番外編 お礼参り (公爵家当主視点)
「……数日前はご助力、本当にありがとうございました」
そんな声が響いたのは、客間でのことだった。
目の前の老人、コルクスは前にある膝ほどの机に頭がつきかねないほど頭を下げて告げる。
「公爵家当主たる、アウグリス様のご助力がなければもっと事態は複雑となっていたでしょう。それを考えれば、本当にどう感謝しても足りないほどです」
そう私、アウグリスに告げるコルクスに、私は思わずに苦笑していた。
相変わらず、低姿勢なことこの上ないと。
しかし、その笑みはすぐに安堵の笑みへと変わった。
「気にすることはない。今回の件に関しては、私も自分が手を出したかったから手を出したに過ぎないのだから」
そういいながら、私の頭に浮かぶのは、目の前のコルクスに勝るとも劣らない不器用さを持つ若者達だった。
「あの二人、マーシェルとアイフォードが少しでも良き人生を送れるのならば、あの程度の協力など何の問題もない」
そういいながら、私の口にはどうしようもなく厄介な若者達へと向けた苦笑が浮かんでいた。
あの二人は、本当に仕方ないほどに不器用な二人組だった。
お互いに、相手のためならなにしても守ると決めていて、その実虐げられて妙に達観した二人は理解しているのだ。
……これは自分のやりたいことで、相手への押しつけでしかないと。
故に自分がやったことを相手の強制としか思えず、故に互いを思い合いながら傷つき合う。
痛いほどお互いを大切にしていて、なのに相手が自分と同じことを思っているなんて想像もしていない。
それ故に、どうしようもなく空回る。
それを私は間近で見てきた。
常に、アイフォードのことを気にかけ、それでも侯爵家に巻き込まないよう、恨んでいる自分で心労がたまらないように会いに行くことを徹底的に避けたマーシェル。
マーシェルのために、クリスから解放するために力を蓄えながら、それが自己満足でしかないと、過去の言葉を抱えて葛藤し続けたアイフォード。
そんな不器用な二人をずっと見てきたから、私は少しの手助け位何の負担にも感じていなかった。
「それより、コルクスはこれからどうするんだ?」
「……老い先短いこの先は、マーシェル様とアイフォード様に捧げようかと」
「そう、か」
その言葉に、私は苦笑する。
何とか、コルクスを公爵家に引き込めたら最高だったが、さすがにそうもいかないかと。
「それなら、私はもう大丈夫だ。アイフォードの元に向かうといい」
「本当にありがとうございました。この恩はいずれ」
最後にもう一礼し、コルクスは部屋を後にした。
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