第124話 断罪




 告発、断罪、告発、断罪、告発───断罪───


 頭の中でズキズキと点滅する文字。


 ──断罪───冬───そして────


 違う。こんなの間違っています。

 起こるはずがない。

 だって私は、これを止めたくて。

 そのために。

 ここまで。



「ブラックウィンド家のアイラ」



 鎖につながれたアイラの首筋に槍をつきつけ、騎士が重々しく告げます。



「騎士見習いの身でありながら後宮の寝所に侵入し、畏れ多くも皇帝陛下の命を奪おうとした大罪人だ」



 アイラは不気味な笑みを浮かべたまま微動だにしません。



「この者は、フレイムローズ公に暗殺を命じられたと証言している。よって公の身柄を拘束させていただく」



 皇帝暗殺……‼

 見上げると、お兄様は私にだけわかるようにかすかに首を振りました。

 違う。お兄様は命じていない。

 あの女の独断行動。そして、偽証。

 怒りが全身を駆け巡るのを感じました。

 このままではいけない。説得しなければ。



「陛下、どうか話を──」



 前に出ようとした瞬間、お兄様の腕に強く押しとどめられました。



「っ……お兄様」


「黙っていろ」


「ですが、このままでは……!」


「黙れ。これは命令だ」



 氷のように冷たい声。

 足がすくみそうになりながら首を振ります。



「いやです」


「……そうか」



 お兄様は冷たい目でこちらを見下ろし、



「では、私がこの場で自害するしかないな」



 淡々と言いました。



「……!」



 叫びたいのを必死にこらえます。

 体が震え、涙が勝手にこぼれ落ちました。

 お兄様はわずかに目元を緩め、私に向かって囁きます。



「フォルセインへ行け。王がお前を保護してくれる」



 いいえ。

 絶対に行きません。

 お兄様のそばにいます。

 声が出せず、せめて服にしがみつこうとすると、お兄様は私の手を避けるように背を向けました。



「陛下。私はすべての罪を認めます」



 ……な。

 どうして。

 罪を、認める?



「つまらぬ」



 テリオスは玉座にもたれ、けだるそうに頭を振りました。



「少しでも抗弁すれば、妹ともどもこの場で処刑してやったのだが」


「我が妹は無関係です。どうか手出ししないでいただきたい」


「………まあよい。連れていけ」



 待って。

 お願い。連れていかないで。

 近衛騎士に挟まれたお兄様の背中に手を伸ばします。

 でも、届かない。

 鮮やかな赤い髪が涙でぼやけ、視界いっぱいに広がりました。

 誰か。

 教えてください。

 何がいけなかったのですか?

 私はどこで間違えたのですか……?



「あなたが悪い」



 鎖の鳴る音が聞こえました。



「あなたが余計なことをして、私の理想を壊した」



 女の笑い声と、



「だから──あげない。私がもらう」



 私の頭の中が軋む音。

 ……聞いてはだめ。

 誰かが手を伸ばして、私の目と耳をふさいでくれればいいのに。あの夢のように。

 でも、そんな手はどこからも伸びてこない。



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