第一章 命運をかけた舞踏会②
「エリス」
そのときイルミナに名前を呼ばれた。顔を上げると、彼女はエリスと視線を合わせるように険しい表情で立っていた。
「そろそろ本当の用件を教えてくださる?」
「ええっと」
勢い任せにイルミナに抱きついてしまった
「夜着のままわたくしに会いに来るなんて。本当に王女としての自覚が足りませんのね」
「!」
次期女王と期待されるだけあってものすごい圧力だ。イルミナは
(……王女としての自覚って何よ)
エリスは
イルミナの
そして
エリスはイルミナに、両親からの愛情も、周囲からの期待も、国民からの
そこまでされて、なぜ
(私だけが! いつも不幸で! それで! それで……)
やがて
(……あなたの片割れが私みたいな
彼女は昔から事あるごとにエリスに小言を
そんなことが十五歳になる頃まで続くと、さすがのイルミナもさじを投げた。十六歳になる前に、彼女は側近を連れてエリスの部屋にまでやってきて、決別の言葉をはっきりと
(だから私のような
エリスが内心で
「ちょうどよかったですわ。わたくしもあなたのもとへ行こうと思っていましたから」
「え?」
ざわり、と背中の
「一か月後に控える公務……わたくしとあなたの成人を祝う
エリスの
エリスは引きこもってから、
おかげで社交界では
ちょうど舞踏会の準備が
『一か月後に控える公務……わたくしとあなたの成人を祝う舞踏会に参加しなさい。これはいつもの忠告ではないわ。警告よ』
生まれて初めてイルミナから
エリスにとって舞踏会は苦痛でしかない。それをわかっているはずなのに、イルミナは自分の
そう
『いい加減にしなさい、エリス! わたくしとあなたは王女なのよ! 王国の未来のためにも、国民のためにも、やるべきことがたくさんあるのに。目を
イルミナのひんやりとした指先を感じ、エリスはびくりと
『
するとイルミナは表情を
(何が浅はかよ。一方的にまくしたてられたって
どれくらい
『これが最後の機会なのよ、エリス』
『あいにく最初から機会はないの、イルミナ』
エリスは
『だったら一生ここにいなさい』
そういって彼女はアルフリートを連れて部屋から出ていった。エリスは深く息を
だが
『エリスさまはそれでいいのですか?』
『……放っておいてくれる? あなたには関係ないでしょう』
『なんでもかんでも突き放す癖、やめたほうがいいですよ。子どもみたいなので』
その言葉を聞いてエリスはカッと頬を赤くし、彼を睨みつけた。
エリスとイルミナは完全に決別し、彼女からの小言は
(ということは、時が巻き
エリスは
「待って、警告はわかったから! その前にひとつだけ
「? 何かしら」
「今日は何日なの?」
「
その答えにエリスの表情がこわばる。やはり処刑されたときから半年ほど時が巻き戻っている。
(これは現実なの?)
改めて彼女たちの表情を見つめると
エリスが考え込むように
ものすごく失礼なことを言われ反論したくなったが、ぐっとこらえる。
(じゃあ
時が巻き戻った原因はわからないが、このまま何もしなければ前回と同じく無残に命を散らすことになる。
(そんなの
でもどうやって……と考えていると視線を感じた。いつの間にかうつむいていたようだ。ゆっくりと顔を上げると、
「
「あ、いえその」
ハッとしてから目を泳がせると、それがさらにイルミナの怒りに
「……するわ!」
「!? もう一度言ってくださる?」
「舞踏会に参加するわ!」
これしかないと思った。舞踏会には王国中の貴族や有権者が集まる。その中にはイルミナを
そこで運命を変える手がかりを見つけなければエリスに未来はない。
決意を込めてイルミナを見つめると、彼女は紫色の目を見張った。てっきりエリスの参加表明を聞いて満足してくれると思いきや、彼女は
「あなた、本当にどうしたの?」
「私の言葉を疑うの?」
「……二言はないと受け取るけれど」
「未来の女王さまに警告までされてしまえば頷くしかないわよ」
イルミナは今度こそ「わかりましたわ」と頷くが、表情はいぶかしんだままだった。エリスは内心で冷や
(……やっぱり不安しかないかも)
正直なところ彼女たちから見ればエリスの印象は最悪だ。でも今から変えていかなければ二度目の死が待っている。『
重くのしかかる現実に胃がキリキリとするが、
「ではエリス、今日からクラウィスと
「──えっ」
エリスは即座に聞き返した。彼女は何を言っているのだろうか。
「今回の舞踏会は成人を
「それはわかっているけれど! そうじゃなくって」
問題なのはエリスの教育係としてクラウィスが指名されたことだ。
彼と
「あら、クラウィスなら手取り足取り根気強く寄り添ってくれますわ。ダンスの
ダンス、という単語を聞いてエリスの
「まさかクラウィスさまが私のお相手!?」
「彼以外に適任はいませんわ」
むごい。むごすぎる。エリスはわずかに足をよろめかせる。
(一か月間もクラウィスさまと顔を
真犯人を
「あ、あなたはイルミナの側近でしょう? 私の相手をしている
彼は
お願いだから断りなさい今すぐに! と念を飛ばすと、クラウィスは
「イルミナさまの期待を裏切るわけにはいきませんので、やり
見事な忠誠心だが、目が笑っていない。すでにエリスは
(それもそうよね!)
この時間
(でも疑わしいのはあなたも同じでしょう!? どうして宰相補佐官が
こちらから見れば彼は信用ならない人物であり、本当にイルミナに忠誠を
(くっ、でも彼に私を見張らせれば、イルミナとの不仲を利用されて嫌がらせの犯人にされることだけは防げるかもしれない……)
死への
すると目の前に大きな手のひらが差し出された。クラウィスは
身の
「よろしくお願い
彼の声色がとげとげしいのは気のせいではない。エリスは強がるように
「こちらこそどうぞよろしく」
そしてエリスとクラウィスは息が合ったように同時にぱっと手を解く。
「俺は目的のためなら手段を選びません。どこに出しても
「あら、今だって立派な淑女よ」
「本気で言っていますか?」
彼は自分の
「まずはこんな
すでに彼の上着を我がもののように
「まあ最後は首を痛める可能性があるため
「わかったわよ!」
エリスはふてくされながら
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます