第14話 生きる理由
「お待たせしました」
そう言いながら走ってくるのは彼女、月見幽々奈。
今日は待ちに待った日曜日、翔は誰よりも早く集合していた。
「君が月見君か」
「初めまして。今日は楽しみましょうね」
「は、はい。よろしくお願いします……」
「そんな緊張することないっすよ。みんなとても良い人っすから」
といっても翔以外は初対面。ここは僕が主となって彼女を楽しませてあげるのがいいだろう。
「あ、あの……」
「どうしたんですか?幽々奈ちゃん」
「私、遊園地初めてなんです……」
「ああ、そういうことなら気にする必要はない。俺も初めてだ」
「ていうか部長、外で遊んでいる姿見たことないですよね」
「えぇ!?そうなんですか?」
「あ、あぁ……どっちかというと家で過ごす方が多い……」
「家でしか過ごしてないじゃないですか、何ちょっと見え張ってるんですか」
「う、うるさい……」
「じゃあここでは俺が先輩っすね!休日の楽しみ方というのを叩き込んでやるっすよ!」
「ま、待って~!招待券ないと入れないよ~!」
「行くっすよ~!」と、享は誰よりも早く入口へ向かう。翔はその後を追いかける。「やれやれ」と三人はその後を歩いて追いかけるのだった。
「まずはゴーカートっすよ!」
「ま、待て。子供が車を運転していいはずがない!」
「おもちゃだから大丈夫ですよ。ほら準備しないと」
「ひゃっほおおおおおおお!!!」
「き、きゃああああああああ!!」
「つ、月見さん!!ぶつかる!!」
ガッシャンと大きな音が鳴る。角を曲がり切れずに思い切りぶつけてしまったようだ。
「だ、大丈夫!?」
「も、もう車運転しないです……」
「天木君、幽霊って信じてますか?」
「お化け屋敷でそんなこと聞かないでくださいよ……怖いです……」
「女子がいる前で叫んだらカッコ悪いっすよ?」
「もう、享君まで……」
と、そこにお化けが襲い掛かる!
「どわああああああああああああああ!!!」
「うわああああああああああああああ!!!」
「ひゃああああああああああああああ!!!」
「仲良く二人で叫んでるのめっちゃ面白いっすね」
「きゃっ、部長~怖いです~!……って、あれ?」
腕をつかもうとしたが空振り。一人で先に進んでしまったらしい。
「部長……はぁ……」
「一番恥ずかしいやつっすよ……」
「やっぱこれは乗らないとっすよね!」
「天木先輩、死ぬときは一緒ですよ」
「縁起でもないこと言わないでよ!?ほらだんだん上がって……」
「確か100mまで上がっていくとか」
「ひ、100!?」
「今の位置的に……残り20だな」
「こんな状況でよくわかるっすね!?」
「ほらほら……てっぺんまで登って……落ちる!」
「「「きゃあああああああああああああああああ!!!」」」
地の底まで叩き落されているかのようなスピード。僕はもう、死ぬかもしれない……
「いえええええええええい!!楽しいっすねぇ!!」
「も、もう無理……声でない……」
叫びすぎた。もうのどがガラガラだ。
「時間も丁度お昼ぐらいですし、フードエリア行きましょうか」
「あ、あぁ……」
「男二人がダウン。情けないっす……」
享に半分もたれかかるような姿勢で移動する。到着してまず買ったのはもちろん飲み物。この気分の悪さをどうにかしなければ。
「んっ、んっ、んっ……はぁ、生き返った……」
「先輩大丈夫ですか?」
「うん、何とか生きてるよ」
「いやぁ、天木君の反応は面白いですね。もっとスリルある乗り物探しておきますか?」
「え、遠慮します……」
「さぁみんな!勇者ピエールがピンチだぁ!『ピエール頑張れ』と応援しよう!せーの!」
「「「「ピエール頑張れー!!!」」」」
「俺は負けないぞぉぉぉ!!」
「す、すごい!人間が宙に浮いた!?」
「屋外のステージで仕掛けを用意出来そうな場所もない。まさにマジックだな」
「っすねぇ!めちゃくちゃすごいっすよ!!」
「よおし!勇者が復活した!あとは一緒に魔法を撃ってくれる仲間を募集するぞお!今日は……そこのお嬢ちゃんだぁ!」
「わ、私ですか!?」
「月見さん、がんばれ」
キャストに指名されておそるおそるステージへと上がる。
「ピエールが『せーの』と言うから、その後に合わせて『ファイアー!』と叫んでくれぇ!」
「は、はい……っ!」
「よし、お嬢ちゃん!一緒にこの魔王を倒して世界を平和にしよう!せーの!」
「ファイアー!!!」
「ふ、ファイアー!」
叫んだ先からリング状の火の玉が魔王めがけて飛んでいく!
