3章 幻惑と正義執行
第15話 学校祭準備
警察官。それが俺の夢だった。
柄に合わない。なんて言う人もいるけど、人を守るのは好きだから。
でも、そのための努力なんて全然できなくて。性格も相まって、正義とは程遠いものになってしまった。
だけど
誰かを助けたい気持ちはいつまでも忘れないようにしたい。
だから
俺の選択は
俺の行動は
間違ってなかったんだよな?
誰か教えて
誰か……
助けて……
――――――――――――――――――――――――――――――
夏休みが終わると、すぐに学校祭の準備が始まる。10月に行われる学校祭では、各クラス、各部活ごとに何かお店を出していいことになってる。生徒会のほうでその人気度などを調査し、上位のお店は表彰されるとのこと。
異能研究会では何を出すかは決まっていないが、せっかくなので何か出店してみたいものだ。
「これまで学校にいた能力者リスト!……とかどうっすか?」
「やめろ、プライバシー侵害だ」
「まぁこんな場所来る人なんてそうそういないでしょうし、無難に食べ物にしましょうよ」
「あっ、私チョコバナナ作ってみたいです!」
「いいっすね、俺も食べたいっす!」
「食べるんじゃなくて作るんだけどな……」
出すなら部活らしいもの、が一番いいのだが、そんなものを販売してしまっては叩かれるだろう。幽々奈の一声で、異能研究会で販売するものはチョコバナナとなった。
翔たちのクラスではというと……
「というわけでお前ら、何やりたいか決まったら教えてくれ~」
HRでは様々な意見が飛び交う。カフェ、お化け屋敷、カジノ、縁日、飲食などなど。だが一人の女子生徒の意見が場を一気に変える。
「女子が男子の制服着て、男子が女子の制服着たら面白そうじゃない?男女逆転カフェ!的な?」
「いや、制服じゃいつもの学校生活と変わんねぇ。ここは、”男女逆転!メイドカフェ”でどうよ……」
一人の生徒がすごいことを言い出してしまった。きっと採用はされないだろうが……
「いいね、絶対おもろいやんそれ!」
……え?
「ぼぼ、ぼ、僕メイドさんの服とか緊張しちゃうな……」
一人の男子生徒が言う。
「いーよいーよ全然うちがかわいくメイクしてあげるしさ!だからさ、やろ?」
「う、うん、おっけー……」
解決してしまった。
……え?
「じゃあ、男女逆転メイドカフェ?がやりたい人は挙手してくれ~」
「「「はーい!!!」」」
半数以上が手を挙げる、ってことはまさか……
「じゃあうちのクラスはこれをやるから、みんな頑張れよ」
「「「はーい!!!」」」
……え?
終わった……
メイド服なんて恥ずかしくて着れない。そう思っていたのは翔だけではなかった。
「翔、どうする……」
「……僕、学校休むかも……」
「いや、まだあきらめるな。俺らには部活がある」
「どういうこと?」
「部活に今まで入ってなかったから、わからなかったかもしれないけど、部活で店をやる場合は、そっちを優先してもいいことになってるんだ」
「ってことは……じゃあ!?」
「俺らはたすか「浩くーん!」
「ん?なんだ?」
「もしよかったらさ、お店の買い出しとか一緒に行かない?」
「あー……」
買い出しの話題が出てきた。もうそんな話まで進んでいるのか。
浩の申し訳なさそうな目線がとても痛い。僕は気にしないでと目線を送り返す。
「わ、わかった……」
「やったー!ありがと!せっかくだからラインも交換しない?」
最近の女子高生はコミュ力が高すぎる。とんとん拍子で話は進み、浩でさえもたじたじになっている。想定外すぎて狼狽えているだけかもしれないが。
「よかったー引き受けてくれて!じゃーねー!」
「あ、あぁ……」
「浩……」
「翔、ごめんな……」
「ばかぁ……」
僕の泣きそうな声が二人の中に響いた。
これが青春か……
――――――――――――――――――――――――――――――
「そういうことでしたら私の制服で練習しましょうよ」
「い、いや……何言っているのさ!」
「別に天木先輩なら気にならないですし、むしろ面白そうですし?」
「からかわないでよ……」
「まぁ天木君は男らしいって顔でもないですし、JKの制服、似合うかもですね」
「佐枝先輩まで……」
部活でクラスの出し物について話すとこうなってしまった。幽々奈が食い気味になっているのが気になったが、からかわれているのだろう。
まず制服で練習というのがわけわからないのだが、そんなこと言える空気はそこにはなかった。
「僕、女装なんてしたことないから恥ずかしいですよ……」
「わかりました。じゃあ今着てみましょう!」
「じゃあじゃないよ!?」
「面白そうっすね!天木さんの女装絶対ウケるっす」
享君は後で殴る。決心した。
「そうと決まればレッツゴーです!ジャージに着替えてきますね」
そう言って幽々奈は部室を離れる。残された翔も渋々着替えることに。
ジャージに着替えた幽々奈が戻ってきて、制服を渡してくる。妙に温度を感じてしまったのが我ながら気持ち悪い。
「ほ、ほんとに着替えるの……?恥ずかしいし、嫌じゃない……?」
「ここまで来たならやるしかないですよ。天木先輩が好きだから貸してるんです」
「いやっ、その……えっと……」
「ふぅ~!女子にここまで言わせておいて逃げるのは無しっすよ?」
絶対からかわれているだけなのだが……
嶺が着替えるのを手伝ってくれるということでいったん部室を離れ近くの手洗い場へ向かう。ジャージのハーフパンツをもともと穿いていたので、その上からスカートをはき、ワイシャツを着る。リボンを後ろで止めてもらい、ベスト、ブレザーを羽織って……
「やば……思ったよりいいですよこれ……」
カシャッ、という音が聞こえた。想像したくないが、きっとそういうことだろう。
嶺に押される形で部室へと戻る。そして恐る恐るドアを開ける……
ギギギ……
「えっと……こんな感じなんだけど……」
「な、なるほど……」
「「キャー―――――――!!」」
戸惑う賢司、二人からの黄色い声。
本当に恥ずかしい……
「天木先輩、一回転してみてください」
「こ、こう……?」
翔がクルンと回って見せる。風でスカートがふわりと上がったので思わず手で押さえてしまう。
あれ?その行動めっちゃ女子っぽいな……
「おぉ……”萌え”っすね」
「天木先輩の普段の弱弱しい感じが絶妙にマッチしていて、良いです……」
「……」
部長に関してはもはや何も言わなくなっていた。せめて助け舟を出してほしいのに……
そこから部活終わりまで、僕の撮影会と称しからかわれ続けたのは言うまでもない。
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