番外編 変化する屋敷の中 (ネリア視点)
「……なあ、ネリア。マーシェルがおかしくないか?」
私の主人に当たるアイフォード様がそう話しかけてきたのは、クリス襲来から数日後に当たるある日のことだった。
主人の顔には、困惑を隠さない表情が浮かんでいて、私は思わず笑いそうになってしまう。
しかし、努めて表情を変えず私は小首を傾げてみせる。
「はて、何のことですか?」
「いや、わからない訳がないだろう……」
そう本心から困り切った表情で告げるアイフォード様は、いつもからは考えられないような様子で、私は耐えきれずにやけてしまう。
そんな私の表情に、アイフォード様は目をつり上げて口を開く。
「おい、ネリア! 俺は本気で……」
「アイフォード?」
「……っ!」
しかし次の瞬間、遠くから響いてきたマーシェル様の声に、あわててアイフォード様は部屋から逃げ出していく。
「ふ、ふふふ」
その慌てふためいた姿に、今度こそ私は耐えきれず笑いを漏らしていた。
逃げ出していくアイフォード様の顔は真っ赤で、それが何より雄弁に今の状況が嫌ではないことを物語っていた。
ただ、これからは前にましてマーシェルとは顔を合わせない、そう私に向かって宣言した手前、気まずくてならないといったところか。
「意地なんて張らなくていいでしょうに」
そう呟く私の頭の中、マーシェル様が積極的にアイフォード様に関わりにいく転機となったと思わしき、日のことが思い出される。
それは、クリスがさった後、マーシェル様が熱を出して寝込んだ日。
あの時、アイフォード様はあれだけ顔を合わせないと言っていたにも関わらず一晩、献身的に看病していたのだ。
その日から、マーシェル様から今までの遠慮した態度は一切なくなって、それが今日の態度につながっていた。
「まあ、もしかしたらそれ以前に心変わりの理由があるのかもしれませんが」
そう呟き、私は今度は安堵の笑みを浮かべた。
マーシェル様が来る直前、アイフォード様はマーシェル様が来た時のためと、様々なことに気を使っていた。
それどころか、来てからも色々とマーシェル様のために動いていて、ある程度のつきあいのある私からすると、その気持ちは分かりきっていた。
……それ故に、今までマーシェル様を避けるアイフォード様の動きは謎で、何より私にとって心配でならない姿だった。
それでも、二人の間に何かわかだまりがあると感じていた私は、今までなにも手を出せなかった。
だからこそ、今の光景を見て、私は本当に思う。
「……本当に良かった」
願わくば、こんな生活が長く続きますように。
「どうして逃げるの?」
「……逃げてない」
そう思いながら、私は二人の声が聞こえる方へと歩き出した。
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