期末テスト - 102日目 -
期末テスト2日目。これさえ乗り切ればもう自由になったも同然だ。よし! やるか!
最初は化学、やっぱり暗記だったな。そして簡単だったな。
次は現文、前回より文章量が増えた。これは仕方ないか。内容覚えるのに必死だったが出来なかったわけではなかったと思う。
その次、地理。頭の中に地図が浮かべられればこっちの勝ちだ。ということでこの教科は勝った。もう負ける気がしない。この教科だけは。
ラスト、情報。前回の反省から問題を解くスピードを上げた。わからない問題はあまりなかったな。単純に解きやすかったというのもあるかもしれない。
× × ×
やった・・・
「終わったー!」
「はいお疲れ様。今回は何て言うか、よく出来た感じよね。見てても十分伝わってきたから」
「ええそうですね。普通の人の倍の時間使って勉強させられましたから」
「でも矢島君。今回出来ちゃったら次のテストでハードル上げることになるわよ」
「あ、やべ、全く考えてなかった」
そうだ。もし今回のテストでめっちゃできてしまったら次の対戦の時に確実に不利になる。ああー! 自分で自分の首を絞めたー! 結果次第では尾鷲やわたりんと対決なんてことにもなりかねない。やばい・・・まぁその時になったらでいいか。今はテストが終わったことを素直に喜ぼう。
「しっつれーしまーす!」
「なんか久しぶりに聞いた気がするな。この声」
「忘れないで!」
忘れないよ。今回迎えに来たのはココとわたりんだ。慎は部活だろう。残りの人はどこかで待ってるのか。
「じゃあ本渡先生。二日間ありがとうございました」
「はーい。たまには患者としてきてねー」
縁起でもないこと言うな。まぁいいや。さてと、テストも終わったことだしやることはもう決まっている。
「今日は午前中で終わりだから奈々のところ行くぞ」
「え? 午前中で終わらないよ」
「は?」
何で? だってもうテスト終わったじゃん。やることないじゃん。
「午後はほら、文化祭の出し物決めるって」
「忘れてた・・・」
奈々のところに行く予定が・・・。先延ばしになってしまった。こうなったらさっさと決めて終わらせよう。
× × ×
ということで午後は文化祭のクラスの出し物を決めることになりました。進行は慎に全投げしよ。板書はわたりんがやっている。ココはわたりんとの中継役。まぁいつものような感じだ。そして俺は・・・ご意見番? この立場もよくわからんが。
「それではクラスの出し物を決めたいと思います。まずはどんどん意見を言っていきましょう」
そしていろんな人から意見があげられていく。いろんな人とは言ってもさすがにもう声と名前が一致するので誰が何言ったかわかるんだよな。そしたら意見が出るわ出るわ。誰が何言ったか言ってくか。
まず最初は他でもないココがわたりんの板書より先に自分のやりたいことを書いていた。「夏祭り」ってなんだよ。前咲夜さんからも聞いたけど何するんだよ。まさか教室に屋台でも出すのか?
次は定番と言えば定番、お化け屋敷。これを提案したのは遠藤だった。こいつ脅かすの好きだもんな。俺にいつもして来るし。俺なんか7年そんな感じだったから慣れすぎて全く驚かないが。
次は佳那でコスプレ喫茶。確か茶道部でも何か出すって言ってなかったか? そっちはどうでもいいのかよ。あとコスプレって具体的にどんなコスプレをするんだよ。
その次は上村のミニゲーム広場。あ、うえむらな。いちいちフリガナ振るの面倒だな。ミニゲームって範囲広すぎねぇか? あとミニゲームで言うと夏祭りやカジノも似たようなものだろう。
そんなことを考えていたら次に出てきたのがまさにそのカジノだった。うえむらの言ったことをさらに詳しくした感じでかみむらが言った。苗字同じ漢字だとこう書き分けなくちゃならないからな。
あとこれはどうかと思ったのが休憩所だ。もうやる気の欠片もないじゃん。休憩所で準備するのってなんだよ。最悪机と椅子あれば終わっちゃうじゃん。しかもその二つは教室に常駐だから準備するものマジでないじゃん。ちなみにこの提案をしたのは新藤だった。珍しくやる気出したと思ったらこれだよ。もちろんこの案は黒板に書かれることもなく却下された。
次に出てきたのが動画、バカッコイイ? 最初に聞いて何それと思ったのだがあとの説明を聞いてようやくわかった。なんでもやっても意味ないことをカッコよく決めることらしい。例として挙げられたのが後ろ向きでバスケのゴールをする、黒板消しを投げて定位置に戻す、さらに身近だとゴミ箱にティッシュを投げ入れるのがバカッコイイの括りに入るらしい。じゃあ俺からすれば何してもバカッコイイにならねぇか? 見えないんだし。ちなみにこれを考えたのは高橋(由)のほうだ。
次に出てきたのが劇、俺を先頭に一部の人が「えー・・・」と言っている中賛成したのがこの意見を言った工藤、あととにかく楽しければいいと思っているココと橋倉、あと本橋。お前ら本当にそれでいいのか?
