視線

 そもそもインフラに施設等々が旧態化したので、戸来町は準限界集落になるのに、物見遊山で集まる輩がいるから、小さきから大き迄の惨状になる。


 物見遊山は、戸来町は青森市内で最大の戸来市営墓地を抱えており、旧態化したあたりから、通える心霊スポットに成り下がったのが大問題だ。

 そんなの大心外だと、市議会で議論になれば良いが、町内人口が激減し老化した今も、誰も声を上げる迄も無い。


 それでは戸来町にくまなく心霊現象は本当にあるのかは、ややと答える。

 俺の親戚にして一つ上で生涯県内一筋の藤原真希は霊感が冴える。

 真希は俺の家のやや近所に住んでいる為、小中高は程なく一緒で、俺の家に入ればほぼ姉扱いで、引っ込み思案の俺は真希の背中に隠れては、姉の友達との付き合いが多い程だ。

 真希はどの時点から冴えたかはただ何となくで、そう言う発露は青森県民としてままある事らしい。

 真希は改めて語る。


「師匠からの引用も多いけど、ありきたりの幽霊が見えた時点でもうアウトなのよ。霊体はただの次元の存在、そんなの抽象的なの見える筈もないでしょう。そのアウトは、自身と霊体がスタックしては脳神経が侵食されて見えてしまうものよ。いざ仕組みを知ると怖いわよね。師匠クラスでも油断するとスタックして、空間がひしゃげた程の霊体の大物と対峙したらしいから、くれぐれも言うけど気を付けてね。気を付けては、実淳も私と一緒が長いから、見つめていると空間が理由もなく屈折して、残影が浮かぶ事があるでしょう。そうね、一切近寄ってはダメ。緊急事態になってもお札を渡してるから、九字を切ってね」


 真希はもう一角の霊能者かだ。ただ霊体の残影が見えても、本当に祓えるのは寺社の高僧だけで、それ以外は逃げるしかない。


 春の樹木の傍、お盆の人寂しさからの無人でもの入店音、年末のそこはかとない存在の有りよう。

 そんなのを是非共にもスマートフォンで撮りようも無いのに、まるで分かっていない。もう既に霊体はお前達のすぐ側にいるんだよなんて、言ったら一笑に付されるか。


 俺の父は唯一の趣味がカメラで、アナログとデジタルに関わらず良い逸品は収集している。そう、何かにつけては写真を撮り、取り分け真希姉と俺の遊興写真が多いので、知れずと本当の姉と思ってしまうのは本懐だ。全てがただ輝かしい思い出だ。


 そして師匠とは、名前は辻元學で青森在住のカメラマンを営んでいる。父とは歳差はあるが親友であり、俺達がカメラをきっちり固定出来る筋肉が付いた頃から、丁寧なレクチャーを受ける。いやカメラだけでは無く、日々の何気無い薫陶から人生の師匠とも言える。

 真っ先に才能を発揮した真希は、そのまま中学校高校と閑散とした写真部に積極的に籍を置き、俺はサッカー部にも関わらず、文化祭の作品の点数獲得としてよく借り出された。


 そう文化祭、何故か写真部の展示は女子でいつも賑わっていた。真希はただ自慢気に、私自らモデルを選抜しては俺にポートレートを撮らせていたので、ほらごらんなさいになる。


 いや待てよ、そのアングル、くすりと笑うと右人差し指を丸めて下唇に当てる少女がいた。タイトル日曜礼讃。浪速カトリック教会での合唱後の一コマそのまま。

 俺は知ってる。今もその癖は、同棲中の彼女三柴美登里もだ。

 俺は必死にその輪郭のカーブを重ねる、確かに近い。ただ今の美登里は目元が涼やかだ。でも笑うと目尻が果てしなく下がる。そう言う事か。俺達は出会うべくして出会っていたのか。


 俺は小中高と花のサッカー部で満遍なくモテた筈も、フォワードであるにも関わらず俺はとんとだった。

 中学3年のヴァレンタインデーが余りにも末路だったので、同じクラスの女子に意を決してエネルギー源のチョコレートくれよと催促したら、実淳の女性関係は真希さんが全て管理してるから、許可無く上げられないとけんもほろろどころか、やりかねないになった。

 真希姉は言ったさ。実淳は女性で必ず挫折する人間だから、私こそがきちんと選ばないとだった。


 選ばないも何も小中高で付き合った女性がきっちりゼロで、いざ大学デビューかも友達以上にはなれないフェロモンしか出せなかった。会社も男女共同参画なのに女性がとんと少ない体育会系の職場環境で縁がないまま、地元青森に帰った来た。


 そして俺が預かり知れないところで、天の配剤かねぶた祭りで美登里との運命の出会いが演出された。互いの挨拶直ぐに境界線が既に無かったのは、俺が中学校の時に、美登里の確かな眉目秀麗なポートレートを大判で飾ったからと、漸く全てを納得した。


 ああ、このまま家に戻って3階の倉庫を探して、その運命の一枚、タイトル日曜礼讃を見つけたい。

 もっとも見つけたところで、美登里に真希姉から、やっとなの、実淳そう言う感じよね、何か奢ってよになるに違いない。きっちり奢るさ、その為にこの厳冬の通勤危険手当をしっかり分捕ってみせる。ああ日々生き抜いてやるさ。

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