第10話 レイドの焦燥

「だから、一人で遺跡へ向かったはずなんだ!!本当に見かけなかったのかよ!!」


たまたま下町の警備に当たっていた兵に、噛み付かんばかりに詰め寄るのは元騎士団長レイドだ。

鍛え抜かれた肉体も、男ぶりを発揮する彫りの深い顔も、今や怒りと焦燥に駆られ気迫に満ち満ちている。

こんなおっかないものに捕まった哀れな警備兵は、顔面蒼白になりながらも首を横に振った。


「そ、その時々で見張りが変わりますので、我々に聞かれても…」

「この数日で荒野付近を警備していた兵全員に聞いて回れ!!赤みを帯びた髪の騎士を見かけなかったかとな!!」

「そんな無茶な!」


レイドの手から離れると、兵は転がるように町へと逃げて行った。


ラシウスが消えた朝、レイドはすぐに遺跡へと追いかけた。

だが荒野には獣が多く、辿り着いた遺跡も広すぎる上に一人ではとても長居できない難所だった。

無茶を悟り、どうか引き返していてくれと願いながら一週間。

都と遺跡を行き来するも、これといった手がかりはひとつも得られなかった。


「くそ。何処へ行ったんだ、ラス!!」


荒野が見渡せる石垣に座り込んでいると、長いローブにフードをかぶった青年が音もなく隣に立った。


「彼なら心配ないよ」

「あん?」

「今は遺跡の地下で眠っている。でも元気になればきっと帰ってくる」


レイドは鋭く目を細めた。


「…それはラシウスのことか」

「彼の名前は分からないけれど、貴方が探しているのは赤い髪の綺麗な顔をした騎士なのでょう?」


石垣から飛び降りた巨漢は、ローブの上から青年の肩を掴んだ。

碧眼の柔らかな眼差しが面白そうにレイドを見上げてくる。


「余りにも大声で触れ回るから調べてみたけれど、貴方はロドディア騎士団の団長様だそうですね。貴方達はカラを殺しにきたのでしょう?」

「カラ?」

「僕が名付けた、悪魔の子どもです。あの子はカラなので」


レイドはやっと掴んだ情報を逃すまいと、青年の肩に置いた両手に力を込めた。


「俺が聞きたいのは、ラシウスの状況と、お前が何者かということだ」

「僕が言いたいのは、彼が戻ってきたら、二度と遺跡に来ないでということです」


重ねるように青年が言い返す。


「今、彼を助けているのはカラだ。それでも貴方たちは、カラを殺しに来るのですか?」

「い、いや、ちょっと待て。だから何故そうなったのか状況が分からんとだな」

「彼はここへ返す。貴方達は遺跡へ近づかない。それだけのことですよ。お約束頂けないなら彼はあのまま遺跡に閉じ込めておきますが」


人を侮らせる童顔がにこりと笑う。

だがその目は微塵も笑ってなどいない。

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