第15話 妖刀『繊月霈然』

レイドは今日も城まで足を運び、あの理不尽な命令の元を一人探っていた。

伝令として遣わされたアントワを捕まえるも、やはり彼も上から命令されただけで詳細は知らない。

思った通り、王の名が焼き込まれた正式な命令の割に出所が不透明なのだ。


「くそ。誰かが糸を引いてるはずなんだ」


いつもの町外れの石垣で焦燥を漏らす。

毎度相談…というよりは愚痴の相手をさせられているゼナは、呆れて肩をすくめた。


「そんな面倒なことをわざわざ探らなくても、いっそのことラシウスと二人で国外へでも逃げればいいのでは?」

「無駄だ。ラスがあの妖刀を持つ限り国は全力でそれを阻止してくるはずだ」

「妖刀…?あの彼の腰にある奇妙な呪符がついた刀ですか?」

「ああ」


かぶり込んだフードの中で当然の疑問がくるりと回る。


「では、その刀を捨てればいいのでは?」

「それが出来ればあいつも苦労はしないさ」


レイドは忌々しい舌打ちをすると声をひそめた。


「あまり大きな声では言えん話だが…お前口は固いほうか?」

「え、さぁ…?ただ、僕は話を共有する人なんてものはいないので、おそらく大丈夫かと」


至極真面目に言う青年にこそ疑問はあったが、今はそれを飲み込み話を進める。


「数年前、わけあってラスはあの刀に取り憑かれた。長い間持て余され蔵に封じられていたとはいえ、あれは元々国の所持する宝刀だ。当時は使い手に選ばれたラスを巡り大騒動になった」

「城に囲われそうになったのですか?」

「まぁそうだ。一言で囲うと言っても酷いものだぞ」

「酷いもの?」

「命を狙われることもあった」


あまり楽しい話ではなさそうだ。

レイドも分かっていてそこは伏せた。


「見かねた俺があいつをロドディア騎士団に引き抜いて一件落着、だったんだが…」

「まだ何かあったのですか?」


青年が瞬きをしながらレイドを覗き込む。

石垣の上に腰掛けていたレイドは器用にあぐらをかくとそこに頬杖をついた。


「ついひと月前のことだ。隣国ヘイデルナが国境を超えてくる事件があった」


長年遺跡に住む青年には、ことの重大さがいまいち把握し辛い。

小首を傾げて先を促す。


「完全な不意打ちだった。言いがかりのような抗議文を盾に、それなりの兵をぶつけてきやがったんだ」


あそこで食い止められなかったら、間違いなく戦は唐突に始まっただろう。

ロドディア騎士団は追い詰められながらも懸命に応戦し援軍を待った。

待つだけ、無駄であったが。


「今、国は援軍を寄越す体力すらないほどに衰退している。いよいよ駄目かと腹を括ったその時だ。ラシウスが…俺たちの前で初めて妖刀を抜いた」


話の先を予見したゼナは、左手に握る長い杖に力を込めた。

棒の先を飾る、三つの銀輪の装飾がシャラリと揺れる。


「まさか…、彼が一人で?」

「そのまさかだ。俺もこの目で見てなければ信じられなかっただろう。たった一人の騎士が、二百以上いた兵を叩き返す光景なんてな」

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