第11話 知らない再会

 「二手に分かれましょう」ということで翔は上の階を、嶺は下の階を捜索することにした。

と言っても心当たりがあるわけでもないので、各教室などを回ってみるが、もちろんいるわけがない。せいぜい吹奏楽部が空き教室を使っているくらいだった。


「一年生なら一階の教室なのかな……?」


なんて思うも、嶺から来た連絡には「いませんでした」の文字。これで完全に手掛かりがなくなってしまった。


「うーん……もう学校を出た後なのかな……」


容姿がわかれば校門前で待ち伏せなどもできるが知っているのは学年と名前のみ。完全に意味がなかった。

ここで「一応屋上も行ってみてくれませんか?」とメッセージが来る。めったに人が来ることがないらしいので、いたらラッキー程度に思っているのだろう。丁寧に行き方まで載せてくれていた。翔はそれを頼りに屋上へ向かう。



屋上への階段を上りドアを開ける。そこにはとある女子生徒がフェンス越しに景色を眺めていた。ガチャ、という音に気づいたのかこちらに振り向く。


「……?」


「あっ、ごめん。驚かせちゃったね……」


「天木先輩じゃないですか。こんばんは」


「こんばんは……って、え?」


彼女とは初対面だ。なぜ僕の名前を知っている?知らないうちにどこかで会ったのか?

いろいろな考えが頭をよぎるがやはりわからない。


「なんで……名前を知ってるの?」


「あー……まぁそんなことはどうでもいいじゃないですか」


「少しお話ししましょう」と、彼女は翔に対して手招きをする。断るに断れずその誘いに乗ることにした。



――――――――――――――――――――――――――――――


「えっ!?君が月見さん!?」


「はい、そうですよ」


 話をしていくうちに彼女が探していた人物であることが分かった。まさか本当にいるとは思ってもいなかったので、少し拍子抜けしてしまう。


「どうしたんですか?そんな変な声出して」


「い、いや、ちょっと君を探してて……」


「?、探してた?」


「うん、えっとね……」


部活の一環で”何か”の影響で能力を得た人物を探していること。そして幽々奈こそが能力を得ている人物なのではないかということを説明した。


「それで……君の能力が『記憶を消す能力』なんじゃないかって思ってるんだけど……」


「そうですか……」


幽々奈が一息つくと、続けて言葉を発する。


「それで、何がしたいんですか?」


「……え?」


「私を探していたからには何かされるんですよね?何がしたいんですか?」


「あっ、その、能力を下手に使わないようにお願いしようかなって……」


「言われなくてもそんなことしないですよ」


ため息、呆れ混じりに話すとそのままドアのほうへ向かう。


「ちょっと!どこへ……」


「今日はもう帰ります。くだらない遊びに付き合わせないでください」


―――先輩が居場所を奪うような人だったなんて思わなかったです


バタン!と勢いよくドアが閉まる。一人取り残された翔。

タイミングよくスマホの通知が鳴る。相手は嶺。「どうでしたか?いましたか?」の文字が。

「いたけど帰りまし」……いたって?誰が?

なんで屋上に長居している?もともと誰もいなかったはずだ。


―――僕は何をしていた?


「いなかったです」そうメッセージを打ち込んで屋上を後にする。



――――――――――――――――――――――――――――――


「やっぱり見つかりませんよねぇ」


「手がかりが少なすぎましたね……」


 二人は部室に戻ってくると賢司と享の帰りを待っていた。それほど待つこともなく帰ってきて、互いに成果がなかったことを報告した。


「そうか、ダメだったか……」


「まぁ情報が少ないから仕方ないっすよ」


時間もそろそろ部活終わりに差し掛かる。タイミングがいいので今日は解散となった。

「お疲れ様」四人は校門前であいさつを済ませた。そして翔は駅へと向かう。

と、帰り道の途中でそういえば、とノートが切れたことに気づいた翔は通り道にあった書店に向かう。


「これでいっか……」


おしゃれなデザインなどを求めていなかったので、適当に目についたものを取りレジへと向かう。


「ありがとーござっした~」


会計を済ませて出口へ向かうと「天木先輩!」との声が、振り返ると見知らぬ女性がいた。同じ高校の制服ということは僕の後輩なのか?いやでも知らないし……

なんて考えるよりも聞いたほうが早かった。


「えっと……誰?」


「とりあえずついてきてください」


「えっ!?ちょ、まっ!」


急に手を握られて動揺してしまう。そんな様子を全く気にせずに彼女はどんどんと走っていく。

進むこと数分、とある家に到着した。彼女の家だろうか?


「急で申し訳ないんですけど、今から私の話に合わせてください」


「えっ!?合わせるって急に言われても……」


「とりあえず頷いとけば大丈夫ですから」


翔の話を聞くことなく家の扉が開く、そこにはいかにもインテリといった風貌の女性が立っていた。きっと彼女の母親だろう。


「……ただいま帰りました」


「遅い。何をしていたんですか?そしてこの男性は?」


「えっと、今日の授業でわからないところがあって先輩に教えてもらってました。ね、先輩」


「そうなんですか?」


「え!?あ、はい!」


急に話を振られてびっくりしたが、合わせろとのことだったので何とか話を合わせる。明らかに母親の目つきが疑っているという雰囲気だったが深く追及されることはなかった。


「はぁ……ならいいでしょう」


「……」


「もう時間も遅いからってここまで送ってくれたんです。あまり責めないでください」


「わかりました。幽々奈をここまで送ってくれたこと感謝します。それでは」


「先輩、また明日」


そうして翔は玄関前に一人取り残される。

だがそこで思い出す。最後に聞こえた幽々奈って名前、もしかして……

表札を見てみると「月見」の文字が。ここが探していた人物の家だったとは。


「なんで月見さんが僕を……?」


いろいろ不審に思うところはあるがいつまでもここにいたら不審者に思われてしまう。早いところこの場を後にして駅へと向かうのだった……

何をしていたのか覚えているはずもなく―――――

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