そして最後に出てきたのが短編映画。これを提案したのは慎だ。どうせ慎の事だから何か思うところがあって意見を言ったのだと思う。でもその内容について慎はただ一言「このクラスにとって一番いいものになると思う」とだけ言った。詳しく言わないのか。うーん・・・だとしたら判断に困るな。
以上、整理しよう。夏祭り、お化け屋敷、コスプレ喫茶、ミニゲーム広場、カジノ、バカッコイイ動画、劇、短編映画、この8個のアイデアの中から絞っていくことになる。多いな、こんなに考えられたんならテスト勉強ちゃんとやったかという疑問も湧いてくるが。
「この中から決めていきましょう。その前に先生、この中で絶対に出来なそうなものはありますか? 許可とかそういう観点から」
「うーん・・・まぁお前らがどうするか次第だが俺の個人的な見立てだと出来ねぇもんはねぇな。ただそれぞれのクラスに割り当てられる予算の上限を超えねぇように、あとは時間的に出来そうなものを考えなくちゃならねぇよな。それでいて他のクラスがやらなそうなものとなると・・・ありきたりなものは除外されるな」
答えを出さないのかい。まぁ早川先生の言うことはわかる。まず予算だ。学校側から支給される金額がどんなものかはよく知らないがその予算内で文化祭に必要なものを買うことになる。よく使われる段ボールなんかはスーパーにでも行けばタダでもらえるが問題はそのほかだ。どれをとっても予算は足りるだろうかちょっと不安だ。
次に時間的問題。夏休みを間に挟むのでその間も準備すればいいだろというのが極論だがそれだと部活の無い人に明らかにしわ寄せがいく。それを許すだろうか。あとトラブルというのは当日に近づくほど起きる可能性が高まる。そのトラブルを対処できる時間の方も問題だ。これについてはみんなのやる気次第といったところか。
最後にあったのが独創性。他のクラスがやらなそうなものとなるとこれまで出されたものからいくつか除外されるものが出てくる。まぁ被った場合は文実の方からそれでいいかとお達しが来るからいいけど出来ることなら全員が納得でき、かつ最善の案を取りたい。うーん・・・難しいな。
「はいじゃあご意見番はどう思う?」
「俺はご意見番じゃねぇよ」「うーん、どの案も長所短所があるけど」
慎からご意見番に任命されたのは俺と佐藤だ。佐藤は学級委員だからまだわかるが俺は何で? 文実だから? だな。はぁ・・・
「まずは健ちゃんからどうぞ」
「そうだね。まず予算の範囲内で収まるか怪しいのが夏祭り、ミニゲーム広場、カジノかな。この3つは小道具が多いからね。その小道具をどうやって作るかによって予算の割かれ方は変わってくると思うけど、あとはみんながそういったものを提供してくれるかどうか次第だね。で、それ以上に厳しいのがコスプレ喫茶と劇と映画かな。この3つはさらに時間的に厳しいかもしれないよね。コスプレの衣装をイチから作る場合、コスプレのキャラにもよるけど多分今から始めていかないとちゃんとしたクオリティのものは出来ないと思うよ。あとそれ以上に喫茶店だから提供するものの議論も必要になるしそれも予算から出るからね。予算オーバーにならないか心配だよ。あと劇と映画は共通した問題だけど脚本を決めなくちゃいけないよね。そのうえで練習、映画の場合は撮影も追加されるから期間は思ったよりきつくなると思うな。それとこれもだけど劇や映画は一定時間このクラスに縛られることになるからね。お客さんの回転が悪くなるのも問題の一つとしてあるよね。例年投票形式で賞は決まってるから回転が速いほうがいいと思うよ。そして残ったお化け屋敷とバカッコイイ動画だけどこの二つは毎年必ずどこかのクラスがやってるからどうも被りそうな感じがするんだよね。でもどっちも人気はあるから被ること覚悟でやるなら僕はこの二つもありかな」
「なるほどね・・・次、光ちゃんは?」
あれだけ佐藤がわかりやすく説明してくれたのに俺もなんか言わなきゃならねぇのかよ。同上、で片づけられないよな。そうだな・・・
「ほとんど全部言われちったよ。でもあえて言うとしたらそれもこれも内容次第ってとこだ。てことで俺は意見を言ったやつに詳細な説明を要求する。ていうか説明してもらわんと目の見えねぇ俺には何が何だかわからん」
詳細な説明、俺が言ったことをわかってくれただろうか。普通に内容わからねぇよってことの他に考えなしに案を出すなって警告も入っているのだが。あと個人的にだが慎の案の中身が欲しい。何で詳細を語らないのかが気になる。
「じゃあココからだな」
「は? へ? 私? えーっと・・・うーんと・・・あ! 屋台! そう! 屋台みたいなのを出す! みたいな?」
「具体的には?」
「金魚すくいとか」「生物の持ち込みはさすがにアウトだろ」
「じゃあヨーヨー釣り!」「水どこから持ってくるんだよ。あと教室にぶちまけたときの掃除がめっちゃ大変じゃねぇか」
「射的!」「景品は? 射的の銃は? 台は?」
「・・・か、型抜き!」「あの超地味なやつか」
「光ちゃん、その辺にしてやれ」
徹底的に俺が否定したせいでココが半泣き状態になっている。なんか色んなところから視線を感じるけど俺別にいじめてないからな。
「次はお化け屋敷で遠藤」
「お化け屋敷ならやりやすいだろ? ほら、白いビニール被るだけでおばけになれるしよ。あと清掃用具入れとかもうこのためにあるようなもんだろ!」
「俺見えねぇからやられたところで驚かねぇしってのが極論だが」
「うっせ! お前のことは知らん!」
まぁこれは俺一人だけに通じる文句だから一般的なことを言っていこう。
「まず光量をどうやって減らすんだよ。相当な量の段ボールが必要になるぞ」
「暗幕で何とかなるんじゃ」「じゃあ今閉めてみろよ」
そう言われて窓際の人が暗幕を閉めてみると・・・やっぱりな。
「さすがの俺でも明るいか暗いかくらいの区別はつく。今完全にシャットアウトされたわけじゃねぇだろ。ただでさえ他のクラスも段ボールを大量に必要としてるのに窓際一面貼れるほどの段ボールもらえると思うか? あとそれ以前に絶対お化け屋敷は被る。その中でどうやってこのクラスっぽさを出すつもりだよ」
