2章 消滅を望む少女

第8話 欠けてる?

「へー、異能研究会ってとこに入ったのか」


「うん、能力について調べるだなんてまさに僕のために用意された部活!みたいな?」


 昼休み、翔と浩は学食でご飯を食べていた。

陸上部が元通りになった後、ライは浩の元を訪れていた。「悪かったね」と正直ではないものの謝罪をしたことに対して、チャーシュー丼1回おごるだけで許してあげてしまう浩のやさしさに少し笑みがこぼれた。


「で、入ってから結構経つけど、何かわかりそうか?」


「それが全然……、ライ君以降変な能力のうわさも聞かないし……」


「そうか……俺も始業式以来変なことは起きてないしなぁ……」


浩の能力かどうかは不明だが、過去に火事になった家を自ら水を放出することで助けた例がある。だがそれ以降事件がないこともあり、能力はいまだ姿を見せていない。


「まぁ、普通が一番!みたいなところはあるしいいんだけどさ、なんかもやもやするっていうかなぁ……」


「だね、部活で何かわかったら教えるよ」


「お、よろしくな!」


「ご馳走様」、二人は学食を後にして教室へ戻る。そして放課後になる。




――――――――――――――――――――――――――――――


「能力が生まれる条件、か……」


「なんなんでしょうね?私は気づいたら出来た~って感じですし」


「何か過去にこういう事例があったらいいんすけどね、普通に考えてあるわけないっすけど」


 翔は異能研究会で能力についてわかったことがないかを質問していた。だがそんなことがわかるはずもなく推測で話が進んでいく。


「神に選ばれし者だけが能力を授かる……運命感じちゃうっすね!」


「その条件がわからないんだがな……」


「まぁ、こういうのって後々事実が明らかになっていくんですよ。アニメではあるあるですからね」


「佐枝さん、現実とアニメをごっちゃにしないでください」


「ははは……」


「さて、そろそろ部活らしいことをしたいと思うんだが大丈夫か?」


ライの一件から数週間、変な能力の話は聞くこともなく、ただの雑談部と化していたのだった。大丈夫じゃないわけがない。


「何かあったんですか!?」


「何かあったというわけではないんだが……桐川君、最近一年生の数は減ったか?」


「うぉ!?いきなり恐ろしいこと言うんすね……」


まさか一年生にまつわる話だったとは。享はもちろん驚く。


「減ったって言われても……そんな話は聞かないっすよ?」


「そう、それが問題なんだ」


「?」


何を言ってるんですかと言わんばかりの嶺。賢司は続ける。


「五月の全校集会、各学年の人数を覚えてるか?」


「人数なんてそんなの気にしませんよ……」


「だろうな……」


はぁ、と一息。そして口を開く。


「一年生の数が一人少ないんだ」


「少ない……?転校したとかですか?」


「その可能性も考慮した。だが先生に聞いたら転校した人はいないらしい」


「新藤さんがそう言うってことはほんとにいきなりいなくなったんすかね……」


「不謹慎ですけど、誰かが亡くなったって話も聞きませんしね」


「誰にもわからない理由でいきなりいなくなったというなら、能力が絡んでいる可能性は十分にあり得る。というわけで、これについて調査をしていきたい」


「わからないものを調査ってできるんですかね……?」


「やるしかない。本当に能力が関わっているはずならあの化け物がいるはずだ」


「一年生なら俺に任せろっすね!今回は三人の出番ないかもっすよ?」


「そうだな、基本は桐川君に動いてもらって、何かわかったらこちらで接触する。この方針でいいだろう」


「了解っす。明日から楽しみっすね!」


「うん!また新しい能力に出会えるんだね……!」


新しい能力。いきなり人数が減るとはどういうことなのだろうか?透明人間、であれば姿は見えなくとも人数は変わらないはずだろう。ほかに考えられることは……

なんてことを考えているうちに部活は終わりの時間を迎える。明日から頑張ろう、そう決心した。




――――――――――――――――――――――――――――――



「も、申し訳ないっす……」


 翌日、部活の扉を開けてそうそう享の謝罪が聞こえてくる。


「まだ一日目だ。気にするな」


「そうですよ。わからないものを調査しろって言われてるんです。最初から期待なんてしてませんよ」


「うぅ……フォローのようでフォローじゃないっす……」


どうやらダメだったらしい。「最近いなくなった子ってわかるっすか?」と聞いて回ったものの相手にされない。嶺の言う通りでなんとなくわかっていたことだった。


「ふむ。名前さえわかればいいのだが、あいにく全員の名前までは把握してない。部長として不甲斐ない……」


「いや、ただの部活の長が全校生徒の名前把握してたら怖いですよ……」


なんて調子で話は進むが、話せど話せど堂々巡り。わからないものに対して話すだけ無駄だった。


「すいません、ちょっとトイレに……」


「ああ」


部室をいったん離れてトイレへと向かう。部室が3階の隅にあるので、一番近くのところへ向かうとしてもまずは長い廊下を歩かなければならない。


「はぁ……立地は完全に不便だよね……」


長い廊下を歩きようやく突き当りへ。そしたら、いた。”何かが”。


「……っ!?」


それはトイレとは反対の方向へ向かう。翔は本来の目的を忘れてそれについて行く。

そしてとある階段へたどり着く。それは上へと続いていた。


「屋上……なのかな」


「―――――っ」


階段を上がっていくと何か女性の声が聞こえる。話し声ではない、とてもきれいな声。歌声と呼ぶのが正しいだろう。

階段を上りきるとそこには女子生徒がいた。”何か”はそれに近づくとすっと消えていく。それが翔をここへ呼び寄せたのだろうか。


その生徒は翔と目が合う。優しく微笑んでいるがどこか弱弱しい、消えてしまいそうな笑顔。長すぎないボブくらいの髪型がよく似合っていた。少し恥ずかしさがあったのか、翔は思わず目をそらしてしまう。だがその子は話しかける。


「どうしたんですか?こんなところに来て」




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