第65話 二人きり

「離しなさいよ!」


「くそ!」


 抵抗虚しく、ウルガとネルヴァが連れて行かれる。

 そんな光景が目の前に繰り広げられながら、私の胸によぎるのは別の疑問だった。


 ……どうしてアイフォードが私を救ったのか、という。


 ようやく事態が落ち着いてきたからか、私の脳内では状況が整理されつつあった。

 そして、その結果どう考えてもアイフォードは私を助けるように動いているのだ。


 憎んでいるはずの私を。


 確かにアイフォードは、ウルガに入れ込んではなかった。

 むしろ訴えようとしていた。

 そのために、ことなかれ主義をとって、ウルガに警戒されないようにしていた。


 ……そうだったら、むしろ私を見捨てるべきだったのだ。


 確かにあの時私の状況は危険だった。

 だが、逆に言えば被害はそれだけだった。

 私はあくまで暴走という立場を貫いていたし、アイフォードが手を出さない限り、この屋敷に被害が及ぶこともなかったはずだ。


 なのに、なぜ私を救ったのか、そんな思考が私の脳内をずっと駆けめぐっていた。

 そうしても氷解できない疑問を抱えた私は、答えを求め無意識のうちにアイフォードへと視線を向けていた。


 アイフォードは一番始めに来た騎士と会話を行っていた。


「……本当によろしかったのですか、団長?」


「ああ。別に何の問題もない。まあ、それについての話は後でしよう」


 そう言って、アイフォードはその騎士から視線を逸らし。


「……っ!」


 次の瞬間、私と目が合うことになった。


 その目に宿る怒りに見据えられた私は、思わず言葉を失う。

 そんな私に対し、一切目が笑っていない笑みを浮かべて、アイフォードはさらに告げる。


「とにかく今は少し離れてくれないか? 少し二人きりで話しておかないといけない人間がいてな」


 その人間がだれか、そんなことわざわざ言うまでもなく分かり切っていた。

 私は反射的に、騎士の方へと助けを求める視線を送る。

 それが伝わったのか、騎士の男はぎこちない表情で口を開く。


「いや、その隊長。今日は色々ありましたし、また後日……」


「何だ、俺に何か文句でもあるのか?」


「……いえ、ないです」


 しかし、その騎士の男はアイフォードの一言で即退場していくことになった。

 そんな後ろ姿に私は恨めしげな視線を送るが、そんなことにもう意味はなかった。


「さあ、邪魔者はもういない。存分に話し合おうか」


 ……目の前に立つ、怒りを隠す気もないアイフォードの姿に、私の顔から血の気が引くことになった。

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