第17話 不可思議

 学校祭まで、あと一日 


「赤城だが、今日は家庭の用事で休みだ」


 次の日、浩は学校に来なかった。


……理由はなんとなく知っていた。

昨日の一件。浩が、殺人を犯してしまったこと。



俺は殺してないんだ―――――


親友、と呼ぶには短い期間だが、それでも翔にはわかっていた。あの浩の言葉は嘘をついているようには思えない。だが死体が生まれてしまったのも事実。


何が起きている?考えられるケースは二つ

一つ。ないとは思うが、浩が嘘をついているケース。

二つ。何者かに仕組まれたケース。


二つ目の場合、翔にはなんとなく心当たりがあった。

昨日浩と行動を共にしていた女子。汐音しおんといっただろうか。彼女は同じクラスにいたはず。辺りを見渡しどこにいるか探してみるが……


「これでHRを終わります」


日直の声、辺りを見渡しても見覚えのある姿はなく、欠席の連絡もない。


……何が起きている?

昨日確かに二人はこの教室で話をしていたはずだ、それが急に姿を消すなんて。



とにかく、考えても仕方ない。今僕ができることは、学校生活を送るだけなのだから……



――――――――――――――――――――――――――――――


「さ、殺人っすか!?」


「こ、声が大きいよ!それに絶対そんなことするわけがない!」


 異能研究会にこの件を話した。理由はもちろん、”何か”が関わっているかもしれないから。

昨日のそれは、公園全体を黒い何かで包み込んだ。何をしたのかはわからないが、それがカギになるはずなのだ。


「天木君の友達なんだろう、あまり悪く言うな」


「そうですよ、天木先輩が良い人なんですから、その赤城先輩も良い人に決まってます!」


「わかってるっすけど……いまいちピンとこないんすよ。冤罪と証明しようにも証拠がそろっちゃってるんすから……」


「証拠……ひとまず公園に行ってみたらいいんじゃないですか?本当に事件なら何かしら痕跡が残ってるかもですよ?」


「そうだな。よし、みんな外出の準備を頼む」


皆は昨日の公園へ向かう。

―――絶対僕が助けるからね、浩。



――――――――――――――――――――――――――――――


 時刻は4時を回る、きれいな砂場、ベンチに座るご老人。ジャングルジムでは頂上に立って決めポーズをしている子供がいれば、追いかけっこをしている子も。


―――そこに事件の痕跡が最初からなかったかのような。


「えー……っと、何が起こってるんすかね?」


「ぼ、僕にもわかんない……」


「まさか、嘘だったりして?」


「そ、そんなはずは……」


「天木君、もう一度聞くが、本当に昨日事件はあったんだな?」


「本当!……なはずです。この目でみ、見ましたから……」


「私は信じますよ!嘘をつくような先輩じゃないって知ってますから!」


「月見さん……」


「……わかった。ひとまず部室へ戻るぞ。俺の見解を話す」


「「「わかりました」」っす」



何事もなかった公園を後にする。その間あまりこれといった会話はなく。沈黙が流れていた。

部室につくや否や、賢司が口を開く。


「考えられるのは、化け物が関わっていることだろうな。俺の予想では、物質移動の類なんじゃないかと読んでいるんだが……」


「それだと赤城さんが殺したのは事実ってことになるっすよ?もっと違う能力なはずっす」


「それもそうか……だとしたら、何か幻覚を見せる……とかだろうか?」


「私もそう思いました。だけど、幻覚を殺しちゃうことなんてあるんでしょうか?赤城先輩も能力を使えるんですよね、空想上のものに危害を加えるなんて、それも血を出して……あまりにも信じられないというか……」


「……」


「天木君、ちょっと」


嶺が近づき、耳元にささやく。


「なんでしょうか佐枝先輩?」


「前話したこと覚えてますか?」


―――能力は過去の出来事にちなんだものになる


「……何が言いたいんですか?」


「赤城君に人殺しをさせたいなんて、生半可な思いじゃないと思ってるんです。つまり、その女子との間に昔何かがあったんじゃないかな~って思ったり?」


「でも、浩に話を聞くことなんて……」


「部長の言う通り、もし殺人自体が幻覚なら、天木君が見た警察っていうのも幻覚かもしれないですよ?家に行くだけ行ってみればいいんじゃないですか?」



嶺の言う通りだ。仮に賢司の見解が正しく、幻覚を見せるものだったとしたら最初から事件は何も起きていなかったことになる。今日学校に来なかったのも、風邪を引いたとかそんなくだらないことなのだろう。

ここはひとつ、その予想にかけてみるしかない。


「わかりました。帰りに家に寄ってみます」


「うんうん、彼のことを何も知らない私たちよりも、天木君が行動したほうが早いですから。応援してますよ」


「はい、ありがとうございます」


嶺に励まされ、少し元気が出た。

浩は何もしてない。それに確信が持てたような気がして。


それよりも……


「なんで小声で言う必要があったんですか?別に普通に話しても……」


「だってこっちのほうがアニメっぽくないですか?ほら、ミステリー系的な?主人公と頼れる助手ポジションの女の子的な?」


「な、なるほど……」


やはり嶺には振り回されるな……そんなことを思った。

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