「くそ! また負けたよ!」
これで二人目、何度も言うようだけど俺は至極まっとうな質問をしているだけだからな。どうせ行きつく問題だから先に聞いてやろうって言う俺の優しい精神だからな。
「次はコスプレ喫茶で佳那だな」
「コスプレ・・・そうコスプレ! 例えばイケメン執事が食事を出すとかメイドさんが恥じらいながらお待たせしましたとか言うの良くない?」
「お前そんなに腐女子だったのか」
「腐女子とは失礼ね! みんなも引かないでよ!」
佳那が腐女子ということは判明したがコスプレ喫茶ね・・・。
「私それいいと思う! マジ最高じゃん! みんなのその光景・・・眼福だわ」
橋倉も似たような属性だった。とりあえず後者の腐女子はほっといていろいろ疑問ぶつけるか。
「じゃあ何提供するんだよ」
「お茶とかコーヒーとかいろいろあるじゃん」
「食事の提供で一番ダメなのは供給不足だと思うんだが、そこはどうするんだよ」
「は? どういうこと?」
「わかった。もうちょっとわかりやすく言うわ。一番の問題は売り切れることだ。それについてはどう考えてるんだよ」
「そんなのいっぱい仕入れとけばいいじゃん」
「事はそんな単純じゃねぇんだよ。その仕入れだって割り当てられた予算から出るんだぞ。それだけで大半がなくなっちまうじゃねぇか」
「確かに」
「で、残った予算でコスプレの服を作るにしろ買うにしろレンタルするにしろ、圧倒的に金が足りねぇよ。教室の装飾ゼロでやる気か?」
「ぐっ・・・」
「あともっと根本的な問題だ。2年は創作だったはずだ。でもこれはそのコンセプトから外れる。これは3年のやることだ」
「勝てない。何でそんな文句出てくるのよ」
だから文句じゃねぇって。あたり前の疑問をぶつけてるだけだってのに。しかも疑問はまだある。喫茶店は絶対被る。○〇喫茶店が乱立することになるのは売り上げの分散を招くから俺は勧めない。現に茶道部もやるんだろ。じゃあそっちだけでいいじゃんよ。
「次はミニゲーム広場でうえむらか」
「夏祭りとカジノと被る部分が出てくると思うけど例えば輪投げとかカードゲームとか、他にもいろいろあるかな?」
「被る部分っていうか丸被りだよ。どれか一個に集約したほうがいいと思うが」
「だよな。じゃあ俺の案は消していいや」
ということでうえむらの案は消された。でも悪くはないと思う。ただ夏祭りもカジノもミニゲームの集合体ってだけで要はミニゲーム広場って括りの中に夏祭りとカジノがあると俺は思っている。あとはネーミングさえ変えてくれればこれは割とどうにかなるんじゃねぇかと思う。
「次はカジノでかみむら」
「さっき言ったようにダーツとかポーカーとかいろいろあるじゃん」
「チップ使うのか。先生、カジノって教育上問題はないんですか?」
「まぁ本格的に金銭をかけるわけじゃねぇからセーフだ。ただ線引きは難しいな。例えば机でやるゲームでも麻雀はアウトだ。あとルーレットもかなり微妙だな。まぁ遊びってんならいいんじゃねぇか」
適当だな。となると出来るやつはやっぱりカードゲームとダーツ。あと夏祭りのやつもいくつか入れられるな。輪投げとかもダーツと似たようなものだし。
「仮にカジノをやったとして、そのチップは何に変換されるんだ?」
「それはだな・・・お菓子とか? 無料券とか?」
「まぁそうなるか。でもよ、これは個人的な感想なんだが俺は万人受けしねぇ気がするんだよなぁ」
「理由を聞かせてもらおうか」
「カジノって響きがよくねぇ。だったらさっきのミニゲーム広場の方がまだいい。それに、スペース的な限界があるだろ。この教室で入れられるものってなるとせいぜい二三個が限界だ。それじゃ中途半端になって逆に損させることにもなるだろ」
「確かに・・・スペースか」
多分カジノ他ミニゲーム全般に言えることだと思う。どれも結構スペース使うんだよなぁ。それを考えると教室に入れられるものは結構限られてくるしそれを果たしてカジノって呼べるのかという問題も出てくる。まぁ所詮は文化祭ということでみんな来てくれるとは思うが俺は妥協したくない。だからか、こんな真面目に議論に参加してるの。
「じゃあこれはひとまず置いといて次はバカッコイイ動画で高橋由実さん」
「さっき説明した通りよ。それ以外何も無し!」
「じゃあ俺がやったこと全部バカッコイイに分類されるんじゃねぇの?」
「絶対そう言ってくると思った」
呆れるな慎。あと笑うな尾鷲。でもそうだろ。もしあれなら一日アイマスクして生活してやってもいい。それが証明になるから。
「光ちゃんには最難関のやつやってもらうつもりでいるからヨロー」
「まだこれって決まってねぇだろ。それに、さっき佐藤も言ってただろ。絶対他のクラスもやってくるぞ」
「独創性ね。それについてもノープロだから」
「信頼性に問題があるんだが」
「光ちゃんとゆーみん。ココと遠藤の頭が追い付いてないからな」
まぁ受けはいいだろうな。でもやっぱり独創性をどう出すかが課題だろう。このクラスの出せる独創性か・・・個性たっぷりっていう点では十分独創性は出ているがそれだけでどうにかなるものなのか。あと全然関係ないけど何でも略すのやめて。理解に時間かかるから。
「次は劇か」
「我が説明———」
「台本はどうすんだ? 配役、練習、衣装その他諸々。問題山積じゃねぇか」
「ゆえに我が説明———」
「オリジナルストーリーはイタいから絶対にやらないでほしい。あとは何だ? 童話? なんかお遊戯会みたいだな」
「だから我が———」
「それと劇って確か1日目の部活講演でやるって聞いた気がしたんだが。そこと比べられるぞ」
「光ちゃん容赦ないな。工藤が沈んじゃったぞ」
「真面目に考えたゆえの結果だ。説明を聞くまでもない」
「矢島。もちっと優しくしてやれな。お前は見えてねぇかもしれねぇけど、言われたやつみんなして下向いちゃってっからな」
