第35話 想像もしない再会
「う、嘘……!」
私はその姿に、そう呟いて呆然と近づく。
これは夢なのか、そんな思いさえ私の胸によぎる。
「嘘ではないですよ」
けれど、そんな私に触れたメイリの手は温かかった。
その温かさにようやく目の前のメイリが本物だと理解した私は、矢継ぎ早にメイリに問いかけていた。
「大丈夫? どこもけがしたりしてない?」
「はい! 私だけでなく皆も、どこも悪くないです! ……ただ、皆侯爵家からは追い出されてしまいましたが」
「……何があったの?」
そう聞いた私に少し躊躇した後、意を決したように、メイリは口を開いた。
「実は……」
それからメイリに語られた侯爵家の状況は、私の想像以上にひどいものだった。
おごり高ぶった貴族出身の使用人達の暴走に、それに気づきもしないクリス。
コルクスは捕らえられ、あげくの果てに唯一状況を打開できるアルバスは、侯爵家から出て行くことを約束させられているらしい。
……その話を聞いて、少しの間私は何も言うことができなかった。
これがメイリの出てきた1ヶ月前の時点だと言うならば、現在は一体どんな状況になっているのか。
想像したくもない状況だろう。
使用人達の生家に賠償を求めようとも、彼らはほとんど勘当されたような状況だ。
絶対に生家の人間は払い渋るだろう。
クリスは貴族出身という身分しか見ていなかったが、ほとんどやっかいな人間を押しつけられたにすぎないのだ。
それに、アルバスがいないということは、公爵家との交易に関してもどうする気なのか。
もう侯爵家の未来はほとんどどうしようもなくて。
……けれどそれに、一切心が動いていない自分がいるのに私は気づいていた。
いい気味だという思いも、かわいそうだという気持ちも一切わくことのない無感情。
それに自分でも不思議と思うくらいだが、私にとっては侯爵家よりアイフォードの方が余程大事だった。
とにかく、私にとってはこの状況を脱するのが最優先で。
ふと、あることに思い至ったのはそのときだった。
「そういえば、メイリはアイフォードに仕えることにしたの? 確かにこの大きな屋敷だと、ネリア一人では手に余るように感じていたのよね」
「いえ、違いますよ」
「え?」
私の予想を否定したネリアは、にっこりと笑って告げる。
「本人直々の願いにより、マーシェル様の世話係として仕えるそうですよ」
「……は?」
そして告げられたのは、私がまるで想像もしていなかった言葉だった。
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