第127話 必ず助けにまいります
スープを飲み、湯を浴び、ミアに手伝ってもらってどうにか身支度を整えました。
会議場となる広間へ入ると、すでに全員が着席しています。
出席者は私、エリシャ、リオン、アシュリー、ティルト、ニーナ、フィー、ゼトの八人。
「ノイン殿の判断は正しかったわね」
最初に口を開いたのはニーナでした。
「陛下はおそらく、その場でノイン殿を処刑するつもりだったのでしょう。けれどノイン殿は罪を認めて投降した。おかげで血族会議に持ち込むことができるようになったわ」
「どういうことですか? 母上」
ティルトがつぶらな瞳で母親を見上げました。
「罪を認めたから処刑されなかった? 普通は逆ではないのですか?」
「その場では、という意味よ。《帝国七血族》に属する者は、特別な理由がない限り血族会議で処罰を決めると定められているの。そちらのエリシャさんが捕まったときもそうだったでしょう?」
「あ~! うんうん、そうだった。懐かしいなぁ!」
満面の笑みでうなずくエリシャ。
ニーナが続けます。
「ノイン殿が罪を認めなければ、調べに抵抗したとして処刑が強行されていたでしょう。……反逆罪はもっとも重い罪ですからね。即刻処刑は免れましたが、このままでは極刑は避けられない。少なくとも、過半数の血族が減刑に同意する必要があるわ」
「………」
遠ざかっていく背中を思い出し、私は静かに拳を握りしめました。
必ず助けにまいります。お兄様。
「フラウさんは真実を知っているのですか?」
と、フィーが不安そうな顔をこちらに向けました。
他の出席者も一斉に私を見ます。
「ノイン様が……暗殺を謀ったというのは……」
「お兄様は」
私は全員を見渡して言いました。
「皇帝暗殺を命じてなどいません。私が保証します」
フィーはうなずき、やわらかく微笑みます。
「わかりました。あなたを信じます」
「で? その血族会議とやらはどうなる?」
頬杖をついたゼトがぶっきらぼうに尋ねます。
答えたのはリオンでした。
「僕が《真紅》の代表として出席し、寛大な処置を願い出るつもりです。ただ正直なところ、僕の声が陛下に届くとは思えません……。《白銀》からはどなたが?」
「わたくしが出席します。ティルトの代理として」
ニーナが力強く応じます。
「《白銀》は協力を惜しみません。けれど、《真紅》と縁戚関係にあるわたくしの発言もそれほど重みを持たないでしょう。《紫苑》と《深緑》はどうかしら?」
「う~~~~~~」
苦しそうな声を上げるエリシャ。
「この数日ずっとバトルしてたけど、うちのクソパパには期待できないかも……。あの人ってば勝ち馬にしか乗りたくないんだもん。ほんっと鬼! 悪魔! 金の亡者!」
「エメル家は神の教えに従い、陛下に慈悲を請うでしょう。ただ、フレイムローズ家の味方とも言い切れません。私との婚約解消があり、父とノイン様の関係は冷え込んでいましたから……」
フィーが申し訳なさそうにうつむきます。
場の空気が重くなりました。
今のところ、確実に仲間と言えるのは《白銀》シルバスティン家のみ。
エリオットのいる《紺碧》アズール家は徹底的な調査を主張するでしょうが、味方につく可能性は低い。
アイラが捕まった《漆黒》ブラックウィンド家には、当家と同じ謀反の疑いがかかっています。当主であるアイラの父──近衛騎士団長も拘束され、血族会議には長男アイゼンが出席すると思われます。彼の立場からして、すべては《真紅》の謀略だと主張するはず。
味方がほしい。
もっと多くの、そして強大な味方が。
「私が──王国へ行けば──」
我知らず呟きがこぼれます。
父方の祖国。フォルセイン神聖王国。
「……フラウちゃん!」
エリシャが私を振り向きました。
ええ。わかっています。
フォルセイン王国行きは、原作における破滅ルート。
『フォルセインへ行け。王がお前を保護してくれる』
それに帝国にお兄様を残していくなんて、私にはできない。
でも。
王室が味方についてくれるなら、《深緑》エメル家はこちら側につくかもしれない──いえ、そうなるでしょう。帝国内の他の教会勢力も。その動きを見て《紫苑》の考えも変わるかもしれませんし、《紫苑》の資本力に期待する《紺碧》だって──
お兄様を救うため、他に手段がないのなら。
「いえ。それはだめです」
透き通った声に制止されます。
「フラウは王国に行くべきではありません」
ティルトでした。
「……なぜ?」
「わからんのか?」
ゼトがふんと鼻を鳴らします。
「そんなことをしたら、貴様を人質に使えんだろうが」
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