第2話 行使される力

「……ということで、不安なこともあると思うが学校自体に問題はないから、普段通り学校生活を送ってもらって構わない」


――――――――――――――――――――――――――――――


 学校中が体験した奇妙な出来事、”何か”にされたことは誰も覚えておらず、気が付くと体育館にはいない。始業式は中止になり、緊急職員会議が開かれた。内容は今後の方針についてと学校の調査。下手に動くと危険だという理由で、生徒はそれぞれの教室へ、半ば閉じ込められたかのように待機を指示された。始業式の後はテストが入っていたこともあり、サボれることに対して喜ぶものもいれば、これからどうなるのか不安で恐怖を感じているものもいた。翔はというと―――


「なんだったんだろうねあれ!?どう見ても人間じゃないし動物でもない……!あれは神だよね!?」


「お、落ち着け翔……お前がそういうの好きだってのはわかったからさ」


「落ち着いてられないよ!お父さんにも教えたら喜ぶだろうな……」


翔の父が研究者だということもあり、翔は好奇心旺盛なほうだった。父が研究内容を話してくれるときは夜通し話を聞いたこともあったし、現代にないようなものが描かれた本があったらそれを何度も読んで妄想にふけるようなこともあった。こんなことが現実にあったらな、と思ったりもした。そして、いまそれが現実となっていたのだ。興奮しない理由がなかった。


「僕たちこれからどうなるんだろうね……」


「翔の場合その言葉が楽しみなように聞こえるんだよな……」


教室中がざわめく中先生が戻ってくる。会議が終わったらしい。今後についてどうなるのか気になっていた生徒たちはすぐに静かになり、先生の言葉を待つ。


――――――――――――――――――――――――――――――


「問題はないって……あんな化け物が出たのになんもなかったっていうんですか?」


「あぁ、一応体育館中を調べてみたんだが、なにもおかしいところはなかった」


「それじゃああの化け物は!?」


「それが、どこにも見当たらないんだ……」


教室がざわめく。”何か”がいないという事実は、ざわめくには十分すぎるほどの理由であった。本当に大丈夫なのか、また何かされないのか。質問攻めにあってピリピリしていた先生は声を荒げる。


「いったん静かに!不安なのは先生だって同じだ!だからいったん落ち着いてくれ!」


「「……」」


「……今日のところはいったん帰宅とする。テストは中止だ。明日以降は通常の時間割で登校してくれ」


テストがなくなったにもかかわらずそれを喜ぶ生徒はいない。むしろ帰宅していい事実に安堵しているようだった。


――――――――――――――――――――――――――――――


「翔~」


「どうしたの?」


「学校速攻終わって暇だからさ、寄り道してかね?」


ということで、翔と浩はゲームセンターに来ていた。学校から10分程度て着く場所にあるということもありここは高校生御用達のゲームセンターだった。が、今日に関してはほかの生徒は見られない。メダルゲームで遊んでいる老人がちらほらいるくらいだった。今日の出来事の後に遊ぼうとは到底思えなかったのだろう。その点において赤城浩はマイペースといえるだろう。


「だーーーー!!またミスった!」


「あーあ……それでもう1500円だよ?スーパー行ったほうがいっぱいお菓子買えたよ?」


「うるせー!店では買えないロマンがこれには詰まってるんだよ!」


「はぁ……早くゲットしてよ?」


そういって浩の元を離れほかの場所をふらふらと歩く。ゲームが上手いわけではないので、ゲームセンターに来るといつも浩のプレイを見て楽しむ、といった具合だった。今日に関しては浩が景品のお菓子に異常な執着を見せていたので、さすがの翔も飽きてきたのだった。


「そんなにあの店舗限定ポテチが欲しかったのかな……」


なんてことを考えながら徐に外の景色を見る。現在の時刻は11時。外を歩いてる人は見当たらなく、桜の木がゆらゆらと揺れているのが風情だ。休日には散歩をするのもいいかもしれないな。そう考えてるときに何かが見えたのだ。そう、”何か”が。


「……っ!」


当然向こうもこちらに気づいている。というよりこちらを見ている。まるでついてこいを言わんばかりの様子だ。そして”何か”は学校のほうへと向かう。向かうしかない。そう思った翔はすぐに浩の元へ戻る。


