第36話 謎の厚遇

 メイリが私の側仕えになる。

 それは私にとって、うれしい申し出だった。

 何せ、メイリは私にとって片腕のような存在だったのだから。


 ……けれど、今の私にはそれを素直に喜べない事情があった。


「ちょ、ちょっと待って! 私そんなメイリを雇うお金なんて」


 今現在私は、ほとんど収入がなかった。

 何せここには、ほぼ一文無しでやってきたようなものだ。

 そんな私にメイリを雇う権限も、財力もあるわけもないのだ。

 しかし、そんな私の焦りに対して、ネリアは優しく笑ったまま告げる。


「いえいえ、マーシェル様は我が家の客ですから。アイフォード様がお支払いになるらしいですよ」


「……っ!」


 それは本来喜ぶべき発言だと私は理解していた。

 けれど、この状況で素直に喜べるほど私はお花畑ではなかった。


「さすがにそれは申し訳なさすぎるわ! それなら私ももう少し仕事を……」


「そのことについては私は存じあげておりません。お話するなら、アイフォード様と」


 その言葉に、私は無言で唇をかみしめる。

 実のところ、私はあまりアイフォードと会話もできていなかった。

 アイフォードが多忙なことと、私にあまり会おうとしないこともあって。

 けれど、さすがに私は覚悟を決める。


 どういう訳か、アイフォードに聞かなければならないと。

 もし、私が体調を悪くしてるなどとアイフォードが勘違いしてるのならば、そのままにすることは絶対にできなかった。


 ……なぜなら私は、アイフォードに命をかけて仕えるべき人間なのだから。


「それではお二人で募るお話もあるでしょうし、私はそろそろ下がりますね」


 そんな私の内心も知らずか、にっこりと笑ってネリアは部屋から出て行く。

 恐る恐ると言った様子のメイリが口を開いたのはそれからだった。


「……マーシェル様、アイフォード様が一体何かしたのですか?」


「いいえ、違うわ」


 メイリに首を振った私は、力ない笑顔で告げる。


「……私のやったことが、アイフォードを傷つけていた。そういうことよ」


「え?」


 その私の言葉に、メイリは一瞬首を傾げる。

 しかし、直ぐにその顔に驚愕を浮かべた。


「もしかして、あのこと……アイフォード様を騎士にしたことが不興を買ったのですか?」


 その言葉に私は無言で頷く。

 その瞬間、メイリは呆然とした状態になった。


 そして次にメイリの顔に浮かんだのは、焦燥と義務感だった。


「なら、私がお話をつけてきます!」


「……だめよ」


「どうしてですか!」


 そう叫んだ瞬間、メイリの顔には滅多にない怒りが浮かんでいた。


「アイフォード様は、マーシェル様がどれだけの犠牲を払ったか知ってるんですか!」

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