第二章 暗闇を塗り替える②
(うう……自分のことが自分でもわからない)
エリスはここ数日間
一人で行動すれば真犯人に足をすくわれる可能性があるため、前回の二の
(イルミナが体調不良になっていないかを
「ご、ごきげんよう」
ぎこちない笑みで
「ええっと、イルミナに会いにきたの。開けてくださる?」
彼らは顔を見合わせると、やがて扉を開けてくれる。
エリスは
それを横目で眺めながらイルミナの自室に向かう。その
「おっと。めずらしいお客さまだ」
エリスは思わず目を見開く。そこに立っていたのは、イルミナの専属騎士であるアルフリートだった。
彼はザクロのような
「イルミナさまに用? それともクラウィス?」
「え、ええ?」
いきなり気さくに話しかけられてエリスは
「じゃあイルミナさまはこっちの
彼はエリスたちを先導するように足を進める。その後ろ姿を見てエリスは
(専属騎士がどうして雑用みたいなことをしているの?)
「いま護衛のおれがイルミナさまのそばを離れて使い走りをしている理由を考えているでしょう?」
ドキリ、と心臓が
「ここは王宮のどこよりも警備がしっかりしているからね。イルミナさまにとってここほど安全な場所はないんだ。それにいまはクラウィスも
「……そうなの」
クライシエ
(やっぱり彼と仲がいいのかしら?)
今ならクラウィスのことを聞けるかもしれない。執務室の扉はもう見えているが、エリスはそのまま立ち話を続ける。
「クラウィスさまを信用しているのね」
するとアルフリートは片手を
「信用かあ……まあ仕事上はね」
「というと?」
「あいついろんなことに
彼は、うげーと
「仲が悪いってことなの?」
「わるくはないよ。よくもないけど。でもおれ、あんな腹黒いやつと友達はごめんだね。あいつと肩を組んで朝まで飲み明かしたり、楽しく鼻歌をうたっている姿とか想像できないから」
それはエリスにも想像できなかった。クラウィスが
思わず
「ごめんね、
「え、ええ?」
「クビでもはねる?」
「……あなたが気を
そっか、とアルフリートは
前から彼のことは
「ねえ、どういった
専属騎士とは王族一人につき一人しか選ばれず、ゆえに主君のもうひとつの命と呼ばれ、絶対的な忠誠だけではなく、時に主君を導く役割を持った人だ。
だいたい十歳くらいになると
(イルミナがアルフリートさまのような方を選ぶなんて意外だけど、彼はよほど
なんとなく場の空気が張りつめた気がしてエリスが顔を見上げると、アルフリートの唇は
「──知りたい?」
ぞっとするような低い声に、エリスが
「彼女にからむな」
ぽこっ、という軽快な音が鳴る。
エリスはアルフリートの背後にいる人物を見て悲鳴を上げそうになる。そこにいたのは
「いつまで経っても
「あらー。イルミナさま
「少なくとも俺は呆れていた」
「それ答えになってないじゃん」
「……
「いやだね」
アルフリートは片手で頭上を守りながら、クラウィスと
「ほら、エリスさまも見たでしょう? ひどいよね、王国一の騎士に向かって。ああ、こう見えてもおれ、騎士団長より強いから。強さについては安心してね」
「…………」
エリスがいぶかしげな視線を向けると、アルフリートは「本当だから」と弁明しようとしてくるが、クラウィスに首根っこを
「お前は
「あれ? あ、本当だ。ごめんごめん」
そういってアルフリートは
「騎士の手も借りたいほど
「そうこなくっちゃ。それでは失礼します、エリスさま」
アルフリートは足早に
(あ、イルミナ)
「それで、エリスさまはイルミナさまにどのようなご用件でしょうか」
数日ぶりに彼の表情を見て困惑する。なぜだろう、前よりも
「……あ、あなたがちゃんとイルミナに気を遣っているか
しどろもどろになりながら告げると、クラウィスは熟考するように押し
「エリスさま、少し歩きませんか。二人きりで」
「え?」
エリスはクラウィスのあとに続いていくと、ベランダに案内された。ここはイルミナの住まいの区域に
(王宮にこんなところがあったなんて。イルミナが休息に使っているのかしら?)
エリスが手すりに寄りかかりながら外を見回すと、
「身だしなみはしっかりされているのですね」
「あったり前でしょう!?」
エリスはぷいっと横を向く。
今日のドレスは
クラウィスは青い瞳を細めて真顔で告げる。
「よくお似合いですよ」
「……あ、ありがとう」
まさかお世辞をいわれるとは思っていなかったため、エリスは何度も
(こんなところに呼び出して、何を考えているの? まだ悪いことをした覚えはないもの。そもそも前回の人生だってイルミナに嫌がらせはしていないわ)
心当たりがなくて必死に答えを探そうと頭をひねっていると、クラウィスはためらうように口を開く。
「エリスさま、先ほどのアルフリートの言葉を真に受けないでください」
「?」
「
歯切れの悪い言い方だった。よく見ると、クラウィスの耳が
(それを伝えるために
彼にも年相応の青年らしいところがあると知って、エリスは思わず口角を上げてしまう。同時にからかいたい
「具体的にはどういった対策を?」
するとクラウィスは気持ちを切り
「日々の食事のメニューや素材、イルミナさまの体調を整えるための
「…………なるほど」
彼女に使用された毒は『
(イルミナが毒入り紅茶を飲んだと想定されるのは
前回の人生では知らされていないだけで、イルミナの食事の毒見をしていた
(クラウィスさまの仕事ぶりは評価に
もしかしたらアレン派が
「私はイルミナが仕事をしやすい
しばらく
「イルミナさまにとって今はとても大切な時期です。各地の貴族たちを交えた春の定例会議、城下町への視察に、地方への
「それで
エリスが方向
「……どういうおつもりかしら?」
「失礼を承知で申し上げますが、イルミナさまにはあなたの
あからさまな
「あなたに私を止める権限などないはずよ」
「ではイルミナさまのお言葉といえば納得していただけますか?」
エリスは
(どうしてイルミナは私を
イルミナは感情に任せて行動する人ではないと思う。幼い
イルミナはいつも胸のうちに
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