第18話 誤解

 部活が終わり夕方、翔は浩の家を訪れていた。

昨日の出来事は何だったのか。すべては幻想だったのか。


僕は必ず浩を助けて見せる。友達なのだから。


家の前にたどり着き、恐る恐るインターホンを押す。


ピンポーン


5秒、その短さが何倍にも長く思えてくる。僕以外みんな消えてしまった。そう思えるうそうそ時。



ガチャッと扉を開けたのは浩の母だった。


「あら、翔君お久しぶり」


「久しぶりです。あの、浩君いますか?」


「ええ、部屋にいるはずだからいってあげて」


「ありがとうございます」


軽い挨拶を済ませ、玄関を潜り抜ける。階段を上がり向かうのは浩の部屋。滾々とノックをすると「入れ」と聞こえ、扉を開ける。


足を一歩踏み入れるや否や、手を勢いよく引っ張られ部屋へと突っ込まれる。そのまま胸ぐらをつかみドアに押し付けた浩は翔に問う。


「お前、なんで一日中無視しやがった」


「無視ってなんのこと!?いきなり言われてもわかんないよ……っ!」


「とぼけんな!俺が今日学校で話しかけても一切反応しなかったよなぁ!!あんなに近くにいたのに!!」


「ちょ、ちょっと待ってよ!浩は今日学校休んでるはずじゃん!何言ってんのさ!」


「お前もそうやって……!!全員で俺のこと馬鹿にしやがって!!!」


おかしい。


「ま、待ってよ!!何かの間違いだって!」


「うるさいうるさいうるさい!!」


怒りが頂点に達した彼は勢いよくこぶしを振り上げ――――――


――――――行き場を失ったそれは静かに降ろされ、こぼれるように言葉が聞こえてくる。


「俺が何したってんだよ……」


「浩……」


「俺さ、昨日人を殺した。そして警察に連れられたんだ」


「……うん」


嘘だと信じている。そんなことをする人間じゃないことは僕がよくわかっているから


「連れられたはずなのにさ、気が付いたらいなくなっててさ。わけわかんなくなって、公園に戻ったら、その……し、死体もなくなっててさ。夢なんかじゃない、血も浴びてたはずなのになくなってて、怖くなって。話を聞いてほしかった、助けてほしかったのに学校では誰も相手にしてくれなくて……」


その場に崩れ、その目からは涙がこぼれる。


―――今なら話を聞ける。翔は疑問をぶつけることにした。


「もしかしてさ、今日学校来てたの?」


「またそれか……いたに決まってるじゃん。学校では誰も話聞いてくれなかったくせにさ。帰り、外ではいきなり話しかけられたんだよ。『じゃーね!浩』ってさ」


「……やっぱりおかしい」


「……おかしいって?」


「今日の先生は『浩は家庭の用事で休み』って言ってたんだ。なのに実際は休んでない。つまり、いたのに誰もその姿を認識してなかったことになるよね?」


「……何が言いたいんだよ」


「もしかしたら、化け物の能力が関わってるのかも」


翔の導き出した一つの結論。それは、この一連の事件が”何か”によるものではないかということ。

その一連の流れの黒幕はおそらく汐音しおんと呼ばれる女子だろう。昨日の公園での雰囲気、あれは何かを知っている様子なのだ。それが正しいとなれば、浩はその能力の影響を受けていたことになる。そしてその能力は―――――



『何か幻覚を見せる……とかか?』


―――幻覚を見せる能力。しかし彼女は浩に殺人を犯してしまったと”錯覚”させ、警察に連れられたと思い込ませる。そして今日も学校でみんなに無視されたと”錯覚”―――



だとするとおかしい。浩は本来学校にいたのに翔たちはその姿を認識してなかったことになる。となれば、幻覚というだけではあまりにも能力としては足りない点が多すぎる。



「質問なんだけど、しお……浩の一緒のペアの女子って今日学校来てた?」


「汐音のことか、今日は休みだって言ってたが……」


「……うん、やっぱりおかしいよ」


「おかしいって……?」


「昨日その子とどこか行ってたでしょ?何かおかしいことなかったかな……?」


「おかしいことと言っても……いや、俺さ、その子と遊んでて最後に公園に行ったんだよ。そこにいきなり俺らより上の集団がやってきて、助けようと思ったら殺してしまって、警察に連れられたけど気が付いたらいなくなってて……あれ???」


「多分、その子が能力を持ってるんだと思う。『相手の認識を変える能力』を」


「認識を……変える?」


「うん、多分相手の脳に干渉して、その対象の認識を操ることで本来起こりえない状況を作り出すんだよ。だから浩もいろいろおかしいことがあったんだよ」


考えた末の結論。慰めるためにと一言付け足す。


「……と思うから、浩は何も悪くないんだよ。安心して」


「無視されたってのも、その能力のせいなんだよな……?」


「うん」


「じゃあ……俺は嫌われたわけじゃないんだな……?」


「もちろん、ずっと友達だよ」


「公園の出来事も……」


「うん、そんなことするわけないのは僕が一番わかってるから」


「翔……!!」


すっかり安心しきった様子の浩は再び涙が見えた。


とにかく浩の謎が解けて良かった。翔もほっと一息をつく。だが安堵するにはまだ早い。二人は今後の動きについて話し合うのだった。

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