな朝早くから」

「レイド!!動きが出たぞ!!遺跡に向かうのは近衛第十三部隊だ!!」

「何…?」


レイドは顔を引き締めるとすぐに荷を取り、宿主に金を押し付け外へと飛び出した。


「アントワ、詳しく教えてくれ」

「二時間前に囚人が大量に連れ出された。引き連れたのは死神部隊の隊長ファルジナだ」

「ファルジナ…」


瞬時に蘇るのは畝る銀髪。

そして同じく銀に近いグレーの瞳をした男。


「あのサド野郎か」

「囚人達は命懸けのトレジャーハントに駆り出されたようだ。モノは伏せられていたが、これはもしや君の言う妖刀の事ではないのか?」


まだ息を荒げながら言う友に、レイドは力を込めてハグをした。


「間違いねえ!!よくぞ知らせに来てくれたぜ!!」


アントワは力の強い友を引き離し、苦笑を浮かべた。


「俺だってラシウスを見捨てたいわけじゃないさ」

「分かってる。お前はお前の仕事をしただけだ。俺はすぐに遺跡に向かう。悪いがひとつだけ頼まれごとをしてくれないか」


レイドは二、三言付けると、互いの立場を考慮しすぐに別れた。

アントワの馬を借り、荒野へ向けてとばしながら東の空を見上げる。

夜明けは近く、雲がこびりついたオレンジ色の膜は徐々に明るくなっていく。


「ゼナ…」


ゼナは昨日町に顔を出したばかりだ。

となれば今日は確実に遺跡に引き篭もっているはずだ。


「お前も、無事でいろよ」


町と荒野の境界線であるいつもの石垣を跳びこえると、大量の男達が荒野を縦断している姿が見えた。


「あれか!!」


上から下まで鎧を着込んだ兵達が、見るからに質の悪い囚人を何百人と引き連れている。

その一番前で馬に跨るのは、記憶に違わぬ銀髪の青年だ。

レイドは馬に鞭をくれると迷わず青年の隣につけた。


「ファルジナ!!おい、ファルジナ!!この集団を止めろ!!」


ファルジナは一応目を見張って見せると、にこりと笑った。


「おはようございます。レイドさん。誉れ高いロドディア騎士団の団長様にこんな所でお会いできるだなんて光栄だなぁ」

「ふざけてねぇで遺跡へ行くのはやめろ!!」

「何をおっしゃいます。これは私の仕事であり、貴方にそんなことを言う権限はないはずですが?」

「とぼけんじゃねえ!!ラスは…ラシウスはまだ生きてる!!下手にちょっかいかけんじゃねぇよ!!」


ファルジナの冴え冴えとした瞳が光る。


「…なんですって?」

「ラシウスに見張りをつけていたのだろうが、あいつは遺跡の底でまだ生きてる!!もう少し待てば必ず悪魔を仕留めて戻ってくるんだぞ!!」


半分はハッタリだが、今は囚人を引き連れたこの死神部隊を止めるのが先だ。

だがファルジナは顎に手を添えると面白そうな三日月目になった。


「そうですか、彼が生きていると。これは妖刀を奪う前に神秘の力が拝めるかもしれませんね」

「なに…?」

「生きていたならそれで結構。彼を暗殺するのにあの遺跡はもってこいですからね」


レイドは痛烈な舌打ちをした。

分かってはいたが話の通じる相手ではない。

こっちに手勢があるならまだしも、力尽くで止める事も不可能だ。

ファルジナは更に挑発的に口角をつり上げた。


「今まで散々ラシウスを守ってきたのでしょうが、今回は諦めた方が賢明ですよ。僕は仕事を振られた以上妖刀を持ち帰るまで、つまり彼を殺すまで引く気はありませんから」


銀色の瞳には微塵の迷いもない。

これ以上の問答は時間の無駄だった。

レイドはファルジナから離れると、馬の速度を上げた。


「ゼナ、頼む。俺に気付いてラシウスの所へ案内してくれ…!!」


祈る思いで風を切り、迫る遺跡に勢いのまま飛び込んだ。

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