第一章 命運をかけた舞踏会⑥
(……いた。ちょうど取り巻きも少ない)
その先にいるのは、
クラウィスもエリスが彼らに近づいていくことに気づき、すっと目を細めて表情を引き
エリスはその反応を横目で流してから、自分よりも
「ごきげんよう、アレン」
「これはこれは……お久しぶりですね、エリスさま」
皮肉たっぷりに笑ったのはアインハウアー
そして彼の隣には体の
「あら、エリス。てっきり今日も不参加だと思っていましたのに。今のところ
そういって赤い口紅を
彼女はエリスたちの母親に代わり、貴婦人たちのまとめ役になっている。エリスにとっては母親に意地悪をしてその地位を
(相変わらず派手ね。さすがイルミナと張り合おうとしているだけあるわ)
現在、このレストレア王国には三人の王位
王位継承権一位のイルミナ・ルーシェン・レストレア。
王位継承権二位のエリス・アウリア・レストレア。
そして王位継承権三位のアレン・アインハウアーだ。
マリアンヌは気位が高く野心家であるため、公爵家へ
イルミナは幼い
(そう考えると私とイルミナを
エリスを
「
マリアンヌは口端をピクリと動かし「そう、ならよかった」と言った。彼女としてはエリスを煽り、少しでも逆上しボロが出たところを
アレンはつまらないといわんばかりに
「ずいぶんと取り
「彼?」
エリスが聞き返すと、アレンは視線でクラウィスを
「しらばくれなくてもいいのに。そこの
コソコソという表現がお年頃の子どもっぽいが、要は
エリスはそんなことは
「クラウィスさまにはダンスの練習のお相手をしてもらっていただけよ。こうして
当たり
「こちらこそ教え
なんだか
「婚約者でもないのに部屋に入り
その反応にエリスは疑念を
(もしかして……クラウィスさまが警備を増やそうと言ったのはこのため?)
エリスが約六年分の知識の遅れを取り
つまり自室から不用意に出ないことで自分の身を守れていたことになる。
クラウィスはアレンに向けて
「アレンさま。失礼を承知で申し上げますが、そばにいるからといって密接な関係になるとはかぎりませんよ」
「なんだと──」
「そうよ、アレン。男女の関係は複雑なの」
マリアンヌは声を
アレンは表情を引きつらせて押し
「なんだか
マリアンヌはクラウィスの
「そうだ、クラウィス。今度わたくし
エリスは見てはいけないものに直面した気持ちになりつつも、クラウィスの反応をうかがう。だが彼は「もちろんです」と
(どうしてイルミナと対立するマリアンヌの
ふとマリアンヌと目が合った。彼女は厚い唇に
「わたくしたちはそろそろ行きますわ。またね、クラウィス」
マリアンヌは彼に向けて手を振ると、エリスとすれ違い
「
「!」
エリスはハッと息を
(もしかして叔母さまが……でも)
だがマリアンヌは最後にぞっとするほど冷たい顔でエリスを
その
王宮の庭、少女たちの姿、
──あなた、自分がしたことがわかっているの!? 魔法で人を傷つけるなんて。
誰もが
(……! しっかりしなさい私!)
今は舞踏会の最中で、あのときの自分とは違う。
エリスは苦々しい表情でマリアンヌとアレンの後ろ姿を見送った。
● ● ●
(これで最後かしら)
マリアンヌたちと別れたあと、アレン派の貴族や大臣にも声をかけたが、彼らはエリスに話しかけられた不快感を強くあらわにしただけで、イルミナに危害を加えるかどうかの判断は難しかった。
まだ目当ての人物はほかにもいたが、どこにも姿が見当たらなかった。別の機会を考えるしかない。エリスは力なく口を開く。
「クラウィスさま」
「どうかされましたか?」
「部屋に戻るわ。あなたはどうするの?」
あえて言わなくてもわかることを口にした。彼はなんてことないように答える。
「部屋まで送りましょう」
エリスたちは
通路には支柱の
エリスは
(もしもアレン派の誰かがイルミナを
なんとなくイルミナは
(私が知らなかっただけで、イルミナもクラウィスさまも前回の人生の
それに国王の病も気がかりだ。五か月後の
おそらく世代交代が近い。父親に対してあまりいい印象を
(真犯人はアレン派のうちの誰か、それともアレン派を利用した第三者で、お父さまの退位が近いと感じ取って行動を起こしたというの?)
今後はそこを重点的に調べなければならない。それにエリスに
(あとは……)
エリスは横目でクラウィスを
(本当にあなただけだったの。ここまで
引きこもる前にも教育係はいたが、みな長続きはしなかった。エリスの顔色ばかり
クラウィスだけがエリスに足りない部分を本気で補おうとしてくれた。
(あなたは胸の内に
彼の行動には
彼はどんなことが起きようと裏切ることはない。それだけは理解した。
エリスは足を止めた。
「クラウィスさま、最後にお願いがあるの」
彼は表情を変えず立ち止まった。二人のあいだにふわりと風が
「イルミナの『
彼は時が止まったかのように息を吞む。
「……イルミナさまが魔法を使われていることに気づいていたのですか?」
「失礼ね。それくらいわかるわよ」
エリスは
「体調を
イルミナは紅茶に入れられた毒を
「……」
クラウィスは何度か
「あら、私が気を遣うのがおかしいの? だってしょうがないでしょう。あの子に元気でいてもらわないと私が楽をできないの。あと、このことはイルミナに絶対に言わないで。それくらい約束してくれるわよね」
「承知、いたしました」
それっきり会話はなくなった。
エリスは瞳を
(これでクラウィスさまとの密着生活とはおさらばね)
同時にあることに気づく。今年も欲しかった言葉をもらえなかった。
(……別に期待していなかったもの)
いつものことだ。期待するほうが
そんなことを思い始めた矢先のことだった。あともう少しで扉が閉まるというところで「エリスさま」と呼び止められる。振り返ると青い瞳とかち合った。
「お誕生日、おめでとうございます」
エリスは目を見開いた。耳に残る
クラウィスはイルミナの側近であるため、彼女のついでとして口にしたのだろう。彼にとっては他意のない、誕生日に
だけどエリスにとっては特別で──生まれたことを許されるようなささやかな
「あ、ありがとう。それじゃあおやすみなさい!」
エリスは
(……っ、熱い)
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