それぞれの視点 矢島かえでver. - 103日目 -
テストも順調に終わってやっと部活に集中できる。でもその部活もあと少しで終わってしまう。だからこそ私は最後の部活で最高のプレーをしたい。だからお兄ちゃんに頼んだ。お兄ちゃんに頼むのはいつぶりだっただろう。目が見えなくなってからは多分していない。出来なかった。苦労しているお兄ちゃんにさらに苦労を押し付けるなんて。でも今は違う。確かにお兄ちゃんは今も苦労していることはわかっている。そばで見ているからこそ違うってことがわかる。だからかな。お兄ちゃんに頼み事言えたのは。私のわがままになっちゃうけど。でもお兄ちゃんは聞いてくれた。嬉しかった。だから私はそれをプレーで返す。良い報告が出来るように。
そう意気込んで迎えた土曜日。約束の日だ。夏夜さんとお兄ちゃんのクラスの人とバスケをすることになっている。昨日も部活をした。みんなには悪いけど張り合いがなかった。みんなも最後の部活だから頑張っているのはよくわかる。でも私には私の練習が必要なんだ。自分を磨き上げる努力が。そしてチームに貢献する。だから今回お願いした。
そんなことを考えているとお兄ちゃん達の行っている高校に着いた。私もここに行きたいな。・・・誰もいない。勝手に入っちゃっていいのかな? でも関係者以外立ち入り禁止って書いてあるし。えーっと・・・
「あ、いたいた。かえかえー!」「時間ぴったりだな。さすがかえでちゃん」
「あ、こんにちは。今日はよろしくお願いします」
「それを言うのは俺たちじゃないだろ。じゃあ行こっか」
慎さんとアオさんが迎えに来てくれた。その二人についていくと到着したのは大きな体育館。
「皆さーん。連れてきましたよー」
アオさんが呼び掛けた体育館の中には人がいっぱいいた。えっと、咲夜さん、夏夜さん、さーちゃんさん、体操着の人がいる。あの人が菊池さんかな? あとはお兄ちゃんと・・・咲夜さんとお話してる人が二人。人多い。
「あ、あの! き、今日は、私のわがままに、つ、付き合ってくださり。ありがとうございます!」
「気にすんなよ。ほら、さっさと準備運動しろ。かえでの実力を見てやる」
「あの、初めまして。お兄さんと同じクラスでバスケ部の菊池華と言います。今日はよろしくお願いします」
「こ、こちらこそ。よろしくお願いします」
夏夜さんはやる気満々だ。そしてもう一人。私に挨拶に来た人が菊池さん。私の先輩になるかもしれない人。そんな人にプレーを見てもらうなんて。緊張してきた・・・。
夏夜さんに言われた通り準備運動をしていると咲夜さんと知らない人が二人私のところに来た。
「かえでちゃん、頑張ってね。夏夜に勝ったらもう怖いものないからね」
そんなに夏夜さんすごいの? わくわく感も湧いてきた。
「えっと、私の両サイドの二人はただ見に来ただけだから気にしないでいいからね」
「咲夜、先生に向かって随分なこと言うなぁ。私先生やで?」
先生? もしかして・・・
「もしかしたらお世話になるかもしれないからね。この人は小林先生。この学校の先生で夏夜は3年間小林先生に教わってたんだよ」
この人がうわさに聞いてた小林先生。えっと、何話したらいいんだろう。
「あ、あの、・・・その、えっと・・・」
「せやな。今の3年が卒業して異動がなければ! もしかしたら私が先生になるかもしれへんな」
そっか、入れ替わりでもしかしたらそんなことになるかもしれない。だったらなおさら先生の前で変な姿は見せられない。
「それでこっちが私たちSAKU-KAYOのマネジャー。かえでちゃんすごくいい子なんですよ。もしよかったら進路先の一つとしてかえでちゃんの席空けてもらえませんか?」
え? 嘘・・・。SAKU-KAYOのマネジャー? SAKU-KAYOの生みの親。このお二人を見つけた人・・・。
「ごめんごめん。そんな緊張しないで。私そんな大層な人間じゃないよ。だって町中をこの二人が歩いていたら誰だって注目するでしょ。だから緊張しないで。震えないで。ほら、今はKAYOと一緒にやるんでしょ」