「おーい!浩ー!」


「翔!ちょうどいいところに!たった今ポテチをゲットした……ってうぉ!?」


浩の自慢したげな雰囲気を無視して手を引っ張る。出口を抜けて向かうは”何か”。学校のほうへ向かったという記憶を頼りに走る。


「はぁ……どうしたんだよいきなり走って……」


「いた!いたんだよ!」


「いたって……あの化け物が?」


「そう!しかも目が合ったんだよ!」


「見間違いだろ……?多分疲れてんだよ」


「疲れてないもん!とりあえず学校行こうよ!」


「えぇ~?また学校行くのめんどいって……」


いいから、と浩の言葉を無視して学校へ向かう。さっきは体育館にいたのだからまた学校にいるだろう。そんな淡い期待を寄せながら。そして翔の期待は―――


「……あれ?」


「ほらな?やっぱ見間違いだったんだよ……」


正門前まで来たが、いるような雰囲気はない。正確には、学校の中までは見ていないのだが、生徒を案じてのことだろう。学校内に入ることはできなかった。


「うーん……学校は入れないし、やっぱ見間違いだったのかな……?」


「そうそう、もう帰ろうぜ?俺疲れたよ……」


「うん……」


ここまで連れまわしておいて、また自分の都合で振り回すわけにはいかない。浩の言葉に従い帰り道を進む。翔の心にはもやがかかっていた。


「なんだ、つまんない……」


そんなことを思いながら駅までの道を進む


「なぁ、なんか臭くないか?」


「臭いって……確かに焦げたにおいするかも」


においのもとは駅の方面からだった。何かがあったのかと思いそのまま先へ進む。においに近づくにつれて温度が増しているように感じた。まさか、火事だろうか。その不安は的中し、たどり着いた先には燃え上がった一軒家があった。


「火事だー!逃げろ!!」


「ちょ……っ、やばくないかこれ!?」


「早く消防士を呼ばないと!」


翔がとっさにスマホを取り出し電話をかけようとする、ができない。スマホの充電は丁度なくなってしまったようで電源が付く様子はなかった。


「あぁもう!俺が掛ける!……ってない!ゲーセンに置いてきた……」


俺を見かねて浩も電話を取り出そうとしたがゲームセンターに置いてきてしまっていたようだ。周りの大人も冷静な判断ができていなく通報するそぶりもない。もたもたしているうちにどんどん燃え広がっている。


「たす……けてぇ……!」


「この声……中から!?」


浩と翔が二階を見ると、そこには幼児を抱きかかえた女性の姿があった。どうやら逃げ遅れてしまったらしい。


「どうしよう!助けなきゃ!」


「って言っても……どうすればいいんだよ……っ!」


何かしたくてもしてあげられない。だからといってこの場を離れるわけにはいかない。絶望的な状況だった。


「誰か……助けて……!」


その時、”それ”は聞こえた。


「―――――!」


日本語ではない何か。もう一度耳を凝らして聞いてみる。


「―――――qi-no-sepe」


その言葉は浩にも届いていたのか、はたまた操られたのか。手を家のほうに向けて言い放つ。


「火を―――消せ!!」


魔法陣、だろうか。手の先には六芒星のようなものが現れ。その先から大量の水が一軒家めがけて放たれる。


瞬く間に火はなくなり、女性らも急いで出てきた。


「はぁ……はぁ……」


ひどく消耗しきった浩はその場に崩れる。


「すごい……!今なにしたの!?」


「わ、わかんない……気が付いたら勝手に……」


異能力とも呼ぶべきその力に興奮しきっていた翔は、浩に対して質問攻めをしていた。浩は疲れていたこともあり、ただ「わからない」と流すのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――


 その後は、というと、騒ぎを聞き付けた警察によって事態は収束した。浩の放った力に対して疑問は持たれたが、今は「火を消してくれたことに感謝」とその疑問が大きく広がることはなかった。これでようやく帰れる。ぜひお礼をと連れられた浩を置いて翔は駅へ足を再び進めるのだった。



そうこうしているうちに家へたどり着く。早く父に話したいと思い居間へ駆け足で向かうが、その姿はなかった。母によると、ちょうど研究で出張しなければいけないらしく家を空けるそうだった。タイミングが悪いな、と口をとがらせながら翔は自室へ向かう。


「なんだったのかな……」


始業式での出来事、遭遇した”何か”、そして浩の能力。いろいろなことがありすぎて翔は興奮と疲労でおかしくなってしまうそうだった。


「お父さんだったらきっと教えてくれるよね……?」


時刻は13時、とりあえず疲労を癒したいと考え、束の間の眠りにつくのだった……



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