早川先生もこう言うがこれ以上どう優しくしろって言うんだよ。これは・・・そうだな・・・愛ある鞭? これで合ってるのかなぁ。ちゃんとやりたいからこそあえて厳しい態度を取っているだけに過ぎない。
「じゃあ最後に俺か」
実質俺が一番聞きたかった慎の意見。映画の中身が話される。
「まず今までの話を聞いて思ったんだけどな。これ全部合体出来そうな気がするんだけど」
「おい慎。欲張ってると後で痛い目見るぞ」
「まぁ最後まで聞けって。まず俺がやろうとしてるものは映画、ジャンルはドキュメンタリーだな。あくまで仮タイトルなんだけど・・・『障がい者の日常』って感じにしようと思ってるんだ」
障がい者の日常。俺とわたりんがいるからか。確かに今まで俺たちを主軸に置いて行事をこなすことが多かった。今回もそうなるのか。
「光ちゃんの目線、わたりんの目線、あとは他にもたくさんの人がいる。それぞれの目線での日常を切り取って映画にしようと思ってるんだけど」
「他にもたくさんってことは別のクラスの人にも参加を仰ぐ気か?」
「まぁ結果としてはそうなるな。でもあくまで制作は俺たち9組でだ」
「さっき言った合体ってのは?」
「まず映画と劇は似てるだろ。脚本も演者もいるし。ただコミカルさを出したいのなら俺にも考えはある。映画泥棒の劇だ」
慎のやつ。さてはめちゃくちゃ考えてたな。
「バカッコイイはその映画の中に入れることも可能だし、ミニゲームは出来ればだけど映画の間の時間にやってもらうことも可能だ。こう言っていいのかわからないけど障がい者体験って名目でな」
本当に全部合体させる気だ。もうここまででコスプレ喫茶とお化け屋敷以外全部組み合わさった。いや、視覚障がい者体験は見方を変えればお化け屋敷になるのか。真っ暗になるし。まぁ全部合体させるのはいいとして
「まぁやってもいいが問題が二つあるな。まず時間はどうする気だ? 脚本作って撮って編集して・・・どう考えても時間足らねぇだろ」
「みんなで役割分担すればいけると思うよ。幸いここには写真部とパソコン部もいるし、脚本も俺を中心にやる気満々な人が何人かいるし。題材のもととなる人にも心当たりあるし」
パソコン部は本橋だな。脚本やる気満々なのはココと橋倉あたりか。映画泥棒の方は遠藤と工藤あたりが喜びそうだ。題材のもとってのは俺やわたりんの事か。あと遠回しに葵や奈々にも協力を仰ぐ気だな。でも写真部って誰だ? ココは文実の記録係だからちょっと違うよな。本橋はさすがに写真部までやってはいないだろう。うーん・・・気になるが今は疑問の解決が先だ。
「じゃあ二つ目。さっきも言ったが今までの話を聞いてるとこれクラスの出し物じゃねぇだろ。学校の出し物だろ」
「確かにそう捉えることも出来るな。まぁこれに関して俺は何も言えないからみんなに任せるよ。でもそれでもいいならしっかりやるよ」
「あと最後に一つ忘れてた。慎が言い出したんだから主導しろよ。部活で来れねぇんだったら誰かに任せろよ」
「それはするって。そうでもしないと本気で間に合わなくなるしな」
どうやら慎は本気でこれをやる気でいるようだ。もしそうなら俺から言うことは特にないな。慎の事だからだいぶ先のことまで考えてそうだし、俺は慎と共にいくだけだ。
「さてと、ここまで各案の詳細とご意見番のありがたい意見を聞いて質問のある人は?」
一語余計だよ。何だよご意見番のありがたい意見って。
「あのさぁ、何でもかんでも障がい者目線で考えるのどうなの? 私たちの意見は?」
質問というより文句だな。それを言ってきたのは湯川だ。でも湯川の言ってることはよくわかる。珍しく湯川に同調した。言い方さえ何とかしてくれればな。要は俺やわたりんを第一に考えすぎているのではということなのだろう。わたりんもおそらく同じことを考えただろう。罪悪感という言い方が正しいのかは知らないが似たようなものを感じる。
「確かにそういう意見もあるね。でもそれを言えるのは俺たちじゃない。当事者だと思うけど」
どう言い返すかを聞いていたら慎は湯川の言ったことを一蹴した。
「・・・わたしはみんあといっそにたのしいことをやいたい」
続いてわたりんが声をあげた。確かに俺も同じだ。
「俺もそうだな。やることをこれって決めて過程結果含めて楽しけりゃいい。それ以上は望まねぇよ。だから別に出し物が何に決まろうとも俺は決まったら可能な限り出来ることをやるだけだ」
俺がこう言うと湯川は座ってしまった。何だろう、いつもだったらもっと言ってくるかと思ったが今回は引き下がるのが早かったな。もしかして・・・いや、聞きたくねぇなぁ。
「・・・他に意見は・・・・・・ないか。じゃあこの中から決めますのでどれか一つ手を挙げてください」
そう言って多数決がとられた。結果は・・・
「全会一致で映画に決まりました」
慎の声と共に拍手が起きた。やっぱりな。ん? 全会一致だったのか。
「よーしじゃあ決まったところで、夏休み期間中の準備について連絡するぞー。まず夏休み中は基本的に教室には入れないから注意しろな。もし教室だったり他の部屋を使いたいってなったら職員室にいる先生にその旨を伝えてから鍵をもらってな。無断で持ち出した場合は最悪夏休み中、学校の立ち入りが禁止される可能性もある。だから絶対に忘れるなよ。あとこれからは文実を中心に準備が進んでいくとは思うが全員に伝える。与えられた役目はしっかり果たせ。俺から言うことは以上だ。ああそうだ。文実は企画書の提出忘れるなよ」
なるほど、というか当然か。夏休み中の学校使用には許可がいる。まぁ俺一人で来ることはないから誰かが先生に言ってくれるとは思うけど。
ということで今日のLHRは終了してこれでようやく・・・
「よし光ちゃん。文実いくぞ」
「まだ終わんねぇのかよ。テスト明けだぞ」
いったいいつになったら奈々のもとへ行けるのか。悪いがもうちょっと待っててくれ。
× × ×
面倒だなぁ文実。今日は何を議論するの? 企画書出して終了じゃないの?
