第一章 命運をかけた舞踏会④
季節は
エリスは
(しかも仕上がりが私好みになっている……!)
仕立屋の店主とお針子たちはエリスの
エリスが返事をすると涼やかな表情をしたクラウィスが現れる。
「失礼いたします。お
彼は黒地の礼服をまとっていた。一見、
(ふうん。悪くはないわね)
相変わらず表情はツンとしているが、彼は今年で二十一歳になることもあり、
おそらく以前エリスに上着を貸してくれたのは彼の他意のない行動だったのだろう。
(まだ気を許すことはできないけど……私の敵ではないわ)
時折観察されているような
この
(だから最後くらいあなたに本気を見せてあげる)
エリスは立ち上がると、クラウィスに近づく。そして絵画の中の天使のように
「お待ちしておりましたわ、クラウィスさま」
彼は
「とてもよくお似合いですよ。俺の見立てに
「お、か、げ、さ、ま、で、ね」
しまった、本気は一瞬で
(
エリスがぽかんと小さく口を開けると、クラウィスは何事もなかったかのように涼やかな表情で手をすくいあげる。
「では参りましょうか」
「え、ええ」
エリスは導かれるようにクラウィスの腕に手を
彼にエスコートされ、エリスは王宮でもっとも大きい広間がある
水晶宮にはすでにレストレア王国中の貴族や有力者が集まっている。
エリスが舞踏会に参加を表明したことで、
参加者からしてみれば不安や心配の声をあげたいところだが、成人として節目の祭事に第二王女が不在だと他国に不信感を
そんな彼らの前に姿を現したときの反応を思い浮かべるだけで気が
その人物は
(
今回はイルミナと共に水晶宮の大広間の二階から登場し、踊り場から
大広間への
彼女もまた華やかな
(イルミナのお相手はアルフリートさま?)
彼女の
(彼ならクラウィスさまが
クラウィスとアルフリートの仲は
エリスがイルミナの横に立つと、彼女に声をかけられる。
「あらエリス。表情が
「まさか。あなたのほうこそ顔色が青白いようね。大事な場面で
「ふふふ。わたくしの心配は無用ですわ」
ややあってエリスは苦々しい表情で
「そんなこと私だってわかっているわよ」
水晶宮に集められた人々は誰もがイルミナの登場だけを待ち
すでに国王の入場は終わっていて、彼は玉座に
だからこそ人々は次期国王にもっとも近いといわれるイルミナに期待を寄せるのだ。
何より彼女は
(私も心のどこかでそう思っていたけれど)
前回の人生では
──イルミナさまに
ふと
「どうかされましたか?」
「……いいえ」
エリスは首を横に
いよいよ二人の姫君の入場を知らせるファンファーレが鳴り
そのとき、低い声が耳元をかすめる。
「最後の課題です、エリスさま。心からの笑みを浮かべてください」
「!」
エリスが首をひねると、すぐそばに彼の顔があった。
「まだ指導が必要なの?」
ぼそっと
「自分が幸せを感じるとき、心から笑える光景、言われて
エリスはすねたように目を細める。そんな思い出など今までなかった。
(あ、でも……)
今日、ひとつだけ期待している言葉があった。
みんなにとっては当たり前にもらえるものだけど、エリスにとってはささやかな
もしも誰かひとりでもそれをくれるなら、エリスは心から笑えるだろう。
(──そして未来を変えてみせる。絶対に)
エリスは
水晶宮に待機する人々は、期待を寄せながら主役の登場を待っていた。
まさに祝いの日にふさわしい
「イルミナ・ルーシェン・レストレア王女、ご入来!」
彼女は人々の心に
たくさんの
しかし家令が「続いて」と言ったことで、誰もが
「エリス・アウリア・レストレア王女、ご入来!」
王国でも珍しい
──ひっ、本当にやってきたぞ。
──ああ
──神官たちが少ないのではないか。いざというときしっかり守ってくれるんだろうな。
──クラウィスさまもよく平然とされているわよね。
──あれは
拍手に交じって人々が思い思いにささやく。
だがエリスは
勝ち気な
それにしてもドレスがよく似合っている。
そして耳元にはアメジストのピアスが
いつのまにか人々のささやきが止まっていた。
エリスとイルミナたちは中央に向けて歩みを進め、ダンスを踊るための定位置につく。国王に向けて一礼をすると、彼は
やがてエリスとクラウィス、イルミナとアルフリートが向かい合って体を寄せる。それに合わせてワルツが流れ、エリスはクラウィスと呼吸を合わせてステップを踏んだ。
二人の姫君が
エリスがこの王国の第二王女であり、イルミナの
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