第143話 処刑台に全員集合したのですが
青ざめるユリアスに、彼女はさらに厳しい声で言います。
「だいたい、ユリアス様が持ち出したそれ、何百年前に作られた法律ですか? 絶対改定したほうがいいと思います。心の中で誰を想おうと、それはその人の自由だわ。心を縛るなんてできるわけないし、やっちゃいけないことだもの」
それから私の手を取り、
「みんな、聞いて!」
エリシャは広場に向かって声を上げました。
「想像してみてほしいの。自分の家族や大切な人が無実の罪で殺されるところ。そんなの絶対に耐えられない。みんなもそう思うでしょう?」
風を受けてふくらむ髪。
輝くアメジストの瞳。
彼女の姿は魔法のように見る者を惹きつけ、魅了します。
「私の知ってる遠い国ではね、自白だけじゃ有罪にならないの。嘘かもしれないし、無理やり言わされたかもしれないでしょ? ちゃんと客観的な証拠がなきゃだめなのよ。さっきフラウちゃんが話したように、今回の事件は誤解が生んだのかもしれない。つまり、ええっと……陛下とノイン様が膝を突き合わせて、とことん話し合うっていうのはどうかしら? うん、それがいい!」
大きくうなずくエリシャ。前のほうの何人かもつられたようにうなずきます。
「──僕からもお願いします。陛下」
と。
別の声が響き、エリシャの体がびくっと反応しました。
「《血族会議》でも、何度となくお願いしてきました。けれど、もう無理だと……諦めかけていた」
リオン。
いつの間にか彼も処刑台に上がってきています。
「でも、姉様が諦めない限り、僕も何度でも申し上げます。どうか思いとどまってください。兄上は冷たくて、怖い人に見えるけど……本当はすごくやさしいんです。お願いします。どうか釈明の機会を与えてください」
……いえ。エリシャとリオンだけではありません。
ぞろぞろと貴族席から降り、こちらへ上がってきます。エリシャが兵士に開けさせた道をそのまま使って。
「陛下。僕たち《白銀》はフラウの言葉を信じます」
「戦争は三十年も前に終わったのですよ。この平和の世で、こんな血なまぐさいことをするべきではないわ」
ティルト。ニーナ。
「おっと、親父殿がものすごい顔で睨んでいるが……僕としても幼馴染と婚約者殿に賛成だね。彼女たちの言い分は真っ当だよ」
エリオット。
「神もこのようなことは望んでおられません。先代皇帝は終戦を選びました。陛下も、どうか血と破壊ではなく……慈しみを」
「戦争を始めたのも先代皇帝だったがな。始めた人間は終わらせることもできる。終わらせるのは難しいが、できないわけじゃない」
フィー。ゼト。
処刑台はもはや満員で、槍を持った執行人はただ地面に立ち尽くしています。
まったく……。
誰も巻き込まないために一人で乗り込んだというのに、仕方のない人たちですね。
広場に集まった人々は顔を見合わせ、「一体どっちが正しいんだ?」と意見を交わしはじめました。
皇帝か? 公爵令嬢か?
「あの人は悪い人じゃないよ!」
さまざまな声が飛び交い、その一部が聞こえます。
「あの人は、あたしなんかにも対等に接してくれた……仲良くしたいって言ってくれた。一緒に階段掃除したことだってあるんだ! 神様に誓って本当だよ!」
「私は聖ラピスに通っています。特待生制度に出資してくださった公爵様のおかげで、平民の私にも学問の機会が与えられたんです」
聞き覚えのある声が耳をかすめ、他にも私の手紙を受け取ったという人や、その手紙を回し読みする姿が見えます。
私が処刑台に上がる前とは明らかに違いました。流血の予感に興奮し叫んでいたときよりも、彼らはずっと人間らしく見えます。
私は再び貴族席を見上げました。
顔面蒼白になったユリアス。
忌々しそうに押し黙る《漆黒》の当主。
そして──
瞑目する皇帝。
「陛下」
私の声に、その瞼がゆっくりと持ち上がりました。
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