第6話 すれ違い
「多分彼は部活動、陸上部に何か問題を抱えています」
「詳しく聞かせてもらおうか」
翔は賢司にこれまでの経緯、ライの入っている部活である陸上部が廃部寸前であること。河川敷で見かけた彼と言い合いになり、部活の話題を口にしたらそれが彼にとって触れられたくないものであったこと。その後部室でも河川敷でも見かけないことを話した。
「ふむ、だとすると、彼はもう練習している様子はないんだね」
「それはわかんないんですけど……多分警戒されてるのかなって思います」
「天木君のお友達がやらかしたって感じなんですね」
「ははは……ごめんなさい」
「いやいい。おかげで陸上部がやばいって状況に気づけたんだ。むしろ感謝する」
「そうっすよ、この二人なんて話してばっかで全く情報得ることできなかったんですから……っていててててて!!!」
嶺がニコニコしながら享の足を踏んでいる。翔は触れてはいけない、そう感じた。
「さて、となればいつまでもここにいてはいけないな。職員室へ行くぞ」
「職員室……ですか?」
「ああ、部活の問題を聞くならまず先生からだろう」
「桐川君はお留守番ですからね~」
「了解っす。それじゃ、お先にお休みしますかね」
そういって彼はソファの上に仰向けになる。今にも寝ますといったポーズだ。
「それでは行くか、天木君、よろしく頼む」
「は、はい!」
――――――――――――――――――――――――――――――
「……めるだって!?そんなの許さん……」
「いえ……う……んです……」
職員室、奥のほうで何やら言い合っている声が聞こえる。
「失礼します。陸上部の〇〇先生に……」
言っている途中で賢司は言い合いのほうへ視線を向ける。言い合いをしていたのは、目的の陸上部顧問、そしてライの二人だった。翔は彼と目が合う。
「失礼します……って、あ」
「っ……!とにかく、もう行くことはないんで」
「ちょっと待ってよ!ライ君!」
「……るせぇよ」
「……っ」
翔を見かねてか、嶺が話しかける。
「天木君、安心してください。私、尾行しておきますね」
小さく耳元につぶやかれたその声はドキッとしないわけがなかった。「お、お願いします」と返すと、例が廊下の角を曲がったタイミングで尾行を開始した。
「ちょっと!……ったく、どうすればいいってんだよ……」
残った翔と賢司は先生への聞き込みを開始する。
「先生、今お時間よろしいですか」
「ん……?ああ新藤か、どうした?」
「実は―――」
「なるほどな。だがお前ら今見たろ、あいつ部活やめるらしいんだよ……はぁ……」
「原因はわからないんですか?」
「つってもなぁ、あんな才能の持ち主そうそういねぇよ。一年生のころはそれで噂にもなって……って、これは知ってるか」
「『神速』ですよね」
「それで……」
「ああ、練習にも真面目に来てたし……って、あいつ二年生になってからおかしくなったな」
「詳しく聞かせてください」
「二年生になってから、タイム測定で毎日記録が更新され続けたんだ。普通にすごいことだし部員も喜んだんだが……あいつはそれを良しとはしなかった」
――――――――――――――――――――――――――――――
「凄い!今日も記録更新じゃん!」
「さすがだなぁ陶山!この調子で夏大会もよろしく頼むぞ?」
「はい……頑張ります」
「えっ、今日もタイム縮んだの!?」
「す、すげぇ……さすが期待の神速だ……」
「なぁ、今日一緒に練習しようぜ!早くなるコツ教えてくれよ!」
「あ、俺も俺も!」
「……るさい」
「なんて?別にいいだろ?」
「うるさいな……!どうせ君たちには無理だよ」
「は?今なんつった?」
「だから、僕の速さには誰も到達できないんだよ。どうせ」
「お前、馬鹿にしてんのか?あ?」
「二人!何してんだ!!」
「こいつが!自分だけ才能あるからって偉そうにしやがって!」
「才能なんかじゃねぇよ……」
「言いたいことがあるならでかい声で言えよ!『期待の神速』さんよぉ!!」
「才能ない奴の嫉妬は怖いね、だるいから今日は帰ることにするよ」
「陶山!待て!」
「ああ帰ればいいさ!二度と顔見せんな!」
「……っ!わかったよ!!」
「おい!陶山が来なくなったらどうするんだ!」
「へ~、先生は才能があるほうを味方するんですね」
「そういうわけじゃ……」
「わかりました。俺ももう来ませんから」
「……真面目に練習するの馬鹿らしいな」
――――――――――――――――――――――――――――――
「それ以来、部活はめちゃくちゃだよ……俺はどうすれば……」
「ありがとうございます。詳しい話が聞けて良かったです。天木君もそうだろ?」
「は、はい……」
そう返事する翔の顔は暗かった。
「陶山君はどこに行ったか分かりますか?」
「お前ら何するつもりなんだ?」
「部活を元に戻します」
「元に戻すって……あれは無理だろ」
「大丈夫です。話を聞くのは得意ですから」
賢司は先生に微笑む。その曇りない笑顔に先生は望みを託す。
「ちなみに……何が目的なんだ?」
「いえ、大学進学に際しちょっとだけご協力いただきたいだけです」
「はっはっは!推薦か!わかった。担任にはうまく伝えてみる」
どうやら賢司はクラスの中でも上位に食い込む成績の持ち主らしい。そんな彼が望むのが推薦ということで先生は大笑いした。
「それでは、失礼します」
「し、失礼します」
――――――――――――――――――――――――――――――
「……さて、後は陶山君を探すだけだな。どこに行ったのか……」
「あ、それなんですけど、佐枝先輩が尾行してくれてるらしいです」
「道理でいないと思ったわけだ」
そこにタイミングよく賢司のスマホから通知音が、そこには『陶山君は河川敷なうです(๑•᎑<๑)ー☆』
「……か、かわいい絵文字ですね!」
「普段こんなことしないだろ……」
はぁ、とため息をつき、「とりあえず行くか」と、二人は河川敷へ向かったのだった。
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