今日はお泊り 中編
翌日、異能研究会のメンバーはとあるショッピングモールに来ていた。
この地域て一番の大きさ。田舎では、遊ぶ場所といったらここしかない。というような大きな店が合ったりするが、このショッピングモールはそんな感じだ。
食品、雑貨、家電、服、娯楽用品、映画館にちょっとした遊び場まで。さすがにゲームセンターよりは楽しさが劣る、という場合もあるが、デートや遊びで行く場所に困ったらここに行け。そんな場所だ。
「お待たせっす~!」
「大丈夫だ。みんな時間通りに集まったな」
賢司が腕時計を確認する。時刻は13時。ちょうど夕方くらいになって帰ればいいだろうという寸法だ。
「買うのはたこ焼きの材料だけですか?」
「ああ、だがせっかくここに来たんだ。みんなでウインドウショッピングというものができたら、と思ってだな……」
「いいですね。せっかくですから服見ましょうよ服。私が部長を手掛けてあげますよ」
「ちっちっち、女なんかに男のファッションがわかるわけないっすよ。ここは俺に任せてもらうっす」
「ふ~ん?ずいぶん先輩に対して生意気な口をきくんですねぇ?この男の子は」
「部長をより慕っている人間が誰か思い知らせてやるっすよ……」
いざ!!二人は賢司の手を引っ張り先に進んでしまった。
……取り残された二人。食材を買うんじゃなかったのだろうか?
「まぁ、まだ時間はあるようですし、私たちもとりあえず歩きましょうよ」
「そ、そうだね。どこか行きたい場所とかある?」
「んー、じゃあ本見たいです」
「それじゃあ行こうか」二人は本屋へ向かうことにした。
――――――――――――――――――――――――――――――
「わぁ、これ懐かしい……」
そう言いながら彼女が手に取ったのは一冊の絵本。「かくうしょうじょ」と書いてあった。
「面白いんですよこれ、異世界からやってきた少女が、周りとのギャップに苦しみながらもなんとか生きていくお話で……」
嬉しそうに本の内容を話す幽々奈。僕はその光景がうれしくて思わず微笑んでしまった。
「?、なにか変なところありましたか?」
「いや、何でもないよ。続けて?」
「はい。で、ですね、なんといってもこの本の面白いところは少女の設定にあって」
―――自身の思いを形にしてしまうんです。
「っ!?」
思い、形にする。
あまりにも聞きなじみがありすぎる言葉。
それもそうだろう。嶺との会話。
―――能力は過去の出来事にちなんだものになる
これは偶然なのか?翔は思わずその本を手に取りざっと目を通す。
異世界から来た少女。その不自然な風貌によって迫害を受ける。
だがその少女は優しい性格の持ち主だった。
ある時、村が火事によって炎の海に包まれる。
何とかしたい。彼らを助けたい。
その思いは形となり、その村の頭上に雨雲が一面を覆う。やがて雨が激しく降り始め、火事は消化された。
この一件によって、少女は村の人々に受け入れられ、幸せな日々を送る。
こんな幸せな日々がずっと続けばいいのに。彼女はその体を犠牲にして、村に永遠の平和を与えた……
内容に既視感がありすぎた。火事が雨によって収まる。これは浩の出来事だろう。火事が起きた際に浩が水を放出してその場を収めた。ほとんど一緒だ。
だが後半の内容に通ずる出来事は起きていない。なら単なる偶然なのだろうか……?
いや
――――僕はこの本の内容を知っている。
どこで?読んだことすらないこの本を?いったいなぜ?
考えろ。思い出せ……思い出せ……
「あ、あの~、先輩……?」
彼女の声で現実へと引き戻される。
「大丈夫ですか?考え事してたようですけど……」
「あ、うん。大丈夫。気にしないで……」
「ならいいんですけど……」
彼女を心配させることはしてはならない。このことは後で考えることにしよう。
「絵本、好きなんですか?」
ふいに幽々奈が尋ねる。
「絵本というよりは、現実離れしたものが好きでよく読んでるというか……」
話がずれてしまっただろうか、思わず黙ってしまう。
「私は絵本好きですよ。短いページにたくさんの世界が広がってて。そして何より、作者の伝えたいことが直接伝わってくるんです」
「伝えたいこと、か……」
「はい、私はあまり人と関わってこなかったので、こういうところから人に触れるしかなくて」
「……」
「なんて、暗い話をしたら先輩とのせっかくのデートがつまんなくなりますよね」
「でっ……!」
せっかく僕が思わないようにしていたことを。そんなことを急に言うものだから意識してしまった。
「そろそろ部長たちが面白くなってることだと思いませんか?行きましょうよ」
幽々奈に連れられ、二階のファッションエリアに向かうことにした。
――――――――――――――――――――――――――――――
「ちょうどいいところに!二人とも、どっちがいいか判断してほしいっす!」
どうやら部長ファッション対決の衣装が決まったようだ。まずは嶺からのようだ。
「それでは、ご登場ください!パチパチパチ~」
そこに現れたのは、ダボっとしたボーダー模様のオーバーサイズを身にまとい、下にはチノパンを穿いているシンプルなファッション。ザ、今どきの高校生といった感じだろうか。
「おぉ……おしゃれ……」
「これが『りょーさんけい』ってやつですかね?」
二人の総評としてはなかなかのものだった、部長の反応も悪くない。それどころか少し照れている。それを見た嶺が小さくガッツポーズをしたのを、翔は見逃さなかった。
「はいはいはい!次は俺の番っすよ!」
もういいでしょと言わんばかりに部長を試着室に押し込む享。どうやら好感触であったことが気に食わないらしい。
「どうやら着替えたっぽいっすね!じゃあ俺の考えた最強の部長!出てこいっす!」
出てきたのは白いシャツに身を包み、下は黒いスキニーパンツ。部長のスタイルの良さが出ているかつさわやかにまとめてるファッションだった。
「おおぉ……」
「こ、こっちが『りょーさんけい』?」
というわけで、部長ファッション対決が終わったが、どちらも甲乙つけがたい、というか、つけられない。翔は今までファッションに興味を示していなかったから、どちらがいいかなんてわからない。幽々奈は幽々奈で今まで勉強しかしてこなかった。正直言って人選は最悪だった。
「せ、制服で登校することを強制してる学校が悪いもん!」
「そーだそーだ!」
「ったく、困ったすねぇ……これじゃ勝敗つかないっすよ」
「まぁ、部長は私を選ぶに決まってるので、桐川君はあきらめてもいいんですよ?」
「自信に満ち溢れているようで。その傲慢さを少し分けてほしいくらいっすねぇ」
ファッションセンス皆無の二人を置いてバチバチとやり合う。
早く部長が試着室から出てこないといつまでもこのままなのだが……そう思ってると、少し恥ずかし気な賢司が、ひょこっとカーテンを少し開けて顔をのぞかせる。
「あ、あの~……これ、どっちも買っていいか……?」
「「え!?」」
「あっ、二人とも俺のためにしっかりと考えてくれたから、どちらか一つを無下にしたくないんだが」
「「ぶ、部長……」」
「どうやら引き分けらしいですね」
「うん、喧嘩にならなくてよかったよ……」
部長は、二人が選んでくれた服をかごに入れ、レジへと向かう。帰ってくると、その表情が少しひきつっているように思えた。
なるほど、高かったんですね……
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