第3話 神速
「ふぁぁ……ねむ……」
4月7日、始業式の次の日。特に何の問題もなく学校生活が送られていた。いつも通り進められる授業。いつも通り真面目に受ける生徒。いつも通り眠そうな生徒。
―――まるで昨日の出来事が嘘だったかのように
もちろん嘘ではない。登校時には先生に詰め寄り「学校は大丈夫なんですか!?」なんて聞く人もいたし、探検隊と称して学校中を調査している集団もいた。だが、ないのだ。”何か”がいた痕跡が。
そのことは昨日の段階で先生から伝えられていたことだし当たり前なのかもしれない。だがそれを信じろというのは難しい話だ。しかし、この結果が出てしまった以上信じざるを得なかった。
そして授業は4時間目が終わり、昼休みの出来事だ。
「翔~、飯食おうぜ」
「うん、行こっか」
翔と浩は学食へ向かう。それも早足で。この高校の学食には人気メニューが存在しておりそれは数量限定。好物を逃すわけにはいかない、浩の足は学食に近づくにつれて速くなる。
「浩ってばいつもこうだよね……ちょっと早いよ……っ!」
「何言ってんだよ!高校二年生になって初めての学食!それは『特製チャーシュー丼』を食べなきゃ始まらないのさ……!特製のタレで煮込まれたチャーシュー、それをご飯の上に贅沢に乗せたかと思えば、真ん中に乗せられた我こそが主役といわんばかりのトロっとした味玉……!これを食べずに授業を受けられるだろうか!否!」
「調子いいんだから……」
そんなグルメレポーターばりの感想を述べた浩に対して苦笑しつつ学食への歩みを進めていく。
――――――――――――――――――――――――――――――
「えぇーー!?売り切れたぁ!?」
券売機の元へ行くと「特製チャーシュー丼」の欄に売り切れとあった。それが信じられなかった浩は学食のおばちゃんの元へ向かう。
「ごめんねぇ、ちょうど男の子がいっぱい注文してくれてねぇ」
「そ、そんなの反則だろぉ……」
「もう食券を買ってくれちゃってたからねぇ、断るわけにもいかなかったのよ……」
ショックでその場に倒れこむ浩。ないものは仕方ないとなだめて再び食券を買いに戻る。翔は「カツカレー」を、浩は「日替わり定食」を頼むことにした。
「二年生になってそうそう、ついてねぇよなぁ……」
「そう?僕は結構楽しいよ」
「他人事みたいに言いやがって……あれから何あったか知らねぇだろ……」
昨日発生した謎の火事、それを食い止めたことによって絶大な感謝を受けた浩、その後家族の父も帰って来たことにより食事がふるまわれ幼児には懐かれる。帰るに帰れない状況で困憊しきったようだった。
「そりゃ飯は美味かったけど……子供ちょっと苦手なんだよ……」
「ははは、立派なヒーロー様だもんね。モテモテでうらやましいなぁ?」
「馬鹿にしてよぉ……まぁ、あれっきりでまた変なことは起こってないんだけどさ」
浩が徐に手を伸ばして「えいっ」と言う。だが、その手の先には六芒星のようなものが現れることはなく、何の変化も示さなかった。
「やっぱり見間違いなのかねぇ?」
「そんなことないと思うよ?あの時誰も消火器を持っていなかったはずだし」
「じゃあこれをなんて説明するんだ……っても、それがわかんないからなぁ……」
「お父さんに聞いてみようと思ったんだけど、お父さん出張でちょうどいなくなってなんだよね……ぐぬぬ」
「いくら研究者だからって、こんな不可解なことわかるわけないだろうに……」
「そうかな……?」
「ま、見間違いだったってことで。俺たちは普通の高校生に戻ろうぜ」
「そんなアイドルみたいな……」
――――――――――――――――――――――――――――――
昼食を食べ終えた二人は「ごちそうさまでした」とおばちゃんに告げ学食を後にしようとする。が、学食の奥からいいにおいが漂ってくる。
「この匂いは……まさか、チャーシュー丼!?」
「ちょ、浩待ってよぉ!」
うおぉぉと言わんばかりの速さで奥へと向かっていく浩と、それを追いかける翔。たどり着いた先には、「特製チャーシュー丼」をおいしそうにほおばる男の姿があった。
「お前か!『特製チャーシュー丼』を独り占めしたのは!」
「独り占めってそんな。君たちが遅かっただけじゃないか」
「な……っ!だからって買い占めるのはダメだろ!」
金色の髪、鋭い眼光、食べる量に見合わないすらっとした体形、パーカーの上に制服を羽織ったその青年は、こちらを見ることもなくただチャーシュー丼を食べ進める。
「返せよぉ!俺のチャーシュー丼!」
「いや、浩のではないと思うけど……」
「今はそういうツッコミいらない!俺だって食べたかったのにぃ!!」
「うるさいなぁ、昼食ぐらい黙って食わせろよ……」
「お前なぁ……」
「浩、だめだって……!」
今にもつかみかかりそうな浩を止められず、ただその場を見ることしかできなかった翔。もうだめだ。そう思ったとき、”何か”は現れた。
「―――!」
「――――qujsu-qa-qazadi」
三人の前に再び現れたと思うとまた発せられる奇妙な言語。昼食を食べ終えたのか、それに続くように金髪の男は言葉を発する
「ご馳走様。―――急いでるから」
席を立ったと思うといきなり風が巻き上がる。そして、気づいたころにはもう男の姿はなく、”何か”も姿を消していた。
「ふざけやが……って?いない!?」
辺りを見回して男を探す浩、そして呆然と立ち尽くす翔。それも無理はない。再び遭遇したのだ。―――”何か”に。
それは現れたかと思うと再び言葉を発した。それに続く金髪の男の行動。翔はその行動を見逃さなかった。あの速さは到底人間にできる・ことではない。昨日の浩の行動といい、原因は”何か”によるものだろう。後を付けたら何かわかるかもしれない。
「浩、とりあえず出ようよ。あの化け物追いかけたいしね!」
「あ、あぁ……こんな時でも冷静なのが逆に怖いな……」
よし行こうと学食を後にした丁度で昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。奇妙な出来事に気を取られこの後も授業があることを忘れていた。
「ば、化け物の調査がぁ……」
「仕方ないな。放課後に調査しようぜ。あの野郎もとっつかまえてやるからな……」
そして、5,6時間目と時間が進み。放課後、調査の時間が始まったのだった……
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