「はーい! えーっと、大体揃ったので始めたいと思いまーす! イエーイ!」
たんぽぽ先輩またハイテンションだな。テスト終わったからか?
「今日集まってもらったのはまず企画書の提出、そして今後の準備についてです」
東雲先輩は平常運転だな。やっぱりたんぽぽ先輩がおかしいんだな。
「まず企画書を回収します。各クラス代表の方は生徒会長に企画書を渡してください。精査して問題がなければそのまま進めてもらいます。もし問題があった場合は月曜日にクラスの方に通達したいと思っています。通達する場合として考えられるのは他クラスと出し物が被った場合、企画書に不備がある場合、内容に疑問がある場合になります」
まぁうちは被らないだろう。もし被ったとしても内容が全然違うからな。他クラスも協力するってのは疑問としてはあるが慎が何とかしてくれるだろう。あとは全会一致で決まったって言えば何とかなる。
企画書の回収が終わってリアルタイムでたんぽぽ先輩と葵、他数名が精査していってるらしい。これあれだな、今日中に通達ありそうだな。
「では次に・・・今後準備を行う上での注意事項について説明します。まずはこれから配る紙を見てください」
うん、紙見えないから説明まで待とう。しばらくして
「まず文化祭の準備にかかる予算についてですが各クラス2万円になってます。その予算内でうまくやりくりして文化祭の準備をお願いします。また文実は予算の管理と支出の計算も行ってもらいます。これについては文化祭終了後支出リストと残金を提出してもらうことになるのでよろしくです。また支出は可能な限り予算の範囲内で行ってもらうことになりますが予算+2000円までは予備費用として使用してもらって結構です。しかし+2000円についてはクラス内で出し合う形になります。それについてものちに提出する支出リストに計上してください」
なるほどね。今まで予算がどんなもんかがずっと疑問であったけど2万か。結構あるな。しかもクラス個人で+2000円までオッケー。だとすると割と自由に使えそうだな。おいココ、唸り声あげるな。別にココわかってなくても他がわかってるから。無理にわかろうとしなくていい。
「次に特に3年で文化祭中の収入についてですがこれも終了後に回収したいと思います。のでいくら収入があったかについても計上してください。もし間違えていたら大変なことになるので慎重にやっていただくようお願いします。部活の出し物における収入についても同様です」
この収入は一体どこに行くのだろうか。まぁ生徒会費なんだろうなぁ。
「次にクラスTシャツについてです。3年生については予算とは別にクラスTシャツの費用が出るのでそっちを使用してください。1、2年生については申し訳ありませんが制服での参加になります。3年生のクラスTシャツのデザインについてですがこれは夏休みに入る前までに提出していただくようお願いします」
そんなのあるのか。クラスTシャツねぇ。個人的に欲しい感はあるけど2年だからなぁ。でもあれか、制服だとは言ってたけどコスプレ衣装とかならオッケーなのか。いや俺は着ないよ。
「次に文化祭にて使用する段ボールについてですが周辺のスーパーから持ち出す際は必ず事前に店員や責任者に許可をもらうようお願いします。よくレジ前に置いてある段ボールの持ち出しは禁止なのでお願いします。また段ボールの持ち出しの開始時期は文化祭一週間前、8月26日からとします。それ以前に段ボールをもらいに行くのは禁止としますのでお願いします」
8月26日、また随分先だな。まぁこれは近くなったら考えるか。
「次に夏休み中の教室利用についてですが勝手に入ることは出来ません。ので職員室にいる先生に一声かけてから教室を使ってもらうようお願いします。無断使用がわかった時は最悪夏休み中の使用が出来なくなるので注意してください」
これは聞いたな。果たして俺は夏休み中何回派遣されることになるのだろうか。
「ここまでが教室で行う出し物についての説明になります。何か質問のある人はいますか?」
情報量が多いな。やっぱり聞くだけだと覚えられる量に限界があることが分かった。まぁわかんないところは慎やわたりんに聞くか。ココは・・・申し訳ないが頼りにならない気がする。
「では次に部活で行う出し物についてです。事前にお知らせしていますがもう一回通達します。部活で何か出し物を行う際は夏休みに入る前までに企画の提出をお願いします。あとその出し物について少し詳しく説明します。主に即興バンドや文化部で出し物を出す人に関係しますが前夜祭、後夜祭、期間中問わず第一体育館を使用する人は教えてください」
後夜祭と聞いて嫌なことを思い出した。何で俺が準備を・・・。はぁ・・・
「当日のタイムスケジュールはさっき言った8月26日に公開します。また、当日に向けてリハーサルを行う日も設けます。リハーサルの日は前夜祭の前2日間となっています。リハーサルのスケジュールも同じ日に公開するのでリハーサル、本番に向けて準備してもらうようお願いします」
リハーサルが前日前々日の2日間か。なるほど、当日に向けての中身がだんだんと分かってきた。
「あとこの後各先生方から言われると思いますがリハーサルの日、8月31日から5日間は第一体育館および第二体育館は使用不可となるのでよろしくお願いします」
第一体育館が使用禁止なのはわかるが第二体育館も? ということはそっちでも何かやるってことだよな。こっちに関しては俺何も知らないぞ。
