第11話 相談役

レイドは青年から手を離すと苛立たしげに頭をかいた。


「なんて事だよ、こんちくしょうめ」


勅命は遂行しなければ法に殺される。

悪魔を殺すことだけが、ラシウスが唯一生き残れる手段なのだ。


「おい、お前。名は何と言う」

「僕ですか?」


凄むように言われ、青年は躊躇いながら顔を上げた。


「…ゼナ」

「よし、ゼナ。お前の言いたいことは分かった。だがな、こっちにもちょっとばかり事情ってのがあるんだ」


ゼナは左手に持った、杖にしては長すぎる棒をトンと地面についた。


「何を聞いても僕の意見は変わりませんよ?」

「まぁ待て。人生白か黒で片付けられん事もある。ラスに何があったのかは分からんが、あいつが動けるようになるまでにこっちも打つ手を考える。だから…」


レイドは真摯な目で青年を見つめた。


「ゼナ、それまではお前が俺の相談に乗ってくれないか」

「はぁ?」


予想外の頼みに、ゼナの目が丸く開く。

次いで盛大に吹き出した。


「あはははっ。あぁ驚いた。まさかそうくるなんて、おかしな人だ」

「俺は大真面目だぞ」

「言いたいことは分かりますよ。彼の…ラシウスの為に僕と繋がっておきたいのでしょう?」

「ぬ…」


図星を突かれたレイドが気まずそうに無精髭を撫でる。

ゼナは顔の大半を隠すフードを取ると、困り顔の大男を見上げた。


「いいでしょう。彼が回復するまで、定期的に貴方に会いに来てあげます」

「本当か!!」

「はい。それがラシウスへの詫びということで」

「詫び?」

「こちらの話です」


優しく細められた碧眼を、柔らかな金髪が縁取る。

身なりさえ整えれば貴族階級にいても不思議ではない青年に、レイドは更に疑惑の念を持った。


「お前は、一体…」


ゼナは人差し指を唇に当てるだけで全ての詮索を跳ね除ける。

なんとも不思議な青年だ。

雲をつかむような思いだが、レイドは腹を括りゼナを信じることにした。

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