そうだった。一瞬神でも見たかのような感じになってしまった。今はバスケだ。この人とは終わった後話そう。今の私だと・・・衝撃が大きすぎて何話したらいいか全然わからないから。
私が準備体操をしているとき慎さんとさーちゃんさんはバスケのシュートをしていた。そこにお兄ちゃんとアオさんもいるけど。なんかすごくいい感じ。高校生の生活ってこんな感じなんだって感じがする。・・・何かズルい。
一方の菊池さんと夏夜さんは私が来てからなのか、一切バスケをしていない。みんなのいる前で見せたいからなのかな。
「よし!」
準備運動も終わって体育館の端っこにあったカゴからボールを1つ取り出す。あ、こんな感じか。すぅー・・・ふぅー・・・。やっぱりボールを持っていると落ち着く。さっきまであった緊張も自然と解れていく感じがした。
「かえでちゃんでいいのかな?」
「あの・・・皆さんからはかえかえって呼ばれているので、その、もしよろしければ菊池さんもかえかえって呼んでもいいです」
「それじゃあかえかえ。まずは自分の好きにドリブルしてみてもらえるかな。あ、私は華さんでいいからね」
「は、はい。よろしくお願いします」
みんながいる前でドリブルしてシュート。練習でも試合でもやってきたけどこの場はそのどっちでもない独特な感じがする。ちょっとフェイントかけてみようかな。誰もいないけどくるっと回ること、自分の下にボールを通すことくらいは普通に出来る。何かみんなから注目されてる。最後にスリーポイント! 決めたら拍手が起きた。・・・恥ずかしい。
「すごいよ! 私から教えることなんてないよ!」
「そ、そうですか?」
「もしよかったらだけど私と1on1してもらえないかな?」
「はい、喜んで」
そして華さんと1対1で対戦する。やっぱり高校生ということもあって私がどう動くかよくわかっている。フェイントをかけようとしても嫌なところにいるから前に出られない。でも、私の持ち味はスピードだ。だったらスピードで追い抜く!
「やった!」
「早いよかえかえ。スピード選手か。私は不利だー」
「ということはディフェンスですか?」
「そうそう。でもかえかえ早いから止められないよ」
「でも高校生ってやっぱりすごいんだなって思いました。私が出ようとしても嫌なところにいたのでスピードで抜けるか不安でした」
「部活でもスピード選手は何人かいるけどかえかえがもしかしたら一番強いかも」
「そうなんですか?」
「うんうん。うち入ったらレギュラー間違いなしだよ」
そうなんだ。確かにスピードは私の武器だけど。
「でも一つアドバイスするとね、かえかえ、バスケはチーム戦だから一人が強くてもダメなんだよ」
そうだ。全員が強くなければ意味がない。その全員の中には私も入っている。だから
「チームで見てないからよくわからないけど。かえかえってあまりパスしないでしょ」
図星だった。全然しないというわけではない。私だってするときはする。でも私にボールが回ってくるときは大体シュート前か突破したいときだ。だからパスをする機会があまりない。
「さっきのドリブルも1対1でやっているけどその間も常に周りを気にしなくちゃダメだよ。そう意識することが大切なんだから」
「はい。勉強になります」
本当に勉強になる。私たちは個々の力を高めるために部活をやっている印象があった。中学生だとまだまだ実力不足だからって聞いて。でも違かった。やっぱりバスケはチーム戦、私だけ強くてもダメなんだ。だから今日教わったことは絶対みんなに教えよう。
その後も華さんと対決していた。でも私はわかっている。その様子をずっと夏夜さんが見ていることを。まるでコーチ、監督のような目で。
「おーっし、かえで、華。こっからはアタシも参戦だ。お前ら二人でアタシからボール取ってみな」
「え、でもそれだと2対1に」
「あ? アタシが不利だって言いてぇのか。じゃあやってみっか。今にわかるからよ」
ボールを持っている夏夜さんが不敵の笑みを浮かべている。すごく怖い。でも私はバスケ部、華さんもバスケ部、対して夏夜さんはバスケ部じゃない。だったら絶対ボール取れるはず・・・
「何あの人・・・」
「かえかえと菊池さんってバスケ部だよね・・・」
お兄ちゃんとアオさんの感想がこんな感じ。うん
「すごいな。聞いてた以上に」
「かよ姉だからな」
私もそう思います、慎さん。夏夜さんだからって理由もわかります、さーちゃんさん。
「あーあ、まーただよ」
「KAYOのポテンシャルってほんと底知れないですね」
「ですよね。これならテレビ企画も長持ちすると思いません?」
小林先生、マネジャーさん、咲夜さんはこんな会話をしている。
「おいおい取れてねぇぞ?」
「はぁ・・・はぁ・・・」「嘘でしょ・・・、何で・・・」
ボールが全然取れない。二人相手にしてるのに。まるでボールが自分の一部であるかのような動き方をしている。そしてゴール前まで行って軽々とシュートを決める。これの繰り返しだった。ボールを取ろうと手を出しても次の瞬間にボールが離れていく。夏夜さんに当たってバランスを崩そうとしてもフィジカルで勝てない。そしてシュート、打点がすごく高いから届かない。おまけに結構長い時間やってるのに全く疲れていない。
「どーした? その程度か、あぁ?」
夏夜さんは息切れしている私と華さんの前でボールをくるくる回しながら挑発してきた。いつもだったらその挑発に乗ってその相手を打ち負かすのが私なんだけど今回は違う。全く勝てる気がしない。
「ど・・・どうしてそんな強いんですか」
華さんの言う通りだ。何もかも私たちの上をいっている。どれ一つとして私たちの勝てるところがない。
「どうしてか。あー・・・気づいてたらこうなってたな」
圧倒されて声も出ない。しかもこんなできるのに夏夜さんはバスケ部じゃなかった。お兄ちゃんが言っていた別次元の人間っていう表現がすごくしっくりくる。
「最後はやっぱこれだな」
夏夜さんはそう言うとゴールからどんどん離れて行ってハーフラインのところで止まった。まさか・・・と思っていたらそこからシュートを打って・・・
「シャアッ! 完璧だったな」
一発で決めた。ハーフラインはそもそも距離があるからシュートするにも結構力がいる。そして制球力、ボールをコントロールする力も必要だ。でも今見た夏夜さんのシュートは、完璧すぎるシュートだった。言葉が出ない。
「SAKU、本当にKAYOってモデルでいいの? 宝の持ち腐れって感じがしてきたんだけど」
「マネジャー、そんなこと言っちゃダメですよ。それに夏夜はモデルとしての素質もピカイチじゃないですか。私と同じくらい」
「自分でそれ言うんかい」
「あ、夏夜ー。今のシュート動画撮ったから。あとでアップするねー」
「はぁ? 勝手にアップすんじゃねぇよ」
「今夏夜に言ったから勝手じゃないわよー」
「ちっ、勝手にしろ」
咲夜さんとマネジャーさん、あと小林先生と話している反対側ではアオさんと慎さんが固まっていた。さーちゃんさんはいたって普通の反応。お兄ちゃんは今起きたことがよくわかってなさそう。さーちゃんさんから説明を受けている。
「まぁアタシはこんなところだ・・・てだいじょぶか? おーい」
私もしばらく状況がつかめていなかったけど夏夜さんに強めに頭を撫でられてようやく状況が理解できた。華さんも同じ感じだった。
「あの・・・か、夏夜さんってバスケ部だったんですか?」
「あ? ちげーよ。アタシは剣道部だ。こう、メーンッ!! て感じでよ」
夏夜さんが「メーンッ!!」って言ったときにすごい声と足の音、そして迫力がしたから全員がびっくりしてた。私もそう、心臓止まるかと思った。
「かよ姉、みんなを脅かすな。見てみろ」
そう言ってみんなの方を見てみるとアオさんはなんかすごく息切れしてる。慎さんも似たような感じ。びっくりしたからだと思うけど。お兄ちゃんは何でしゃがんでるの? 撃たれたんじゃないんだから。咲夜さんたちは三人で抱き合ってた。
「あぁ? 別に驚くことじゃねぇだろ。面一発くらいで」
「急にやるな。さく姉だってびっくりしてるだろ」
「じゃあしてやったりだ。いっつもさく姉にしてやられてっからな」
「あとでどうなっても知らないぞ」
「ちっ、アタシとしちゃ咲彩も脅かそうと思ったんだけどな。ほんと驚かねぇよな」
「今まで何度私がこの手のドッキリに巻き込まれたと思う? さっきのだってやるだろうなってわかってたし」
