暗号
これまでのエピソードに、僕の気分には波があると書いただろうか?
もはや僕は何を書いたかを細かくは覚えていない。
とにかく、僕の気分には波があるのだ。そして、今は落ち込んでいる。
気分が上がっているときは問題はない。
そのときは正常にアルバイトもできれば、本も読めれば、執筆もできる。
しかし、気分が落ち込んでしまうと、途端に僕は人を求めるようになる。
愛する人を求めてしまうのだ。いや、愛してくれる人、あるいは助けてくれる人を求めると言ったほうがいいだろう。
具体的にどうするかというと、ポエムをSNSに書く。
ポエムといっても、僕の言葉で書くわけではない。偉人や架空の人物の言葉を引用するのだ。
それもただ引用するのではなく、暗号にして書く。
僕が用いる暗号は至極簡単なものだ。
それはシーザー暗号と呼ばれ、元の文の各文字を辞書順で3文字文シフトして文を書く。
辞書順というのはつまり、英語ならアルファベット順、日本語なら五十音順のことである。
ところが僕はさらに簡単にして、文字を1文字分しかずらさない。しかも前にずらす。
たとえば、「りんご」なら「らをげ」、"apple" なら "zookd" といったふうに暗号化する。
蛇足かもしれないが、「り」を1文字前にずらすと「ら」になり、"a" を1文字前にずらすと ("a" の前には文字がないためアルファベットの最後に飛び)、"z" となる。
なぜこのような回りくどいことをするかというと、2つ理由がある。
1つは実際に僕が落ち込んでいることを悟られづらくするため。
もう1つは、暗号を解いてまで僕に関心を寄せる者こそが信用に値する人物だと僕は考えているためだ。
どうして自分の心境を悟られないようにするかというと、僕の心配をしないような人々に弱みを見せても何の意味もないからである。むしろ、面白がってくるかもしれない。
しかし、暗号化すれば、「なんだこれ? ま、いっかー」と特に気に留めることなくスルーしてくれる。
次になぜ僕が信用できる人物を求めているかというと、ここ最近の出来事から以下のような教訓を得たからである。
「助けを求めても、誰も助けてくれない。ただ自分の力で道を切り開くしか道はない」
僕は自分の不安に耐えられなそうになったとき、多くの友だちや家族に助けを求めた。しかし、助けてくれなかった。
みんな自分のことで精一杯なのである。少し仲良くなったくらいの命はさして重要ではないのである。
だから助けを求めても助けてくれない。というか、助けることもできないのである。
この僕に対して友だちや家族は何ができるだろうか?
おそらく僕が求めるのは、そばにいることと抱きしめてもらうことだ。
まあ、後者は不可能だろう。好きにならなければ抱きしめたいと思うことはない。
でも前者ならできそうだ。このご時世でなければ。
このコロナウィルスというのは、医学的な問題にとどまらないらしい。
これは以前から言われていたことだが、人間間の壁が重大な問題を引き起こしている。
もし軽く飲みに行けるような時代だったら、この僕はもう少し安心できていたかもしれない。
話は逸れたが、とにかく僕は僕の命を見捨てないような人を求めているのだ。
わがままだろうか? 大いにそう言えばいい!
僕は独りが怖いのだ。ひとりぼっちは嫌だ!
だから僕は暗号を書くしかないのである。
そしてそれをここに書くのは、君らが僕の言うことをある程度理解できる脳をもっていることを期待しているからだ。
さて、君らには理解できたかい?
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