第38話 私の決意
「……っ!」
その瞬間、私が声を上げずにいられたのは、奇跡に近かった。
けれど、その内心は動揺の声がとどまることはなかった。
なぜ、どうして、ここに?
そんな考えが取り留めもなく、胸にあふれ出す。
……そして何より私の胸を揺らしたのは、アイフォードがウルガに向ける表情だった。
優しい、私が見たこともない熱っぽい表情。
その光景に、私の胸は痛いくらい脈打っていた。
「さあ、詳しいお話は中で聞きましょう」
「ええ、お願いしますわ!」
笑顔で案内するアイフォードとそれに嬉々とついて行くウルガ。
その後ろについて行く外套を被った男性の姿に、ウルガの他に人がいたことに私は気づく。
……そんなことさえ気づかないほどに、今の私は平常心を失っていた。
その姿が完全に見えなくなり、声さえ聞こえなくなっても、少しの間私は起きあがることができなかった。
「……どういうこと?」
そう呟いた私の声は、自分でも情けなくなるほどに震えていた。
そう言いながらも、私の頭の中ではメイリの言っていたことが蘇っていた。
現在、侯爵家は没落寸前になっていると。
そして、そんな状況でお飾りの能力しか持っていないウルガがのうのうと過ごせるか?
その答えは、火を見るより明らかだ。
だとしたらウルガが侯爵家を捨ててもおかしくはないのではないか?
そして、次の寄生対象をアイフォードにしたとするならば。
「──許さない」
私の胸の中、激情があふれ出したのは、その瞬間だった。
同時に私の胸に、疑問がよぎる。
どうして、クリスの時には感じたことのない様な怒りを私は抱いているのかと。
しかし、その思考も直ぐに怒りの前にかすんでいく。
今の様子を見る限り、アイフォードはウルガに盲目になっているようにしか見えなかった。
実際、ウルガは私とは比べものにならない体つきを持った美女で、アイフォードが見惚れるもの当然の話かもしれない。
……そう考えた瞬間、私の胸の痛みが激しくなる。
それから必死に意識を逸らしながら、私は考える。
いくら美女であっても、このままウルガがこの屋敷に居れば、侯爵家の二の舞になりかねない。
何せ、ウルガがこの屋敷に問題を持ってこないわけがないのだから。
瞬間、私の頭にネリアの姿と、アイフォードが思い浮かぶ。
まるで想像もしていなかった生活の連続だったが、ここでの生活は私にとって大切なものだった。
だから、絶対につぶすわけにはいかない。
「……とにかく、狙いを探らないと」
そう判断した私は、ゆっくりと足音を立てないように、ウルガ達が消えた方向、来客用の客間へと向かって歩き出した。
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