脱却② 認知療法の進め方
前回は超自我を中心に僕の心的状態について語った。
超自我とは心のなかの親の役割をもつ自己であり、自分を厳しく叱咤したり、優しく激励するものである。
しかし、愛着の形成時期に、不条理に親に叱られてばかりいると、ただ自分を責め立てる超自我になってしまい、それが自分を苦しめるようになる。
メンタライゼーション理論では、それを「よそ者的自己」と呼ぶ。
最後に僕は、よそ者的自己を「自動思考」に似ていると述べた。
自動思考とは、ある刺激に対して自動的に浮かび上がる思考のことで、「認知療法」と呼ばれる心理療法では自動思考にはたらきかける。
今回は認知療法について語っていこう。
認知療法とは、先ほど自動思考にはたらきかける心理療法と述べたが、それは狭義の認知療法である。
広義の認知療法とは、その名の通り、人の認知にはたらきかける心理療法であり、論理情動療法と呼ばれる技法や自己教示訓練法も認知療法の一つである。
では、なぜ狭義の認知療法を単に認知療法と表したかというと、現在では論理情動療法や自己教示訓練法は「認知行動療法」と呼ばれる括りに含まれるようになったからである。
つまり、かつては単なる認知療法と認知療法という括りがあったが、認知療法と認知行動療法が別の概念となり、単に認知療法と表しても
もちろん、認知療法は認知行動療法のなかに含まれる。
では、認知療法について詳しく説明していこう。
認知療法はアーロン・ベックという精神科医が創始した心理療法である。
そして、自動思考にはたらきかける心理療法であると述べた。
人は成長にしたがって、「スキーマ」と呼ばれる思考や行動の枠組みを形成する。
このスキーマは発達心理学でいう「シェマ」と同義であり、最近の言葉だと「マインドセット」によく似ていると僕は考えている。
自動思考はスキーマに基づいて発生する。
つまり、自動思考はよそ者的自己と同様に、発達の過程で形成されるものなのである。
それでは、認知療法の進め方について説明しよう。
認知療法は主に紙やワークシートなどに記述することによって効果を発揮する。
頭のなかでノートを作ることはオススメしない。考えすぎてしまう人はそうすることによって永延に考えを
認知療法は以下の順番で進んでいく。
①出来事
②自動思考
③感情
④思考の根拠
⑤思考の反証
⑥思考の訂正
⑦結果の感情
これだけではわかりづらいため、一つずつ解説していこう。
まず「①出来事」について。
これは嫌な感情や自動思考を発生させる出来事を特定する。
たとえば、上司に怒られる、や、友だちとケンカする、仕事に失敗する、などである。
とにかく嫌な出来事を特定するのだ。
僕の場合は、何もしていないときがこれにあたる。
ただし、それだけでは情報不足であるため、もっと詳しく記述するといい。
たとえば、朝起きたときは確実に「何もしていない」。だから、朝起きることを出来事として捉える。
次に「②自動思考」について。
ここでは嫌な出来事によって浮かび上がる思考を特定する。
これはセリフのように書き出すといい。
たとえば、「お前は非常にダメなやつだ」や「お前には魅力がない」といった、自分を責め立てるような言葉が多い。
前回僕が書いた「お前が全部悪いんだ!」も自動思考にあたる。
「③感情」
ここでは嫌な出来事や自動思考から現れる感情を特定し、数値化する。
怒り80点、悲しみ90点、恐怖75点といったふうに記述する。
このとき、感情は複数でもいい。
僕の場合、ひどいときだと、(自分への)怒り90点、悲しみ90点、恐怖80点、罪悪感85点といったところである。
ちなみに、出来事と自動思考と感情は3つでセットだ。
嫌な体験をしているとき、その出来事や思考を自覚していないこともある。
そのため、まずはこれら3つのわかるところから特定していくといい。
なんか嫌だなぁと感じたら、何の出来事がきっかけか、心のなかの自分に何と言われているか、あるいはどんな感情をもっているか、これらどれかをまず特定する。
一つを特定したら、この感情を生じさせた出来事や思考は何だろう? この自動思考はどんな出来事によって生じるのだろう? と、逆方向に考えていこう。
次に「④思考の根拠」である。
ここでは自動思考を支える根拠を記述する。
たとえば、「お前はダメなやつだ。
僕の場合は、「お前が悪いんだ。なぜならば、お前があんなことをしていなければ、こんな状況には陥らなかったからだ」となる。
ちなみに、この根拠は自動思考の時点で含まれていることもある。そのため、根拠をどうしても思いつかないとなったら、自動思考を観察してみるといい。
「⑤思考の反証」
ここでは、自動思考に反論する証拠を突きつける。「異議あり!」みたいな感じで。
自動思考とは、名前の通り、自動的に浮かび上がる思考だ。
だから、その「セリフ」には冷静さがない。つまり、ほぼ確実に穴がある。
反証では、その穴を突くのである。
たとえば、「
また、自動思考が「お前」と呼ぶのに対して、反証では「君」と自己を代名するのも効果を上げてくれるだろう。
僕の場合は、「でも、この状況を作ったのは全部君であるわけではないし、悪気があってしたわけじゃないよね」となる。
自分で自分を擁護するなんて……と思う方もいるかもしれないが、認知行動療法ではとにかく行動あるのみである。
事の是非はまず置いておいて、今は記入事項を埋めることに最善を尽くそう。
「⑥思考の訂正」
ここでは自動思考を合理的な思考に置き換えるトレーニングを行う。
といっても、やることは⑤思考の反証の延長である。
たとえば、「『お前はダメなやつだ』と私は思ったけれど、成功することもあるし、人の役にも立っているよね」と記述する。
ここで
こうすることによって、思考が単なる思考であり、事実ではないことを確認することができる。
僕の場合は「『お前が悪いんだ』と私は思ったけれど、全部が全部僕のせいというわけではないし、そもそも悪気があったわけでもないよね」となる。
最後に「⑦結果の感情」である。
ここでは、これまでのワークを通して、感情の強さがどのくらい変わったかを評価する。
やり方は③感情と同じで、怒り40点、悲しみ50点、といったふうに記述する。
僕の場合は、怒り30点(-60)、悲しみ60点(-30)、恐怖50点(-30)、罪悪感20点(-65)といったところである。
このように、どのくらい変化したかも一緒に記述すると、効果が上がるかもしれない。
いかがだったろうか?
もしこれを読みながら認知療法を実践したという方がいれば、結構心が軽くなったのではないだろうか?
僕自身も、これを書き始めた頃は重い気持ちだったが、認知療法の進め方を書いているうちに気持ちが楽になった。
ちなみに、これは一度やるだけで一気に改善するというわけではない。
薬と同じように、嫌な気分になっては認知療法を繰り返していくうちに、徐々に思考が変容していくのである。
最後に僕の認知療法ワークの全容を挙げよう。
①出来事:朝起きる
②自動思考:「全部お前が悪い」
③感情:怒り90点、悲しみ90点、恐怖80点、罪悪感85点
④思考の根拠:「お前が悪いんだ。なぜならば、お前があんなことをしていなければ、こんな状況には陥らなかったからだ」
⑤思考の反証:「でも、この状況を作ったのは全部君であるわけではないし、悪気があってしたわけじゃないよね」
⑥思考の訂正:「『お前が悪いんだ』と私は思ったけれど、全部が全部僕のせいというわけではないし、そもそも悪気があったわけでもないよね」
⑦結果の感情:怒り30点(-60)、悲しみ60点(-30)、恐怖50点(-30)、罪悪感20点(-65)
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