「そっか、じゃあ咲彩も気づかねぇようにもっと考えなきゃなんねぇな」
さーちゃんさんだけ驚いてなかったのはそれが理由だったの。でも夏夜さんとさーちゃんさんがこうやって並んで話しているとやっぱりすごいんだって思う。
「それよりもバスケのこと言ったら」
「ああそうだった。たく、咲彩が話し逸らすからよ」
「私は逸らしていない」
「アタシがバスケで言えることか・・・さっき華が言ったこと以外はあんまねぇな。ああそうだな。さく姉、アタシのプレー撮ってくれたって言ったよな」
「言ったわよ。もう、脅かすときは私に一言言ってからにしてよね」
「はっ! 言ってやっかよ。その動画をやっからプレーの参考にでもしな。ああでもアタシとかえでと華じゃ体格がちげぇか。むずいな。でもアタシを一つの目標にすんのいいかもな。それ目指してやれな」
そう言われて夏夜さんに頭撫でられた。でもよくわからない。目標にしたい気持ちはある。でも高すぎる。プレーを盗むにしても真似するにしても技術力が全然違う。
「あの、夏夜さんがプレーで意識してることとかありますか?」
華さんが質問した。私もそれが知りたい。
「意識してること・・・バスケに限った話じゃねぇんだけどよ、常に先を読んでるな。なんかスポーツになるとそういうの出来るんだよなぁ。だから相手がどんなことしてくるかもある程度はわかる。例えば目線とかちょっとした動きとか見てな」
だとすると夏夜さんはものすごく視野を広く見てるってことなのかな。でも特に試合の時ってなるとそこまで頭が回らないことが多い。目の前の事に全力になっちゃう。
「まぁこれ出来るようになんのは相当やんねぇと無理だからな。アタシから言えんのは目の前の事を着実に、全力でこなせってことくらいだな。でもただやみくもにやっていいってことじゃねぇ。考えてやることが重要だ。例えばこのプレーはどんな意味でやってんのかとかどうすればもっとよくなんのかとか。それを部活で意識してやりゃ自然と結果もついてくると思うぞ。でも意識しすぎてプレーが疎かになんのはアウトだかんな。あとはさっき言ったチーム意識だ。アタシはそういうの向いてねぇからあまり言えたことじゃねぇけどよ。チームは大事だ。だから絶対にチームを信じろ。パスするときもシュートするときも、絶対に決めてくれるって信じて渡せ。かえでなんかは信じてもらってボールをもらってんだ。だったら決めてやるって気概をもってプレーしなきゃダメだ。実力がねぇとか伸びねぇとか言ってるけどよ。かえでは十分実力はある。かえでを指導したやつに感謝しなくちゃな。まぁまとめっとだな。仲間を信じろ、己を信じろ。一歩ずつ考えて積み重ねろってことだ。あとは今日アタシから聞いたことをその仲間に教えてやれ。モチベも変わるだろうからよ。そしたらかえでにとっても充実した練習、そんで集大成が迎えられんじゃねぇか? 華もだ。高校だとレギュラー争いとかあんだろ? だったらかえで以上に、あと他の誰よりも努力しねぇとダメだ。自分が一番上だからって努力を怠るとすぐ蹴落とされるからな。蹴落とされねぇために研鑽しろ。アタシが言いてぇことは以上だっておいさく姉。録画してんじゃねぇよ」
「いいじゃない。夏夜にしてはすごーく良い事言ってたんだから。全国の高校生に言ってあげたいくらいよ。あそうだ! 今言ったこと原稿にするから今度の動画配信で高校生に向けて言おうよ。それがいいうんうん」
「勝手に決めんじゃねぇよ」「私は無関係だから知らない」
「おい咲彩ぁ。逃げんじゃねぇよ」「何で私も配信に付き合わなくちゃならないんだ?」
「さく姉の暴走を止めるためだ。アタシ一人じゃ無理だかんな」「はぁ・・・」
さーちゃんさんは・・・うん、頑張ってください。でも夏夜さんの言葉はすごく響いた。顧問やコーチに言われるのとはまた違う感じがしてものすごく刺さった。私は知らない間に独りよがりな考え方をしていた。だから華さんと夏夜さんはチームだってことを言ったんだと思う。そしてこの後どう取り組めばいいかも夏夜さんは教えてくれた。だったら私は夏夜さんに言われたこと以上のことをみんなでやる。そして、有終の美を飾る!
「おいてめぇら何拍手してんだ、あぁ? ぶっ飛ばされてぇかぁ?」
「ちょっ! 待って! 俺たち普通に感動したから拍手してんのに何で殴られなきゃなんないんすか⁉」
「やめてください! 殴るなら光ちゃんだけにしてください。私と慎ちゃんは光ちゃんに言われてやっただけですから」
「てめっ! 俺を売りやがったな」
「よかった。俺も殴られずに済んだ。光ちゃん、あとは任せた!」
「任せたじゃねぇよ慎てめー・・・」「つーかまーえた」
「ちょっ! 暴力反対! 小林先生! 止めてください!」
「無理やね。止めたら私に飛び火するさかい」
「それでも教師ですか⁉」「ちょっと来いや」
そう言われてお兄ちゃんは夏夜さんに舞台袖に入る部屋に連れていかれた。お兄ちゃんは一度懲らしめられた方がいい。だから夏夜さん、やっちゃってください。
「さてと、かえでちゃん。今日はどうだった?」
そんなこと、言うまでもない。
「とっても勉強になりました! ありがとうございます!」
「私もありがとうございます」
勉強どころじゃない。一つの思い出として残ったし絶対に忘れない。この貴重な経験を胸に、私は最後の大会に臨もう。
そのあと少し雑談をしてみんなで解散することになった。その途中で咲夜さんと夏夜さん、咲彩さんと並んで写真を撮られた。それを見たマネジャーさんはすごくいい! って言ってたけどなんか恥ずかしいのとこの三人に並んでいいのかっていう感じがあった。だって私だけ身長低かったし。嬉しかったのはあるけど。
その帰りは慎さんと一緒だ。アオさんは菊池さんと帰るようで今日は家に来ない。あとお兄ちゃんだけど、なんか肩落としてる。
「なぁ光ちゃん。何でそんなしょぼくれてんだよ。夏夜さんに連れていかれた後からずっとそんな感じだぞ。しょぼくれるツボでも押されたか?」
「そんなんじゃねぇよ」
「どうせ思いっきり殴られたんでしょ」
「殴られてねぇよ。いくら夏夜さんでもその辺のことはちゃんとわきまえていたようだからな。でもなぁ・・・」
「別に言ってもいいじゃんよ」
「いや、ここじゃ言えねぇな。かえでがいるし」
「は? 私いちゃダメなの?」「かえでちゃんに言っちゃダメで俺になら言っていい。そして言った張本人は夏夜さん。ははーん、何となくわかったぞ」
「慎の予想で大体合ってる。何で俺までこき使われることに・・・」
なんか私だけ外された感じがしてなんか嫌だ。
「二人だけの内緒話なんてズルい」
「悪いなかえでちゃん。こればっかりは言えない約束になってるんだ」
「そういうことだ。だから腕を強く掴むな」
仲間外れになった感じでなんか嫌だ。あ、
「待ってお兄ちゃ・・・」
「いった! あ? 何だこれ? 思いっきり顔打ったんだけど」
「くふふっ、光ちゃん最高! 面白いもの見たわ」
「お兄ちゃんごめんッ! でもッ!」
掴んだ腕を放そうとして私と距離離れたら道路脇の電柱に顔からぶつかった。面白すぎる! クリーンヒットだった。お兄ちゃん顔おさえてるけどごめん。面白すぎて! ただぶつかっただけでも面白いのに当たった電柱に八つ当たりしてるからさらに面白い。
「何で俺だけこんな目にあわなきゃなんねぇんだよ。誰だこんなところに電柱なんか設置したやつ。電線なんか地中に埋めろよ。邪魔でしょうがねぇ。市役所に苦情言ってやろうか?」
それを言ってる相手が私たちじゃなくて電柱だからすごくシュール。シュールの使い方合ってるかな?
電柱を蹴って八つ当たりを済ませたあと家路についた。今日のことは忘れないようにしよう。バスケのこと、夏夜さんに言われたこと、あとさっきのお兄ちゃんも。もう何回も言ってるけど私の部活はこの夏の大会で最後。だから全部全力でみんなと頑張る! 悔いが残らないように。
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