【プロローグ】
一日三度の食事の
それが私、ミシェル・テナーの日課だ。
テナー家は一応フォルメーア王国から
父が
ここ数年の収入源は、
「ミシェル! ちょっと!」
「どうされましたか? お
「あたしの絹の
「それは、お
「場所を教えるんじゃなくて、言われたらすぐ持ってきなさいよ! 気が
「す……すみません……」
「あらあら。アナベル、
「そういえばミシェル。今朝の目玉焼き、黄身が固すぎだったわよ?」
「それは、昨日お
「好みなんて気分によって変わるでしょう? 作る前に食べる人に
「そ……っ」
私は
「……申し訳ありません。これからは気をつけます」
「いつも反省だけは立派よね。結果が
「早く靴下持ってきてよ! お母様とお出掛けするんだから!」
深々と頭を下げたまま
……いや、違う。最初から私は父に好かれてなどいなかった。
父ロバートと母アンジェラの結婚は、祖父の決めたことだった。私にとっては陽気で
それでも、家長制度の強いフォルメーア王国では、父親の権力は絶対だ。ロバートは
……そんな
新しい家族が増えて、我が家の暮らしはますます
まず、給金を
母が私の為にと
……でも、そんな私にも希望はある。
三日後の十八歳の誕生日に、母が作ってくれた私
節約の為に
私が大切にされていた
大きな額ではないけれど、これを持って私は家を出る。名前ばかりの子爵家の地位などいらない。王都を
──私のささやかな夢は、最悪の形で裏切られた。
「ミシェル、お前は今日からガスターギュ将軍の屋敷に
「ほう、こう……ですか?」
「そうだ。ガスターギュ将軍、お前も聞いたことがあるだろう。彼の家で住み込みの使用人を
「ガスターギュ将軍って……」
昨年、
そんな
「お父様、どういうことでしょう? 使用人って……?」
察しの悪い私に、父は
「実は先物取引で失敗して借金ができてしまったんだ。だからお前を働きに出すことに決めた」
「そんな……」
私は言いかけて、ふと気づく。
「し、信託財産! 私には、母の遺してくれた信託財産があります。それを使えば……」
あれは私の独立資金だったけど、家族の一大事なら仕方がない。喜んで差し出そう。気の利かないお荷物と言われ続けてきた私だけど、ここで役に立てれば家族に認められるかもしれない。……お父様も、私を見てくれるかもしれない。そう思ったのに──
「あんな
──希望は
「ど……どういう意味でしょうか?」
ますます混乱する私の足元に、父が何かを
「あんなみすぼらしい箱を大事にしてるから、
アナベルがせせら笑う。小箱を拾い上げる指先がおかしいくらい震えている。何もかもが悪い夢のようだ。最後の
「もうガスターギュ将軍から
聞き分けのない子どもをあやすように
どうして? どうして私が? 泣きそうになりながら目を向けると、継母と義姉はこの上なく
「これは家長の命令ですよ、ミシェル。まさか嫌だなんて言わないわよね?」
「あたしは
……っ!
……売られた。働きに出すなんて聞こえのいい言い方をしたって、借金のかたにされたことには変わりない。私、家族に売られたんだ。継母と義姉と……実の父に。
「さあ、早く行きなさい。先方に
父の
「はい。……お世話になりました」
……もう、どうだっていい……。
逃げる気力すら残ってはいなかった。私はほんの少しの私物を小さな
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