「ぎゃああぁぁ……」
「やったぁぁ!魔王を倒したぞぉぉ!魔王に勇敢に挑んでくれたお嬢ちゃんにみんな拍手!!!」
夕方。部長は用事があると先に帰宅した。そして二人は観覧車に乗っていた。
「……綺麗な景色だね」
「そうですね……」
「き、今日は楽しかったね!」
「そうですね……」
……
会話が続かない。すごく気まずい。
「えっと……また来たいね!」
「そうですね……」
「あ、あの……えっと……」
「天木先輩」
「な、何!?」
「今日はありがとうございました。すごく楽しかったです」
「こちらこそ、僕もすごく楽しかったよ」
「ゴーカートもお化け屋敷もジェットコースターも、全部初めてで、とても新鮮で、こんな世界があったんだって、私、知りませんでした」
「良かったぁ……!そうやって言ってくれると誘った甲斐があるよ」
「私、今日のこと絶対忘れません。ずっとずっと」
「僕もだよ。絶対忘れない」
そこに見えるのは夕焼け。彼女の目元がきらりと輝いていた。
「いえ、忘れてください」
小さな声でそ呟く。その隣には”何か”がいた。
「忘れてって……なんでそんなこと!」
「今日のこと、お母さんには言ってないんです」
「う、うん」
「だって絶対許してくれないから。今日のことがばれたらすごく怒られちゃいます」
「だ、だったら僕も一緒に謝るよ!」
「いいんです。遊ぶのを禁止されてたのに行った私が悪いんですから」
「悪いなんて、そんなわけない!」
「悪いんです!何もない私に思い出を作る資格なんてないんです……」
沈黙が訪れる。そこに聞こえてくる謎の言葉。
―――来る。きっと僕は彼女のことを忘れてしまうんだろう。それも何回目なんだろうか。
また彼女を忘れ、彼女が苦しむ。そんな結末を迎えていいのだろうか?
――――そんなわけがない
「何もないわけない!月見さんはすごく素敵な子だ!」
「……え?」
「初めて会ったとき不思議な子だと思ったんだ。いきなり話しかけてくるし、その……距離感近いし。だけど話しててすごくいい子だってわかって。誰よりも勉強を頑張ってるし、それが悪い子なわけないんだよ」
「でも、失敗しました……」
「失敗なんかない!月見さんの今までの努力を失敗という一言で済ませていいわけがない!」
「でも……っ!」
「確かに目の前のゴールは失ったかもしれない。だけどそこが人生のゴールじゃない。一歩一歩各ずつに進んできた、その努力こそが成功って言えるんじゃないかな……と僕は……思うけど……」
「……」
観覧車が頂上を迎える。夕日がきれいだ。
「なんでそこまでしてくれるんですか……?」
「それは―――」
そこに流れる存在しない記憶。いや、存在したはずの記憶。
”何か”の影響だろうか?彼女との出来事が頭の中に鮮明と浮かぶ―――
「初めて歌声を屋上で聞いて、きれいだなって思って」
「っ!?何で……覚えて……」
「出会ってまだ間もないけどさ、壊したくなかったんだ。月見さんとの思い出を」
「これからどうすればいいんでしょう……」
「今日みたいにさ、またみんなで遊んで思い出を作っていこうよ」
「でも、私には何もないし……」
「何もないわけがない。これからみんなで君を見つける」
「また消えたいなんて思ったら……っ!」
「二度とそんな思いはさせない!これから僕たちが君を支える!辛いときは何度でも慰める!暇なときはいつでも遊びに付き合うし!またそうやって消えたいって思ったときは、僕が君を肯定する!」
―――僕が君の、生きる理由になる!
「ぁぁぁ……っ!!」
そこからの間、観覧車が下がり終わるまで、翔は幽々奈をずっと抱きしめていた。
――――――――――――――――――――――――――――――
「もう歩けそうですか?」
「……うん」
って、何をやっているんだ僕は!?めちゃくちゃ恥ずかしいこと言ってたよね!?
「僕が君の、生きる理由になる」
うわああああああああああああああああああああああああああ!!!
こんなことは今まで一度も言ったことがない。こんなめちゃくちゃ気持ち悪い言葉。彼女に引かれてないといいのだが……
「さっきまでかっこよかったのに、急にこれなんですもん」
「は、はは……」
何とか支えられながら入り口付近の合流場所へと向かう。嶺と享がベンチに座りながら二人を待っていた。
「お、お帰りなさい……って、なんすかその恰好?」
「いやぁ……いろいろあって……」
「はぁ……それじゃあ、帰りましょうか」
そこからは奇跡と呼べるほどうまく話が進んでいった。
まず彼女からの「能力で迷惑をかけない」という告白。さっきの出来事……はなんとか言わないでいてくれたが、これからはしっかりとクラスになじんでいけるよう頑張るとのことだった。
また、部長が単独で月見家へと向かっていたらしい。遊園地でいきなり帰ったあの日だろうか。幽々奈が帰るとまず両親からの謝罪。いままで苦しめてきたことをすごく謝られたという。そこからは勉強で苦しめられることもなく、外出も咎められることが無くなったらしい。
そして場所は異能研究会に移る。
「え!?部活に入りたい?」
「はい、この部活のおかげで私は救われました。今度は私も救う側として頑張りたいんです!」
「こちらとしては歓迎するが……君はもう普通の生徒と言ってもいいだろう。やりたいことがあるなら、そちらを優先しても全然かまわないんだぞ?」
「いえ、私が一番したいのは」
急に僕と腕を組み始める。
「天木先輩と一緒にいることですから」
「「「!?」」」
「ふぅ~!熱々ですねぇ」
「天木さんが自分より先にリア充……許せないっすね」
「い、いや!これは違う!」
「あ、あまり変なことはするなよ……?」
「ぶ、部長まで……っ!」
「これからいっぱい思いで作りましょうね!先輩!」
「ご、語弊がすごいよぉ!?」
そうして、月見幽々奈が異能研究会の一員となった。
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