「その期間、体育館を使用する部活に関しては別の練習を行う、もしくはお休みとさせていただきたく思います。なお、大会が近いなど理由がある場合は近くにある市民体育館を使用していただくようお願いします。これについては各部活の顧問にこの後伝達します」
何かめちゃくちゃちゃんとしてるな。俺が知らない間に細かいところまで決まっている。これってまさか・・・、いや、ありそうだな。もう侵食は始まってるのか。
「全体の話は以上になります。何か質問のある人はいますか?」
もう最初の方覚えてませんって言っていいだろうか。情報量が多すぎる。やっぱり聞くだけだと限界があるわ。
「ではここからは各係ごとに活動を行うことも増えてくると思います。基本的に夏休み明けまでは係活動はないと思いますが夏休み明けてからはよろしくお願いします。各係の活動についてはその係のリーダーにお任せします。ただ私や生徒会から定期的に指示を出すと思うのでリーダーを中心にその作業は優先して行ってもらいたく思います。特に大道具係は夏休み中も集合する可能性が高いのでその時はよろしくお願いします」
大道具係、確か慎がそうだったな。お疲れ様。もう部活どころじゃないな。
今日は東雲先輩がほぼ全部しゃべって実行委員会は終わった。ちなみに企画書の精査結果についてだが俺たちは問題なく通ったというか慎が葵に詳しく説明して葵が呑んだって形だな。他はどんな感じだったかというとやっぱりお化け屋敷とカフェは被ったな。とはいえ一度決めたものを変える気はないらしく結局最初の案でみんな押し通したらしい。まぁ生徒会の人もどっちか変えろって強制は出来ないからな。そういえば7組は何するんだ? 後で聞くか。
× × ×
あらかじめ言っておいたが今日は久しぶり、なんか悪い気がするが久しぶりに奈々のところに行くことになっている。行ったらまず謝ろう。今まで行けなくてごめんって。
「それじゃ行こー!」
さっきの話をほぼ分かっていないであろうココを先頭にみんなで病院を目指す。部活組はいつも通り部活だな。ただ茶道部の3人はいる。今日金曜日だし。だけどバンドの橋倉はいない。今日中に文化祭の企画書を出したいらしく今も話をつめているところらしい。
さすがに人数が多いので今日は仕方なく電車だ。うーん、電車だとあの時のを思い出すな。気にしないようにしようと思うが特にココ、さっきのはしゃぎようとはうってかわって電車の中だとおとなしい。いや、おとなしいは言い過ぎだな。落ち着いているが正しいか。
今回は問題なく電車を降りることができ、その後アオママの車に乗っていこうかと思ったがどうやらまだ来ていないらしい。ということで待っている間にこの話でもするか。
「なぁ、7組って文化祭何やるんだ?」
「それ私も知りたい!」
俺らは映画ということでまとまったが7組はライバルだ。気にはなる。でもなぁ
「雛たちは喫茶店になりました」
「喫茶店? 2年なのに?」
「そうです。2年なのにです。理由はあります。こちらには喫茶店を行う上で絶対的な優位性がありますから」
優位性ね。なんとなくわかった。だからこう言おう。
「ズルくね? 完全に咲彩頼りじゃねぇか」
「それでもいいの。さーちゃん効果で私たちの喫茶店は大繁盛よ!」
「へ? どゆこと?」
ココへの説明は他の人に任せておこう。とはいえやっぱり咲彩を使うのはかなりズルい感じがするな。タレント効果って言うの? それで売り上げを伸ばすとか。
「で、喫茶店のコンセプトは?」
「コンセプト? そんなの決まってるじゃない。個性あふれる喫茶店よ!」
「・・・いや、個性は・・・あるがそれを喫茶店に使うか普通」
「もちろん他にも喫茶店をやるクラスがあるのは知ってるけど、私たちのクラスはその全部を集約させた喫茶店にするのよ」
「・・・動物園だな」
この後はわかるでしょう。葵に太ももつねられました。でもそうだろ。葵と咲彩と雛、この3人だけでも個性の塊なのにそういう人たち集めて喫茶店とか。なんかもうカオス状態になりそう。
「そういう9組は何するのよ」
「映画!」
「映画?」
葵と雛が揃って同じトーンで疑問符を打ったがそれについて適当に説明すると
「ふーん、なかなかいいこと考えるわね。そこまで至らなかったわ」
「ですがそれは9組の出し物とは言えなくなりませんか?」
「いや、あくまで動画の撮影・編集はこっちでやるからギリオッケーなんだと」
「それってもしかして私も———」
「ああそうだ。取材対象だ。覚悟しとけよ。あと低身長は使えるから雛もだ」
「はっきりと低身長って言わないでください。なりたくてなったのではないんですから。それとそこにいるかなを殴っておいてください」
「は⁉ 何でよ⁉ ちょっと笑っただけじゃん!」
「笑っただけでアウトです。ていうかあなたも低身長じゃないですか」
「は? あんたよりは大きいんですけどぉ」
「けんかだめー!」
とりあえず雛と佳那の喧嘩はわたりんが仲裁してくれているのでここは任せておこう。
「他にも奈々とかも取材対象になるな。そうだ、そのことも言わねぇとなぁ」
「ずいぶんと大掛かりね。慎ちゃんいつからそんなこと考えてたのかしら」
「まぁ本人に聞くことだな。俺にはわからん」
実際いつから慎がこんなことを考えていたのかは俺にもわからない。でも一日二日で考えつくような内容じゃねぇよなぁ。
「あ、ママ来た」
どうやらアオママが到着したようだ。あれ? これ全員乗れるか? 今何人だ? 7人・・・乗れなくね?
