第33話 部屋の中にあったもの (クリス視点)

「……くそ! どいつもこいつも!」


 コルクスへの怒りが、我慢できず口から漏れる。

 どうしようもない苛立ちを抱えた私の足は、自然とウルガの部屋へと向かっていた。

 そもそも、この問題はウルガの責任のだ。

 どうして私が責められなければならないのか。

 その苛立ちが私をウルガの部屋に向かわせていた。


「馬車の中でも、まるで自分が悪くないと言いたげな態度をとりよって……!」


 そう呟いた私の脳裏に、反抗的だった馬車の中のウルガの姿が思い出される。

 それを思い出した瞬間、私はどうしようもない苛立ちを感じ、ノックをすることもなくウルガの部屋の扉を開け放った。


「おい、ウル……は?」


 しかし、次の瞬間私の目に入ってきたのは、やけに綺麗な部屋だった。

 それに私は呆然と声を上げ……机の上に置かれた手紙に気づいたのはそのときだった。


「何だ、これは」


 どうしようもなく嫌な予感に襲われながら、私はその手紙を手に取る。

 そしてその中身を読み始め。


 ……次の瞬間、私の顔から血の気が引くことになった。


「……っ!」


 もはや土気色に近い顔色で、私は何度もそれを読むがその中身は変わることはなかった。


 ──ほかに愛する人ができました。さようなら。


「う、嘘だ……」


 呆然とした意識の中、そんな声が口から漏れる。

 しかし、私はそれが自分の声だとさえ気づいていなかった。

 ただ、ここにかかれていることが信じられず、私は呆然とその場に崩れ落ちる。


「あり得ない? あの、ウルガが? いや、これはただの夢だ」


 呆然とそうつぶやき、私はその場に崩れ落ちる。

 ちょうどそのとき、扉の外が騒がしくなり始める。


「……! そんな、囚人が………」


「……!? 探せ、どこにいるはず……。一体誰がこんな……」


「……くれ! ここにあった調度品も消えて……!」


 その騒ぎに何かが起きたことが分かる。

 そう理解しながら、もう私には立ち上がる気力さえ存在しなかった。


「どう、してこんな……」


 ウルガを屋敷に迎え入れ、全ての人間に認められる未来。

 かつて夢想していたその光景を想像しながら、私は呆然と呟く。


「どうして、こんなことになった?」


 その答えはもう目の前におかれているに。


 ……それさえ受け入れられない私は、呆然と立ち尽くすことしかできなかった。



 ◇◇◇



 次回からマーシェル視点に戻ります。

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