第16話 尾行
特に何もなく学校祭への準備は進み、残すところあと二日となった。
いや、何もないわけではなかったのだが、特筆することと言えば、相変わらず部員にからかわれまくったことぐらいだろうか。
「翔、今日は先帰っててくれ」
「うん、わかった」
浩は買い出しをした子と約束があるらしく、今日は一緒に帰れないとのこと。
初めて春が来た、と喜んでいたが……
「お待たせ浩君!行こっか!」
「お、おう……」
うわ……めっちゃ気取ってる。いや、この場合は照れ隠しなのか……?
二人がこれからどこへ行くのか少し興味がわいてしまった。
気が付くと、翔は二人の後を追いかけて校門を出ていた。ここまで来たらばれないようにするしかない。ばれたらきっと殴られる……
――――――――――――――――――――――――――――――
少し歩いていつものゲームセンターへ、やはり学生のたまり場と言ったらここだ。
「はい!あーん!」
「あっ、あー……」
浩があーんだと!?こんな姿を見たのは初めてだった。
写真に収めておきたいが……シャッター音なんかでばれてしまっては元も子もない。しっかりと目に焼き付けておこう。
「じゃあじゃあ!私にも!ん~!」
「あっ、あーん……」
顔を直視するのが恥ずかしかったのか、スプーンを差し出すその目線は少しそれていた。ちゃんと見ないとこぼすんじゃ……
ベチャ
ほらやっぱり……
「きゃっ!冷たいよ~もう~!」
「ごっごめん!!すぐ拭くから」
すぐにハンカチを取り出し拭こうとするが、落ちた場所は胸元なわけで……
「え~?”ここ”、拭いてくれるの?」
「あっ!いやっ!」
「なんてね、へへ」
彼女は浩からハンカチをひょいと取ると自身で拭き始める。
「勝手に借りてごめんね?早く次行こ!」
彼女は浩の手を引っ張ると出口に向かって走り出す。急展開の連続に理解が追い付いていないようだ。
……こぼさなきゃよかったのに。
――――――――――――――――――――――――――――――
この後も二人のデートは続いた。映画を見たりカフェに言ったり、カラオケにも行ってたり。おかげでもう時刻は20時を過ぎていた。そろそろ帰らないと怒られてしまう。
「今日は付き合ってくれてありがとね!すっごい楽しかった!」
「お、俺も楽しかったよ、
公園のベンチ、二人は顔を合わせながら楽しげに話していた。初めはあんなに照れていた浩も今ではすっかり普通に話せるように。人は短時間でこんなにも変われるのかと少し感動してしまう。
「私って大人しいからさ、浩君みたいにいっぱい話してくれる人いいな~って思ったり……えへへ」
「そ、そんなことないと思うぞ?めっちゃ話してなかったか?」
「ほんと?じゃあ一緒にいれて凄い楽しかったのかも!」
いくら話せるようになったとしても、ペースは完全に向こうが握っている。僕と言い浩と言い、女の子と話すの苦手過ぎないだろうか……?
そんな楽しい場面だから。
まさか
いるなんて思ってもいなかった。
”何か”が二人を見つめている。僕の気配に気づいたそれはうっすら呟く―――――
「sibi-no-yajbapu」
辺りが突然黒い幕のようなものに覆われる。この感じは賢司の時と一緒だ。だが今回は人を覆うのではなく公園全体。いったい何が起こるというのか。
……
…
……あれ?
特に何も変わった様子はない。二人は変わらず楽しそうにしている。
「それじゃあそろそろお母さんに怒られるかもだし、帰ろっか!」
「ああ、家まで送ってくよ」
「うん!ありがと!」
浩と汐音が手をつないで公園を後にしようとする。そこまで親睦が深まっていたのか。
ところが、二人はそう簡単に帰ることはできないらしい。
「あれあれあれぇ~?こんなところにカップルですかぁ~?お熱いですねぇ~?」
「俺らは男とつるんでるっていうのに、こういうの許せなくねぇ~?」
「それなぁ!マジムカつくわ!」
明らかに高校生ではない。大学生くらいの風貌の集団が二人の行方を阻む。
声にならない恐怖が翔を襲う。助けなきゃ、でもどうやって?
汐音は浩の裾をつかむ、少し肩が震えているようだった。
「汐音、俺に任せろ。絶対助ける」
「浩君……」
「兄ちゃん、その女おいてきな。そしたらお前だけは見逃してやるよ」
「そんなことするわけないだろ」
「っく~!カッコつけちゃって!もしかしてぇ、モテたいお年頃?」
「っ!調子に乗るのもいい加減にしろよ……?」
「『調子に乗るのもいい加減にしろよ……?』だってさ!っくぁ~!マジウケる!」
「てめ……っ!」
浩が汐音を振りほどいて集団の一人へ殴り掛かる。
だが、力の差がありすぎた。ゴフッっと打撃音がするものの、正面から受け止められたその攻撃は倍になって返ってくる。
「ぐはぁっ!!!」
圧倒的身長差から繰り出される蹴り。
「待って、こいつめっちゃ弱くね?」
「俺動画取ってたわw見る?」
「お前えぐwグループ送っといてw」
「浩君!!大丈夫!?」
「し、しお……にげ……」
最後の力を振り絞り声を出す、汐音はその言葉を聞き遂げて公園から逃げ出す。
「警察を呼んでくるから!」その言葉を信じて浩はもう一度立ち上がる。
「うわっ、こいつまだやんのかよ」
「お前らを逃がすわけにはいかないんだよ……」
「カッコつけの次は正義気取りってか?そういうのムカつくんだけど?」
さっきまでスマホを構えていた男も戦闘態勢へ移る、気が付くと浩は囲まれており、もはや勝ち目がない状況だった。
「お前さ、土下座しろよ。そしたら許してやるよ」
「誰が……するかよ……言っとくが負けるのはお前らだ」
「ふーん、じゃあ」
死ね
浩を囲んだ集団が一斉に殴り掛かる。
このままじゃ負ける。そう思った時だった。
「pedisij-no-pimyusodu」
聞き覚えのある声―――――
それは浩に宿ると―――――
……え?
ねぇ、なんで……?
一瞬の出来事だった。浩の体に”何か”が乗り移ると、それは無数の剣となって体の表面から現れる。
ハリネズミやハリセンボンのようなものとでもいえばいいだろうか。それは近づいてきた集団を串刺しにして、死へと至らしめた。
「……え?」
”何か”そこから姿を消すと、浩の意識も戻り始める。もちろん最初に目にするのは死体。
腹部に大きく穴を開け、血が流れる。浩の足元には赤い水たまりができていた。
「なん……で、し、死んで……」
その出来事に思わず膝から崩れ落ちる。全身いっぱいにべったりとしたものが纏わりつく。
不幸は終わらない、彼女が最悪のタイミングで戻ってくる。
「浩君!!!って……何してるの?」
「俺じゃない……俺じゃない……」
「あーーー、そっか」
―――殺しちゃったんだね。
「俺じゃない……俺じゃない……!」
「助ける、なんて言って。その手段が殺人なんてね」
「違う……違う……」
「やっぱり君の正義はくだらなかったね。さようなら」
彼女はそういって公園を後にする。警察がそこにやってきたのは数分後のことだった。
「俺じゃない……俺じゃない……」
僕は見逃さなかった。
「俺じゃない……俺じゃない……」
「はいはい、一回署まで移動しようね」
「信じてくれよ……っ!」
去り際、目が合ったこと。
「俺は殺してないんだ……っ!」
その顔がほほ笑んでいたこと。
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