【一】出逢い①
ガスターギュ将軍の家って、どこだろう?
街の中を重い足取りで進んでいく。
振り向いてみても実家は
……いいなー、自由で。私も自由になりたかった。
「お母様……」
ぽつりと
「ぐぇっ」
大木のような長身に、服の上からでも
完全に地面から離れた足がプラプラして
「ここは水深が浅い。飛び込むなら別の川の方がいい」
……へ?
「い、いいえ。飛び込みません!」
ああ、びっくりした! もしかして、身投げに
「あ、あの……」
顔を上げると、彼は
「あの! すみません!」
私は慌てて彼を追いかけた。そして、
「もしかして、ガスターギュ将軍閣下でしょうか!?」
あ、振り向いた。
彼は
「そうだが。俺を知っているのか?」
初対面ですが、
「あの……。私、今日から閣下のお宅で働かせて頂くことになりました、ミシェル・テナーと申します」
将軍は
「人材
「すみません……」
反射的に頭を下げる私に、将軍はますます
「
……その通りですが、つい
「まあ、いい。俺の家はこっちだ」
ガスターギュ将軍の家は王都の一等地の
貴族
ガスターギュ将軍は何も言わずに
……。
…………。
「何をしている?」
「はい?」
「座れ」
え!? 使用人なのに、ご主人様と同じテーブルに着いていいの?
「し……失礼します……」
「ミシェル・テナーといったな」
「は、はい」
一度で名前覚えてくれたんだ。
「今日からお前には、この家の家事をやってもらう」
「はい。
それが私のお仕事だ。
「して、
「……何?」
「
貴族屋敷の業務は、上級使用人に
「いない」
「……え?」
「この家に使用人はお前一人だ」
「えぇ!?」
この規模の貴族屋敷に、使用人が一人?
「できないのか?」
「いえ、やらせて頂きます!」
あ、
「それならいい」
ガスターギュ将軍は、息をついて立ち上がる。
「俺は自室にいる。あとは自由に屋敷を見て回れ」
「はい」
「お前用の個室も、空いている部屋を好きに選んで
「承知しました」
私は
「ガスターギュ将軍閣下、このお屋敷には屋根裏部屋が何室もあるんですか?」
「……は?」
「何故、屋根裏部屋の部屋数を気にするのだ?」
「それは、私の個室を好きに選んでいいと
でも……将軍の
「何故、ベッドも家具も
「……え?」
「もしかして、屋根裏の見晴らしが好きなのか? それなら止めないが」
「いえ、取り立ててそのような
「だったら、二階の空いている客室を使え。頭の上に人が居るのは落ち着かん」
「……はい」
いいのかな? 私が
「それと、閣下はやめろ。仕事しているみたいで
「では、ご──」
「──主人様もやめろ。年を取った気分だ」
……この人、外見だとよく解らないけど、いくつなんだろ?
「では、何とお呼びすれば?」
「名前でいい」
「はい。では……」
……えーと……。
「……俺の名前、知らないのか?」
……うぎゅっ。
「も、申し訳ありません」
私は必死で頭を下げる。
「いや、お前が先に名乗ったのに、俺はまだだったな。無礼をした」
「い、いえ、
なんで
「シュヴァルツだ。シュヴァルツ・ガスターギュ」
「シュヴァルツ様」
はい、覚えました。
「では、よろしく頼む、ミシェル」
「よろしくお願いします。シュヴァルツ様」
──こうして私は、ガスターギュ
シュヴァルツ様が自室に
最初の印象通り、中は
シュヴァルツ様は二階南奥の
……将軍のご家族の持ち物なのかな? あれ? そもそもシュヴァルツ様ってご
でも……他にご家族がいらっしゃるにしても、生活感がなさすぎる。きちんと
「……ま、
私は出ない答えに
ご主人様に出来たての料理を
「あれ?」
調理台下の収納
「ない!」
砂糖も塩も他の調味料も小麦粉も油も!
疑問は
「シュヴァルツ様、ご相談があります」
戸板
「……なんだ?」
ボサボサ頭を
「あ、あの……お夕飯を作りたいのですが、食材がなくて……」
──
と身構えた
「すまん、寝てた」
……寝起きで不機嫌そうに見えただけですか?
「飯か、何もなかったな。買いに行くか」
将軍は
「では、行くぞ」
「シュヴァルツ様も行かれるんですか? 買い物に? ……私と?」
食材の買い出しなんて使用人の仕事で、当主自ら行くものではないのに。
「ミシェルはこの
「え? いえ」
「ならば、
事も無げに言いながら、ドアノブに手を
通用門の
「あ!」
気がつけばシュヴァルツ様は私の何十歩も前を行っていた。はやっ。置いていかれちゃう!
「いない……」
あれ? お
あ、いた。シュヴァルツ様は険しい表情で私の前まで戻ってくる。
「……どうしてついて来ない?」
「俺と出掛けたくなかったのなら、家で待っていても……」
「ち、
私は
「私、シュヴァルツ様とお出掛けしたいです! ただ、追いつけなくて……」
「追いつけない?」
「まず、私とシュヴァルツ様では
言いながら、彼の横に並ぶ。
「ほら、私の背はシュヴァルツ様の
「う、うむ」
「それに、シュヴァルツ様は歩く速度が他の方より飛び
だって、私の歩き方が『ぽて、ぽて』だとしたら、彼の歩き方は『スタタタタッ』って感じだもん。
「なので、
頭を下げる私に、将軍は動かない。
「……ということは、仕事で移動中に、たまに振り返ると部下が真っ赤になって息を切らしていたのは、俺のせいだったのか!?」
他でもやらかしてらっしゃったのですか。あの速さは、男の人でもついていくのが大変だよね。
「持病でもあるのかと思って、軍医に
いい上官ですね!
「そうか……俺の歩みは速かったのか」
新発見! とばかりに、シュヴァルツ様は何度も
「あの……生意気なことを言ってしまって申し訳ありません」
謝る私に、彼はあっけらかんと、
「いや、ミシェルがいなければ気づけなかった。感謝する」
わっ、
長年一緒に暮らしていた家族は私と
「これからはカタツムリになったつもりで歩くとしよう」
……そこまで
シュヴァルツ様が
「そういえば、ミシェル」
「なんでしょう?」
「お前はさっき、俺と出掛けたいと言ったか?」
「はい。言いました」
「そうか……」
彼は戸惑ったように後頭部を
「俺の近くには居たくないという者の方が多いから」
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