第37話 決意と遭遇
そのメイリの言葉に私は小さく笑う。
私の立場に立って、そう言ってくれたメイリの言葉、それは私にとってうれしいものだった。
けれど、メイリの提案を受け入れる気は私にはなかった。
「違うのよ、メイリ。私はアイフォードの為に犠牲になったのではないの」
私は、メイリに少しでも内心の感謝が伝わるように微笑みながら告げる。
「だってあれは、アイフォードが望んでいたわけじゃないんだから。私はただ、自分が耐えられなくて、全てをつぶしただけなのだから」
そう、それが全てなのだ。
所詮私は、アイフォードのことなんて考えていなかったのだ。
あれはただ、私が勝手に苦しむアイフォードを見ていられなかっただけ。
それはあまりにも身勝手な行為だと私は理解してる。
だから、私はもう覚悟は決めているのだ。
「私は、アイフォードに恨まれるべき人間で、償って生きていくの」
「……っ!」
その私の言葉に、メイリの顔が歪む。
その表情に、私の胸も痛む。
彼女はずっと私の味方でいてくれた数少ない人間だった。
だからこそ、私の覚悟を我がことのように感じてくれているのだと、私には理解できたから。
……それでも、私の覚悟はもう覆ることはない。
「そう、ですか……」
それが理解できたのか、もうそれ以上メイリが私に食い下がることはなかった。
それを確認して、私は苦笑する。
本当に自分は、なんて周囲に迷惑をかけてばかりなのだろうと。
……だからこそ、私は思う。
今まで迷惑をかけてきた分、それを返さずに終わる訳には行かないと。
そう、このぬるま湯に浸かったような状況を継続する訳にはいかない。
どう言った理由で私をこんな状況においているのかは分からない。
それでも、このままの状態でいるのは決して許されないことだ。
故に、きちんとアイフォードに私の状態を伝えないといけない。
正面玄関が開いた音が響いたのは、その瞬間だった。
「……っ!」
その音に私は素早く反応する。
正面玄関から出入りする人間はこの屋敷の中、決して多くはない。
そして、今屋敷にいないのはアイフォードだけだった。
今なら、アイフォードが逃げる暇もなく、話を付けることができる。
「メイリはここにいて!」
「マーシェル様!?」
そう判断した瞬間、私はそう言って自室から飛び出していた。
扉を出た私はできる限りの早足で、玄関に向かう。
ふと、私の胸にある疑問が浮かんだのはその時だった。
普段、多忙なアイフォードはこんな時間に帰ってくることはほとんどない。
前にこんな時間に帰った時は、何か問題が起きた時だった。
……だとしたら、今回も何か問題が起きたのだろうか。
そんな私の思考は、不幸にも的中することになった。
「クリス様の弟がこんないい男だったなんて」
「はは。奥様のような美人にそんなことを言われると、照れてしまいますね。……本当に兄にはもったいない女性だ」
「まあ」
そんなアイフォードと話す、聞き覚えのある声が私の耳に入ったのは、玄関にたどり着く直前だった。
その声を聞いた瞬間、私の胸が激しく高鳴る。
いや、そんなことあり得ないはず、そう思いながら物陰から私は顔を覗かせる。
そしてそこにあった見知った顔──現侯爵夫人ウルガの姿を見つけることとなった。
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