第一章 命運をかけた舞踏会③
それから早二週間。
エリスは約六年間の
勉強だけは引きこもっていたあいだも
つまり思った以上にできなかったというやつである。
エリスは自室のソファに寄りかかりながら、深々とため息をつく。まだ日が
(この
クラウィスはエリスが夜着のまま王宮を歩いたことがよほど目に余ったのか、
その
(自分が置かれた現状はわかってはいるつもりだけど……ままならないわ!)
王族としての立ち居
エリスはちらりと
「ねえ、あの人……クラウィスさまが今どこにいるのか知っている?」
「え、ええっと」
「宰相さまのもとへ行くとおっしゃっていましひゃ」
恐怖と
(……ふうん。確かバラシオン家は代々王宮
エリスは頭を
レストレア王国の王宮騎士団は王族だけを守る特別な存在であり、衛兵とはまた別の剣術の
だからこそバラシオン家の男児は王宮騎士になり
(いいえ、
それがクラウィスだったのだろう。やはり彼は
(あーもう! どうして彼のことでこんなにも頭を
心の中で悪態をつくと、
エリスは
「そろそろ
「……わかったわ」
エリスは彼に見えないよう顔をしかめる。さすがに前みたいに激しく言い合いをすることはなかったが、クラウィスに管理されている気がして
侍女たちもクラウィスには心を開いているようで、笑みを浮かべてから夕食の準備に取り
(さすがバラシオン家の男ってわけね。闇属性の私のことなんか
だがその四つとは別に、
エリスは物心つく前からその時の
エリス自身が否定的な自覚を持っているというのに、クラウィスは全く
(ほら、今もテーブルに課題を並べながら私の表情をうかがっている)
最近になってイルミナの命令でお目付け役となったにしては別の
(まさか、イルミナの周囲で
その原因として考えられるのは王位
イルミナとエリス以外に王位に近いのは、三歳年下の
(でも疑問はまだあるから! あの
今の彼に聞きようがないことがもどかしい。エリスが本日何度目かわからないため息をつくと、クラウィスが何を
「そんなに不安そうな顔をしなくても、ドレスの制作は順調に進んでいるようですよ」
「え? ああそうなのね、よかった!」
そう返事をするが、内心では心臓が
(もう~!
実はここ最近で特に大変だったのはドレスの打ち合わせだった。
通常なら一か月でドレスを仕上げるのは難しい。そこですでに発注済みのイルミナのドレスの
お
だが彼女たちの表情は明らかに
エリスは居心地の悪さばかりが気になってドレスの意匠に口出しせずにソファに座っていると、イルミナから『自分のことなのよ、もう少し興味を持ちなさい』と言われた。
『……
あれよあれよと決まっていき、婦人が用紙にドレスの意匠を
みなが頭を悩ませたとき、エリスの背後で様子をうかがっていたクラウィスが動いた。彼はソファ
そして彼はあろうことか生地見本を指さし『この
聞き違いではなかった。確かにエリスに似合うと言ったのだ。
(う、うぁ~!!)
エリスは当時のことを思い出し、頭を抱えそうになるのを必死にこらえる。
その後、婦人とイルミナは『なるほど』『前よりも
(くぅ、クラウィスさま
「一点
「な、何を」
「
彼の言いたいことはわかる。エリスはイルミナとは違って専属の騎士を持たない。
理由は簡単。闇属性は死と
どうせ何を言っても
「俺はあなたに提案しました。エリスさまの今の答えは正しくはないかと」
「……どういう意味よ」
「警備はご自身にかかわることです。もっとしっかり考えたらどうですか?」
イルミナに似た説教
だがここで
「どうしてそこまで人を遠ざけるのか。あなたは本当に理解しがたい人だ」
クラウィスの声が一段と低くなった。日差しを浴びた海のような瞳を細め、エリスと目線を合わせるようにかがむ。
「あなたの魔法がどんなに強力だろうと、
彼は「失礼」と前置きしてからエリスの首元に向けて手を伸ばし、
「簡単に手にかけることができる」
クラウィスはじっとエリスを見つめた。
(──っ)
心臓をわしづかみされるような
しばらくして、身に
早鐘を打つ
「申し訳ありません。
「へ?」
エリスは
「でもこれに
「はい……て、子ども
そう言ってからエリスは両手で口元を押さえた。思わず反論してしまい、クラウィスの気に
それを見て、エリスは体の力が
「なるほど、承知いたしました。
あっさり意見が通り、思わず二度見してしまう。
(私の言葉を聞いてくれたの……?)
今までそんな人はいなかった。国王が
(どうしよう。胸までチクチクしてきた)
平常心を取り
「……ねえ、何をしているの?」
「俺のせいでエリスさまの集中が
彼にとっては場の空気を変えるための提案かもしれないが、エリスにとっては命を
(何これ脅しのフルコース!?)
心の中でそう
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