常連
そして2度の車中凍死事故に戻る。何れもマウトストア戸来町店の曰く付きの上客だ。いや癖のある常連だ。
何故準限界集落の戸来町に、身分不相応の上客が来るかだが、理由は二つある。一つは市内にほど近い心霊スポットとしての戸来市営墓地一帯故に。一つは宵ともなれば人っ子一人もおらずの閑散風景で、羽目を外してカーセックスに没入出来る。
春は戸来市営墓地一帯は桜並木が咲き乱れ、よくドライブで回る市民が訪れる。ただそれも昼間の話で夜はライトアップすらないので、やがて閑散な無法地帯になる。
夏は先輩後輩の人伝てから、心霊現象のあれこれを聞き、肝試しがやがて始まる。ただあまりにも街灯が間引きされているために、遭難必至で、やがてマウトストア戸来町店に集い解散になる。
秋は紅葉模様でここもドライブで回る市民が訪れ、程々満喫しては市内に戻る。そしてまたも夜は閑散な無法地帯に。
冬はその積雪から除雪車がどうしても途中で挫けて。麓がやっとの除雪になる。冬では無法地帯は無いだろうも、除雪がやっとの戸来町では道路位の身動きしか取れなくなるので、逆に御構い無しの24時間フルタイムの無法地帯真っ盛りになる。
そんなに1年中盛っててどうしたのかになるが、市内のラブホテルは軒並み老朽化で閉館し、致す場所が碌に無い。相当昔に戸来町にもモーテルがあったが、今や外観は蔦に覆われ認定心霊スポットになっている。
それではどこで致すかになるが、戸来市営墓地は時間外は辛うじて完全閉園になるので、限界集落唯一のスーパー:ネザースーパーの駐車場か、限界集落唯一のコンビニ:マウトストア戸来町店の駐車場になる。
ネザースーパーは深夜配送便のトラックが有り、察した運転手がよく豪快にクラクションを鳴らすので、行為時間が短いアベックしかいない。
そしてうちのマウトストア戸来町店だが、旧墓石店ともあってコンビニに相応しく無い広大な駐車場を誇る。監視カメラもある事はあるが最低限のプライバシー保護しか無いので、適用外はアベックさんどうぞ御自由に、良かったら店でもお買い上げ下さいの雰囲気になってしまっている。呆れては善次店長につい言うが、次第に刺激がなくなってほぼ別れるからほっとけだ。
別れるより先に、最悪の状況下で身罷ったのは常連2組。
1組目は去年も同じ1月中旬の瞬間豪雪で、戸来町よりの1度目の陸橋でスリップで上りきれずに凍死した、赤いマツダのロードスターRFのアベック、たけちゃんとあさみ。
俺が24時のシフト交代に向かう途中で発見した。2時間で積雪30cmになったことから、戸来町をよく知る者は往来を断念する筈も、スポーツカーの筐体では戸来町脱出は到底不可能だった。
当時はそうなるかしかなかった。たけちゃんは巨漢のチンピラで、匂い立つ美人のあさみとW不倫を夜な夜な繰り返していた。中年揃っていちゃいちゃしながらコンドーム持ってきて買うのが毎度うんざりだった。
そしてスポーツカー故に車内セックスは困難なのかで、深夜の外の清掃に出ると、真っ裸で無いが車に掴ませ立ちバックで二人でキャンキャン言っていた。
それなら車内で満喫出来る様に、日々お世辞でもRV車良いですよねと進めておけば良かったか。
2組目はついさっき前の出来事、健闘はしたが戸来町よりの2度目の陸橋でスリップで上りきれずに凍死した、白いメルセデスのAMG CLA 45のアベック、ありさんとはるこ。
先程の出来事だが、俺はこの豪雪でもマウトストア戸来町店に無事辿り着かなくてはいけないので、ついさっきの生々しい凍死事故は思い出すのは後だ。
高出力の外車でも3つの陸橋を超えられないなんて、ラニーニャ現象にしても。この先も戸来町で暮らして大丈夫なのかだ。それは通う俺も含めてか。
そう嫌な予感はしていた。ありさんは自称会社経営者のお調子者で、羽振りの良さから年相応の本町のホステスはるこを連れ回している。
二人の共通の趣味がYouTubeと言う事で、好きあらばスマートフォンで愉快に動画を撮り続けている。
その行為が行きすぎると、是非俺に野外セックスのカメラマンになってくれと懇願されるが丁重に何度も断った。深夜の外の清掃に出ると、ご丁寧にスマートフォンのスタンドが立っては、憚らずアンアン聞こえるので、大切なカメラをそう言うことに使うなと、心の声で吠えていた。
共に悲惨な凍死は、自ら招いた過失だ。大失敗だ。大人ならば、誰かが止めなくても節度はあるだろうも、結局は準限界集落の戸来町で伸び伸び出来るなら、何処かで分かっていても気持ちは大きくなるものか。
と言うべきか青森県民ならば、何を積雪に油断する。俺は必死にまっさらな深雪の中を只管進む。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます