第112話 弟のざまぁが完璧すぎる件について
リオンの隣にいる栗色の髪に眼鏡をかけた女の子──おそらくルーナという名前なのでしょう。その子の肩がビクッと震えました。
「あなたみたいな平民が、公爵家であるリオン様の横に座っていいわけないでしょう。特待生のくせにこんな簡単こともわからないの?」
高圧的な言葉を浴びせるリーダー格の少女。
取り巻きたちも畳みかけるように言います。
「わかったらさっさと消えなさいよ。そこにはあなたじゃなくて、クレアお嬢様のような方が座るべきだわ」
「そうよそうよ!」
「クレアお嬢様は伯爵家なのよ! あんたみたいな平民よりずっとふさわしいわ!」
ルーナは黙ったままうつむいています。
周囲の生徒たちは関わりたくないのか、騒ぎに気づかないふりをしているようです。教師の姿も見当たりません。
「何よあいつらっ……!」
エリシャが声を震わせました。
「その席は私のものに決まってるでしょぉぉ⁉」
「少し黙って」
彼女の口をふさぎつつ、じっとリオンを観察します。
リオンは開いた本に目を落としていました。この状況で何もしないなんて彼らしくありません。
それとも……変わってしまったのでしょうか?
そんな考えが頭をよぎった瞬間、ぱたりとその本が閉じられました。
「ねえ、君たち」
リオンが顔を上げて五人組の少女たちを見ます。
きゃっとうれしそうな声を上げる彼女らに対し、さわやかな笑みを浮かべて、
「さっきからうるさいんだけど」
冷たく言い放ちました。
固まる少女たち。
「えーと、誰だっけ」
「わ、わたくしはっ。同じクラスのクレア=バークレインですわ!」
「じゃあクレア。さっき授業で先週のテストが返却されたよね。君の点数は?」
「? 76点でしたわ」
「そっちの君は?」
「わ、私ですか? 53点……です」
「もっと高い点数の人はいる?」
「………」
顔を見合わせて黙り込む少女たち。
と、クレアという少女が取り繕うように言いました。
「リオン様はきっとすばらしい成績だったのでしょうね!」
「僕は98点だったよ」
「やっぱり! さすがリオン様ですわ」
「ルーナは満点だった」
急に話題を振られ、隣に座るルーナが真っ青になって縮こまります。
そんな彼女を一瞥してから、クレアはさも不快そうに言いました。
「それは……勉強しか取り柄のない平民女ですもの。そのくらいできて当然ですわ。それにわたくし、たかがテストの点数くらいで人の価値が決まるとは思っておりませんの」
ふふん、と大人びた口調で語るクレア。
取り巻きたちもうんうんとうなずきます。
「僕もそう思う」
「でしょう? リオン様と同じ考えだなんてうれしいですわ」
「人の価値はあるひとつの点で決まらない、という考えには同意するよ」
リオンはそう言ってから、それまで口元に浮かべていた淡い笑みを消し、鋭い目で少女たちを見据えました。
「だから、たかが身分が違うくらいでルーナを見下す君たちのことは、まったく理解できないな」
少女たちが言葉を失うのがわかりました。
興味を失ったように目をそらし、リオンは本を脇に抱えて立ち上がります。
「行こう。ルーナ」
「あっ、待ってください、リオン様!」
すたすたとその場を去っていくリオンと、慌てて追いかけるルーナ。
二人の背中を見送りながら、私はエリシャの口をふさいでいた手をそっと下ろしました。
「リオンくん、すご」
ぽつりと呟くエリシャ。
「そうですね」
「でも、リオンくんじゃないみたい」
「………」
ええ。
それにあの冷たい目つき──お兄様に少し似ていました。
無邪気で明るかったあのリオンとは思えません。
本当に変わってしまったのでしょうか?
そして、彼をそんなふうに変えたのは……私なのでしょうか。
「フラウちゃん。見失っちゃうよ!」
エリシャの声で我に返ります。
とにかく、思い悩んでも仕方ありません。今は和解の糸口を探すことが先決です。
もし、それが不可能なら──
私は──彼を──
───
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます