今日はお泊り 後編

「それじゃあみんな……かんぱーい!」


「「「かんぱーい!!」」」


 異能研究会は新藤家に集まっていた。理由はもちろん、お泊り会。事前に賢司が親に話を通してくれていたようで、両親は明日まで出かけているとのこと。

子供たちだけのパーティー、そんな環境にみんなワクワクしていた。


「おお、桐川君はひっくり返すのうまいですね」


「ふっふっふ、こんなんちょちょいのちょいっす!」


そう言いながら、享は千枚通しを華麗に操り技を魅せる。彼一人で作ったほうが早いので、ほかの人たちは食べる専門になった。


「まだまだあるんで、みんなはどんどん食べるっすよ~!」


「作ってばかりだけど、享君は食べなくていいの?」


「気にしなくていいっすよ!作るの楽しいっすから!」


「私、享君用に少しよけておきますね」


「うん、ありがとう」


と、盛り上がっている最中さなか、賢司があるものを取りだした。

これは……ワサビ?


「こんなものを買ってみた、ロシアンルーレットってやつをやらないか?」


「おおおおお!面白くなってきたっす!」


「部長もなかなか恐ろしいことやるんですねぇ」


「せっかくだから楽しみたいだろう?桐川君、作ってくれ」


「了解っす!」


そう言って享は四人分のたこ焼きを作り始める。

しれっと自分を抜かしていることを突っ込まれ、渋々作っていたのが面白かった。


「それじゃ、目隠してくださいっす」の一言で具材を投入する。そこから少し経過して、おいしそうなにおいがしてきた。そろそろできただろうか?


「完成っすよ~!さぁみんな召し上がれっす!」


そしてみんなが順番に選んで、余ったやつを享がいただくことに。


「「「「いただきます」」」」


たこ焼きを口に入れる。生地にほんのり出汁の香りがするのがとてもいい。


「ん、俺は美味しいな」


「私もおいしいたこ焼きですね」


「私も普通でしたよ」


「俺もなんも変じゃないっすね」


ん?ってことは……

急に鼻への刺激が翔を襲う!


「が、がらいぃぃぃ!!!!」


なんと、ワサビ入りをひいたのは翔だった。あまりの辛さに恥も忘れて叫んでしまう。

って、ツンとくる辛さだけじゃなくて、ほかにも刺激を感じる何かが入ってないか?これ何入れたんだよ!?


「あ、天木先輩!?」


「ごほっごほっ!とほるくんこれなにひれはの……?」


「えっと、ワサビ、デスソース、一味……って、あ」


「桐川君……?」


「あ、俺ちょっとトイレっす~……」


しれっと逃げようとするのを賢司が許さない、リビングのドアに手をかけようとしたところで肩をがっしりとつかむ。享の肩がビクンと反応した


「今日は楽しい一日になりそうだな」


「あ、あはは……」


ごめんなさいっすぅぅぅぅぅ!!!!!

享の声が部屋中に響き渡っていた。




なんやかんやで、享が翔にアイスを買うことになった。嶺もしれっと買ってもらおうとしていて、享はそれをしぶしぶ了承。なんだかかわいそうになってきた。

というわけで三人はコンビニに行き、翔と幽々奈は留守番になった。


「だいぶ落ち着きましたか?先輩」


「うん、ありがとう」


「また二人きりですよ?昨日ぶりですね」


「へ、変なこと言わないでよ……」


思わせぶりなことをいうものだから少し意識してしまう。彼女は僕にいたずらっぽく笑って見せる。


「えへへ、だってうれしいんですもん」


「ほ、ほんとにやめて……照れるから……」


不毛なやり取りをしているが、翔は実際嬉しかった。

うまくは言えないけど、なんだが信頼されているような気がして。


「にしても、皆さん遅いですね」


「だね。住宅街だから、コンビニから少し遠いのかもね」


「暇なので、一つ質問良いですか?」


「うん、どうしたの?」


「天木先輩って将来何になりたいんですか?」


まさかの質問。それも僕が嫌な。


「ははは、突然だね……」


「聞いてみたいなって思ったんです」


「そっか……」


なんとなくでいい、何か適当なことでもいいから言葉を言え。

そう自分に言い聞かせても何も出てこない。


自分の思いを見つけて、それに合った将来に進んでいくのが、幸せになる秘訣。

父はそう言ってくれたけど、思いもそう簡単に見つかるものではない。


「悩んでます?なら一緒に教師目指しましょうよ」


「き、教師?僕が?」


「はい、多分向いてると思うんですよ」


向いている?この僕が?そんなわけがない。


「そんなわけないよ……頭いいわけじゃないから……」


「違いますよ、頭は勉強さえしたらどうにかなります。だけど、その優しさはどうやっても手に入れられものじゃありません。私はそれに救われたんです」


「月見さん……」


「何もない私を救ってくれて、こうやって一緒に思い出も作ってくれて。そうやって誰かの思いに触れて、その人を救い出すのは、天木先輩にしかできないことなんです。私のほかにもこうやって悩んでいるかもしれない、助けを求めている人がいるかもしれない。今度は私も救う側になりたいから教師を目指すんです。両親が教師だからってのもあるんですけどね。えへへ」


誰かの思いに触れて、その人を救い出す。

ライの時も、幽々奈の時もそうだった。


助けたい。その一心で動いてきたはずだった。


じゃあ僕の思いは―――――


「教師、になるかどうかはわかんないけど……人を助ける何かができたらいいなって……思う……」


「……はい、できますよ。私が保証します!」


「うん、ありがとう」


何になるかなんてわかんないけど、何ができるかなんてわからないけど。

これからも僕はみんなを助けることがしたい。


それが、僕の思いだ。

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