「では皆さん、奈々さんのところへ行ってきてください」
「え? 行かないの?」
「さすがにこの人数は乗らないでしょう。雛たちは奈々さんが元気に学校に戻ってくるまで待ちます」
「そういうことだ。行ってくるといい」
「私たちの心意気に感謝しなさい」
「なぜ命令口調なんですか。ほら帰りますよ」
「ちょっ! 引っ張らないでよ!」
「じゃあまた」
「うん! バイバーイ!」「バイバイじゃないでしょ。もっと別に気にかけるところがあるんじゃない?」「うん。また」
結局茶道部三人は病院来ないのか。ピストン輸送でもいいのなら来れたのにな。まぁいい、部活勢も元気になった姿を見たいって言ってたしな。そこまであえて見ないでいるのだろう。
しばらくして病院に到着した。なんだかすごく久しぶりだ。本当だったらもっと行く頻度を増やしたかったのだが合唱コンクール、文実、期末テスト、行事が重なりまくったせいで全然来れなかった。だからまず最初に謝ろう。
病室の扉まで行くとココとわたりんに押される形で病室へと入った。
「光ちゃん先輩・・・皆さん・・・」
「よぉ。悪かったな、あんま来れなくて。でも今日は久しぶりに何もなかったから来れたんだ」
「久しぶり!」「うん」「あまりこえなくてごめんね」
「いえいえ、皆さんのお顔を見ることが出来ただけで奈々は幸せです。ありがとうございます」
よかった、怒ってはいなそうだ。というか奈々が怒る姿、全く想像できん。
「あまり来れなかった経緯を説明しなきゃなんねぇな。大きく3つだ。合唱コンクール、文実、期末テストだ」
「そうです! 合唱コンクール! 見ました。皆さんすごかったです!」
「えへへー、それほどでもー」
「その皆さんにココは絶対いねぇと思うんだが」「え?」
「いえいえそんなことないです。わたりん先輩は耳が聞こえないにもかかわらず指揮をしっかりと振って途中からは前を向いて何もわからない状態で振り続けましたし」
「———」
「アオ先輩は足が使えないのを連弾でカバーしつつ自分で演奏をして」
「ちょっと言われるの恥ずかしい」
「光ちゃん先輩は見えないのにしっかりとずれることなく歌っていて本当に見えていないのか錯覚するほどでした」
「まぁ杖とか持ってなければぱっと見気づかねぇだろうな」
「ココ先輩は・・・元気よかったです」
「そうでしょ! うんうん」
いや違うぞココ。わたりんはココに対してこれといった感想がなかったから苦し紛れに言っただけだぞ。だからここで嬉しがっちゃダメだぞ。
「来年、来年こそは私もあの舞台に上がりたいです。いえ、上がります!」
「いい心構えだ」
「また撫でてる」
いいじゃんよ。人が決心した姿は見てて嬉しいだろ。俺は見えないけど。
「そうでした。皆さんにお聞きしたいことがあるんですけど」
そう言ってスマホをポチポチし始めた。少しすると
「これです。何ですかこれ。どういうことですか?」
俺画面見えないのだが、ここは葵とココの話を聞いていよう。
「あそれそれ! SAKU-KAYOのテレビとユーチューブね。私もびっくりしちゃった」
「私直前まで全然わかんなかったよ! ていうか今もわかってないよ!」
ああ、その事か。確かに突然出てきたからわかんないこと多いよな。ある程度の話を聞いている俺でもわかんねぇことだらけだし。ああそうだ、俺も聞きたいことあったな。
「なぁ、あの二人って今までどんな配信してるんだ?」
「うーんとね、あ! じゃあ今から見よー!」
ココがノリノリでユーチューブを流し始めた。俺もかえでが流していたのを聞いてはいたが、もう一度聞き直すか。とは言っても一から文字におこすととんでもないことになるので概要で。
まずは2週間前の金曜日、最初の放送だな。ここではチャンネル開設とユーチューブ配信をした理由とさらにテレビデビュー、歌手デビューのことが話された。いややっぱどう考えてもやりすぎな気がするのは俺だけか?
そして後半は事務所に届いていたお便りを読んでそれに答えるという感じになった。そのお便りの内容だがまず最初は事務所のマネジャーから。“SAKU-KAYOはどこを目指しているのですか”というものだった。のっけからかなり難しい質問だな。記者会見で出されるような質問だ。で、それに対して二人の回答はある意味自分らしいというか全くぶれなかった。“私たちが目指すもの、それはもちろんてっぺんですよ。それ以外ないです”これが咲夜さんの回答、“世界一だ。上るところまで上ってやんぜ”これが夏夜さんの回答。ほんとぶれないなぁ。
次の質問はファンからで美貌の秘訣は何ですかというものだった。誰もが気になっている美貌についてどう答えるのかと思ったが特に隠すこともなく話していたと思う。ここで確定じゃないのはあの二人が答えた内容が疑問を覚える内容だったからだ。“特に考えたことないですね。気が付いたらこうなっていました”まぁそんな感じはしていたがそれで納得できるのはほんと間近に見てきた人しかいないんだよなぁ。でも補足としてこんなことも言っていた。“でも皆さんに伝えたいことは美貌に絶対はないんです。これが理想だとか憧れだとか、そういうものは自身の考えであって人それぞれなんです。なので、私から皆さんにアドバイスすることはあまり出来ません。もちろん個人的にアドバイスしてほしいというのでしたらお答えします。そうですね・・・あ、共通することあった。皆さん、無理していませんか? 例えば体形を保つために無理なダイエットするとか必要以上のお金をかけるとか。そういうのは絶対ダメです。無理して得られる美貌はその時のものでしかないです。継続性がないです。なので長く続けるために、無理なく皆さんにはやってほしいと思います。それが私から皆さんに出来るアドバイスです。あ、そうそう、さっきアドバイス欲しい人はってお話しましたけど欲しいという方は私たちのアカウントにDMでもしてください。もしかしたら皆さんのところに行って直接アドバイスするってこともあるかもしれないですからね”・・・咲夜さんがスゲー真面目な回答をしていた。こういうところでやっぱ咲夜さんすげぇなって思う。でも残念なのがやってることが俺たちの知らない次元でってことだ。今言った話だってあくまで咲夜さんの個人的な見解でしかない。これみんなできるか? 無理するなって言うけどじゃあ今の咲夜さんと夏夜さんは無理してないのか? あの超過密スケジュールで。あ、もしかしてそれも無理ではないほど超人ってことか。一方夏夜さんの回答だが“美貌の秘訣? 知らねぇよ。別に気にしたことねぇしよ”そうだろうと思った。その後咲夜さんに怒られて渋々答えることになった。とは言っても考える時間が結構あってそして絞り出したのが“わっかんねぇけどあれじゃねぇの。好き嫌いしねぇとか。ほら、おとうだって言ってただろ。好き嫌いしてっと育たねぇぞって。アタシにはそんくらいの事しかわかんね”適当だな夏夜さん。でも夏夜さんの言うことにも一理あるらしく咲夜さんが補足説明した。“確かに好き嫌いしないことは大事よねぇ。私だって苦手な運動もしてるし。夏夜だって苦手な勉強も嫌々やってたし。それと美貌ってどう関係あるのって思ってる人も多いかもしれないけど、その好き嫌いってね結構第一印象としてとらえられることが多いのよ。例えば目の前に男性が二人いたとして一人が容姿はそんなでもないけど言われたことはちゃんとやって好き嫌いもない、真面目で誠実な人。もう一人が結構イケメンだけど好き嫌いが激しくてあれこれ結構文句言ってくる人。みんなはどっちを選ぶかってことよね。好き嫌いって外見の次に見えやすい要素って言っても過言じゃないでしょ。性格とかは判断まで時間かかるし猫かぶることもできる。でも好き嫌いはそうはいかない。これは決定的な弱点にもなりえる。だから好き嫌いをなくすってことは弱点を減らすこと。完璧とまではいかなくても人が求める理想、自分が求める理想には確実に近づけるわよね。だから好き嫌いを減らすことは大事って言いたいんでしょ?”何でそこまでわかるの? 俺の感想だがこれと同じことを配信中の夏夜さんが言っていた。でも好き嫌いをなくすことかぁ。俺はちょっとくらい欠点あった方が人間らしくていいと思うけどなぁ。それも人それぞれだが。
次の質問はおうちの中見せてというものだったからこれは来週お見せしまーすということになって。え? いいの見せちゃって。プライバシーとかいいの? まぁ本人がいいって言うならいいか。
次の質問はお決まりのスリーサイズを聞くものだった。これお決まりってなんだよと思った。しかもそのスリーサイズ今ここで測ろっかとか言い出したからびっくり。これ配信止められる案件だよ。さすがに思いとどまったので一線を超えることはなかったが直近のスリーサイズ+身長体重は完全に公開した。何の抵抗もないのか?
他にも質問があったのだがこれ以上はやめておこう。
そして二回目の放送は先週金曜日。そこではその週の日曜日、テレビ出演の経緯や今後について話していた。夏夜さんがコーナーを持つことになったこととか。で、そのコーナーというのが「KAYO、アスリートへの道」というものだった。ついにアスリートになるのね。いや、あんな何でもできるんだったらどの競技でもアスリート出来るよ。そしてそのアスリート企画の番外編というか未公開映像をこのチャンネルで流していくらしい。その辺は番組との打ち合わせも済んでいるという。そして後半は先週のお便りから、おうち大公開を行った。あくまで家の中だけ、そして家の場所が特定されるようなものは映さないという条件はあったがあの二人の家が公開された。チャットの反応がすごかったという。そしてびっくり、ネットニュースにも載ったらしい。あの二人ほんと何してんだ・・・。
そんな感じで配信を振り返った。あれ? 今日も配信あるじゃん。
「やっぱりすごいです」
「ほんとすごいよね」
うん、すごいのはわかる。
「なぁ、これってSAKU-KAYOの二人が映ってるんだよな。じゃあ撮ってるのって」
「あ、知らないの? これ撮ってんのさーちゃんだよ」
「何で知ってんだよ」
「さーちゃんから聞いた」
そうだとは思った。以前に打ち合わせや機材チェックをしているとは言っていた。でもまさか撮るまでやっているとは。かわいそうに。
「え⁉ これさーちゃんが撮ってるの⁉ すごっ!」
確かにすごいな。そうか、これあれだ。練習って意味で付き合わされてるんだ。だとしたらほんとかわいそうだな。
まぁその撮影のことはいつでも聞けるからいいよ。俺としては気になることは別にある。
「奈々、聞きてぇことがあるんだが」
「あ、はい。わかっていますよ。退院日についてですね」
「退院日? 決まったの⁉」
葵とココが驚いているがそれについては事前に知らされていたから俺は特に驚くことはない。
「退院日は・・・・・・来週の水曜日になりました!」
「おめでとー!」
ココと葵、わたりんも喜んでいるが来週の水曜日って確か・・・
「終業式の日か」
「そうです。ぎりぎり間に合いました」
「間に合ってよかったよー!」
確かに間に合ったのは良かった。でも次の日から夏休みか。あまり話せることもなくなるな。
「それでですね・・・退院日なんですけど・・・」
「絶対行く! みんなも連れて!」
「待て。時間はどうなんだよ。退院する時間が先か終業式が先かによって変わってくるぞ」
「えっと、退院の時間が先になると思うので、皆さんとお会いするのは学校でということになりそうですね」
「じゃあ絶対呼びに行くから!」
「私も行くよ!」
「なら今度会うのは学校でってことになるな。あいつらにも言っとくわ」
「ありがとうございます。その・・・次会うときは私自分の足で行きます」
「だから見守っていろってことだろ。わかってるって」
「ありがとうございます」
そして奈々の頭を撫でる。変な視線を感じるがいい加減慣れてくれ。別にいいだろ撫でるくらい。
ということで奈々の元気な姿を見る・・・ことは出来ていないが聞くことは出来たのでひとまずは良しとしよう。
× × ×
奈々とどれくらい話しただろうか。結構話した気がする。なんせずっと会ってなかったからなぁ。帰るのが結構遅くなってしまったようで今の時間は聞くところによると夜7時を回っているらしい。
明日は・・・何もないはず・・・だったのに・・・。なぜか学校に行かなければならない。何で? 休日だよ? 休む日だよ? でもまぁ前半はさておき、後半はまだいいか。はぁ、せっかくの休日が・・・。
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